「初めての人生の歩き方――毎晩彼女にラブレターを」(有原ときみとぼくの日記) 第77話:怒りは悲しみに、悲しみは不安に、不安は笑いに。

 朝、いつもは六時ぐらいに彼女から「おはよう」のラインが来るのに、今日はスマホが鳴らなかった。
 そんなときは六時四十分に彼がモーニングコールを入れる。

「おはよう。……電話ありがとう」

 寝起きの少し枯れた声は、起きたばかりのふわふわしている感じも手伝って妙に色っぽく聞こえる。
 そんな声も彼は好きだった。
 しかし、今日はその声は聞こえてこなかった。

「……出ないな」

 いくら電話しても彼女は出なかった。
 普段の彼女は電話を掛けたら絶対に起きる。
 お酒も飲まないし、そこまで朝も弱くはない。
 しかし、出ない。
 これが寝坊だったら珍しいなと彼は思った。
 その珍しさは、彼の中の感情を徐々に変えていった。

 心配はいつか不安に変わっていく。

 彼はスマホ本体に電話をかけた。

「――ただいま、電源を切っているか、電波の届かない場所にいるため、おかけできません」

 何度かけても同じ声が響く。
 ラインも相変わらず既読にならない。
 彼は考えた。
 いま、自分ができることは何だろう。

 もうこれしかない。

 
 彼は念じた。
 こうなったらもう祈るしかない。
 彼女のラインの画面を開きながら、習いたての氣を送る。

「起きろー、目覚めろー、朝だぞー!」

 もう彼の中では不安がむくむくと大きくなっていた。

 本当にただの寝坊だろうか。
 なにか事件に巻き込まれたのでは……。
 彼女はいま生きているのだろうか。

 連絡が取れないというだけでこんなも不安になるとは思ってもいなかった。
 彼は過去、自身がしてきた行為を無意識に振り返っていた。
 頻繁に酒を飲み、倒れるように眠り込む。
 当然連絡はしばらく放置していた。

 彼女もこんな不安な気持ちをいつも感じていたのか。

 彼は申し訳ない気持ちと、不安な気持ちからトイレに籠った。
 そして出てくる頃、すっきりしたのと同時に気持ちを切り替えた。
 離別感。
 彼女の人生は彼女のものだ。心配だし不安だけど、彼女がもし遅刻しても自分には影響がない。もし、万が一にでも事件や事故に巻き込まれていたら、時間はかかるかもしれないけど、ただ受け入れて悲しむだけだ。 
 彼は机に戻って朝のブログを再開した。
 そのとき、ラインが鳴った。

「おはよう。ごめん! 電源切れてて今起こされた」

 よかった。
 彼は心からそう思った。

 当たり前は、当たり前なんかじゃない。
 朝、目が覚めること自体、本来は奇跡なんだ。

 彼女はその後ぎりぎり会社に間に合ったそうだ。
 彼はその後そのまま家で作業を続けた。

 そんな中、今度は彼の意識が飛びそうだった。

「眠たい……もう限界……」

 限界は、限界だと思った瞬間、ふいにやってくる。

 今日もいい天気だ。

 今日も世界は奇跡的だ。

 焦ったよ、きみに電話が繋がらなかったときは。
 でも本当に間に合ってよかったし、生きててよかったよ。

 俺、少し考えていたことがあって、小説がぼちぼち完成して、音楽でも日銭稼げるようになったら、

 吉本総合芸能学院、通称NSCに通おうかと思っている。

 まだ一年以上先の話だけど、今日、ふと思ったんだ。

 なんとなく。

 だから、多分そのときになったら忘れているとは思うけど、もし急に思い出して願書出すとか言い出したら、なんか優しい言葉をかけてほしいんだ。

 うん、今日も一日お疲れ様。

 疲れているんだ。
 寝よう。
 自分に素直に、自分に正直に。

 大丈夫、遅刻ぐらいで人は死なないし、そんなんでグダグダ言ってくる心と器の狭い会社なんてどのみちお先真っ暗だよ。

 昨日、ぼくの職場の社員さんなんて連絡がつかずに二時間も遅れてきたんだぜ?笑
 しかも社員会議の日だったんだぜ?

 いやー、笑ったよ。
※不謹慎でごめんさい!
 その方にぜひ動画を取りながら会議室に入って行ってもらいたかったけど、それは断られた。
 残念。

 でも、そんなこと言っても、寝坊したら焦るし怖いもんね。
 よく頑張ったよ。
 お疲れさま。
 前向きな反省はしてもいいけど、自分を責める必要は全くないからね。

 それは約束して。

 今日もよく頑張りました。

 ゆっくり休んでね。

 寝坊するきみも愛してるよ。

 本当にきみは焦らすのがうまいんだから。

 おやすみなさい。

 初めての人生、遅刻もそうだけど、

 まさかのパンデミックに遭遇するなんて誰が思うだろうか。

 みんな初めての人生だから、どう対応したらいいのか分からないんだ。

 だから仕方ないよね。

 一世帯マスク二枚の配布でも。

 誰か教えて。

※政治家の仕事ってなんだっけ?

 いま、結構腹が立っています。

 マスクで家賃が払えるかってんだこんくちょー!

 マスクで腹が膨れるかってんだてやんでい!

 でも、それはこの国が好きだから。

 期待するから腹が立つ。

 でも、期待しちゃう。

 そんなに腹立つならなにか動けよ、おれ。

 え、立候補?

※立候補ってどうやんの?

 でもこれで大丈夫。

 初めての人生なんだ。

 いろんな体験をして、いろんな苦しみと楽しみを味わって、

 生まれてきてよかった!

 もうやり切ったぞ!

 と言ってあの世に旅立ちたい。

 それは決して楽ではない。

 楽と楽しいは真逆の言葉だから。

 あなたはどうする?

 日本、いいよね、なんとなく。

 できることを、みんなができることをすれば、

 この国はウイルスなんかに負けやしない。

 マスク二枚上等。

 布の上に出っ歯の絵を書いて、NSCに殴り込みだ。

 ※ごめんなさい。嘘です。まだそんな度胸はありません。

 お笑いってすごいよね! 

 不安を笑いに変えてしまおう。

 YouTubeでおハナ坊でも見て寝ようかな。

 不安?

 そんなの吹き飛んだよ。

 あ゛ーーーーーーーーあ゛っ!

 明日も一日あなたは信じられないぐらい、ありえない幸福をたくさん受け取る自分を受け入れ、認め、許し、愛しました。

 おめでとう。

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