「初めての人生の歩き方――毎晩彼女にラブレターを」(有原ときみとぼくの日記) 第81話:成長、そのさきにある彼女の笑顔を夢に見て。
新しいことはいたるところにある。
新しく挑戦するのに場所も時間も問われない。
問われるのは、あなたの好奇心ただそれだけだ。
と、名言っぽいことを思いついた彼は、今日も一日を振り返る。
朝、公募に応募するための詩の制作に取り掛かるも、ものすごいハイペースで終わってしまった。しかもものすごく素晴らしい出来になった。
もしかしたら俺は天才かも、いや、きっと天才だろう。こりゃゆくゆくは総理大臣に違いない、と一通り妄想をして、続いて小説に取り掛かる。
好調な日。
それは青空がきれいすぎて不安になる日。
昨日から断食していた彼はもうお腹がぺこぺこ。
12時になり即ご飯の準備に取り掛かる。
大量の野菜、みそ汁、玄米、レトルトカレー。
これがもう美味しすぎて彼は一人部屋の中で唸りをあげていた。
そして合間合間に彼女にラインを送る。
昨日から彼はスタンプ内の文字を自分で書き込めるタイプのスタンプをダウンロードしていたので、絶対にこのキャラがそんなこと喋らんだろ! とむしろ引くぐらいの下ネタを連投しては「がっはっは!」と笑っていた。
これにハマりすぎて、むしろ彼女へのラインの8割は下ネタとなってしまった。
それでもただ下ネタを無視するだけで、そのまま会話をしてくれる彼女は本当に天使だと彼は思った。
お昼からは今日は音楽の日ということでひたすらギターを練習。
少しずつうまくなっていくのが自分でも分かる。それが彼には嬉しかった。
彼は昔から練習が大嫌いだった。
それはどうせ夢は叶わないという後ろ向きな気持ちと、もし練習して才能ないことが分かったら怖いという理由でだった。
彼はここ近年でたくさんの出来事を吸収し、そしてようやく努力すればある程度のことはできるということが分かった。
今の彼に怖いものはない。
オリジナルも順調だし、路上とYouTubeデビューに向けて着々と準備をしる。
怖いもの。
それは一歩踏み出す勇気。
ただそれだけだ。
夕方、彼は練習曲をまとめようと久しぶりにアイチューンズを立ち上げてiPodをつなげた。
朝の不安はここで的中した。
アイチューンズに入っていたデータが全部消えていたのだ。
もちろん過去に何度もあったパターンだし、データはすべてハードディスクに移行しているので問題はないのだが、復元の仕方をすっかりと忘れていたのだ。
それを調べるための検索やなんやかんやあってようやく復元には成功したけど、今度は曲が大量に重複していたのでそれを整理する作業に。
本当は夕方からどうしても見てみたかったNHKオンデマンドの「駅の子」という戦争孤児のドラマを見る予定だった。
彼はオンデマンド系を使ってみたことがなかった。
だから少しだけ新鮮味があってワクワクしていたのだが、それは諦めて後日にすることに。
それほどアイチューンズを元通りにするのには時間がかかった。
青空がきれいすぎて順調すぎる日は不安になる。
世の中はバランスよく成り立っているから。
しかし彼は新しいことに挑戦しようと、今日初めてクラウドファンディングの支援をしてみることにした。
西野亮廣エンタメ研究所で募集していた来月に開催されるオンライン講座のやつ。
(乱暴な説明でごめんなさい!)
値段は安かったけど、オンラインというのが初めてだったので少しドキドキしながら会員登録をして早速支援。
新しいことはいたるところにある。
新しく挑戦するのに場所も時間も問われない。
問われるのは、あなたの好奇心ただそれだけだ。
アイチューンズ含め、彼はどこにいようが成長できる時代だと確信した。
成長。
そのさきにある彼女の笑顔を夢に見て。
☆
明日から緊急事態宣言。
そうなったらもっと会えなくなるね。
でもその前に、早く会社を休んでほしい。
わざわざ大阪の市内まで電車に乗っていくきみが心配だ。
でも会社はなにもしてくれない。
特別休暇も申請しない。
でも安心して。
ぼくがなんとかするから。
ぼくはいまバイトすらろくに行けなくなったけど、絶対になんとかするから。
だから無理せず休んでね。
大丈夫。
考えはあるし、少しは蓄えもあるんだ。
なに、へっちゃさ。
家には玄米も玉子も味噌もある。
田舎者をなめてくれちゃ困るぜ。
(田舎者に謝れ!)
それと、ラインで下ネタばかり送ってごめんよ。
もうこれが楽しくて楽しくて止まらないんだ。
中毒だよ。
彼女にラインで下ネタを送り付ける中毒。
略してカラシオ中毒だよ。
醤油も大好きだしちょうどいいかもね。
ね、大丈夫。
さて、来年の桜を楽しみに、今年も手を繋いで歩いて行こう。
夏が来て、きみの苦手なスイカをぼくは食べるんだ。
秋になり、寒い中もみじが見たいとぼくが言い出すんだ。
冬になれば、年に一度は雪に触れるという訳の分からない家訓を持ち出すんだ。
今は、春。
きみはまた一段と美しくなったね。
愛してるよ。
おやすみなさい。
☆
初めての人生の初めての緊急事態宣言。
とくになにも変わらないとしても、
なんだか胸がどきどきしてくる。
こんなときだからこそ、
人の本性が出てくると思う。
お願いだから、
感染者を差別しないで。
彼らだってなりたくてなっているわけではないんだ。
明日は我が身。
誰にだって親がいるし子供がいるかもしれない。
自分の親、子に接するように、
みんなで協力していいきたい。
マスクやペーパーで店員に横暴な態度をとったり、
自暴自棄になって遊びに出かけないで。
みんな一緒。
この細長い国に住んでいる。
昨日、なんでか分からないけど、
「リーマンショックの真実」
という経済とかアメリカの覇権の実態を綴った本を読んでいたんだけど、
人は自分のためなら平気で人を傷つけるのかもしれない。
ただ、それは、本当にその人が望んでやっているのかは別だ。
罪を憎んで人を憎まず。
この時代に生まれてきてよかった。
そうみんなが思えるように、
ぼくたちは日々笑うんだ。
ぼくはこの国にこの時代に生まれて心からよかった思っている。
飢えて死ぬことはまずないし、
犯罪も少ない。
大好きな両親に育てられ、
いつでも好きなことにチャレンジできるほど文明が発達し、
そしてこの街で愛する人と出会えた。
大丈夫。
なにも怖くない。
一緒に進んでいこう。
この時代に、この歴史に残る出来事に、
いつかみんなで乾杯しよう。
そうしよう。
それがいい。
さて、
明日が楽しみだ。
明日も一日あなたは信じられないぐらい、ありえない幸福をたくさん受け取る自分を受け入れ、認め、許し、愛しました。
おめでとう。
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