「初めての人生の歩き方」(有原ときみとぼくの日記) 第42房:涙の吹奏楽
外は風が冷たく、気分はあまり高揚しない。
有原くんは昼過ぎに家を出ると、森ノ宮駅で彼女と子どもと待ち合わせ電車に乗った。
はじめての吹奏楽。
彼女はもともと吹奏楽部で中学から大学までかなりやりこんでいたらしい。
そのこともあって今日はみんなで吹奏楽を見に行くことに。
淀工グリーンコンサート。
知っている人は知っているらしい日本一の吹奏楽部が奏でる強豪校のコンサートだ。
それでも彼は浮かなかった。
風は冷たいし、なんとなしにみんなイライラしていた。
☆
開演。
彼女の吹奏楽の説明を聞きながら音に耳を傾ける。
彼は腐ってももとバンドマン。
音にはわりかし自信があったが、吹奏楽のコンサートは会場からして作りが全く違う。
楽器の数も、曲も、雰囲気も。
そしてそのどれもがずば抜けていた。
たとえはじめて吹奏楽を見る人間でも分かるレベルの高さ。
知識や経験などなくても魂に響いてくる感覚。
そういえば吹奏楽ははじめてではなかったのを彼は思い出した。
以前、彼女とある大学の吹奏楽を見に来たときがある。
今の今まで忘れていたのは、そのときの演奏がまったく響かなかったからだ。
「これを吹奏楽だと思わないでほしい」
彼女は確かにそう言っていた。
そしてその意味が今日分かった。
音の振動に合わせて、心が高揚していく。
☆
高校生が頑張っている姿。
今日で三年生は引退。
サプライズの楽曲。
お客さんを楽しませようとするエンターテイメント思考。
そしてその演出。
途中、「故郷」をお客さん含めてみんなで歌う場面があった。
そのとき、もう彼は泣いていた。
☆
この三年間、きっと苦しかったと思う。
普通の高校生活を捨て、レギュラーになれるかもわからない中、ひたすらに自分を、仲間を、先生を信じて日々を駆け抜ける。
その思いがきっと音に乘っていたんだと思う。
彼らの奏でる音はただの演奏ではなかった。
そこには彼らの青春があり、歯を食いしばるような努力があり、すべての物語があった。
今日が引退という三年生たち。
泣いている子もいた。
笑っている子もいた。
みんな顔を真っ赤にして明日の方角を見つめていた。
有原くんも明日を見つめていた。
だから彼の涙は清流のように透明だった。
☆
帰り道。
風は冷たいが、それがまた心地良い。
彼は今夜からまた生活を整え、夢に向かってあるき出すことを決意した。
心が燃えている。
また来年見に行くとき、果たしてどんな音に聞こえるのだろうか。
燃える。
夢のように。
冬の風。
乘っていこう。
奏でよう。
はじめての人生のはじめての吹奏楽での感動は、きっともう引き返せない人生の遠くから聞こえる道標だ。
歩こう。
弾こう。
彼らの高校三年間に。
心からの乾杯を。
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