語るより雄弁な「指一本での指導」について
今回は「語るよりも効果的な指1本での指導」というテーマを書いていきます。
トレーニング指導の基本は、「伝えて、見せて、感じてもらうこと」。
とてもシンプルなんですよね。そしてシンプルだからこそ、専門家も日々、試行錯誤をして、自分の技術・テクニックを磨いています。
大前提として、自分がきちんとデモができる必要があるというのは当たり前のことです。やって欲しいフォームや目的を伝えるだけではなく、ありがちなミスやこうやると危ないという駄目なデモ、「長くやっていくと膝を痛めますよ。」「腰に負担かかりやすいですよ。」といったことも同時に行えるようにしたいものです。
そのために自分自身の感覚に落とし込めるまで、自分がトレーニングを反復してやり続けるということも大事になりますから、トレーニング指導者は、自分が継続的にトレーニングをして研鑽を積む必要があります。
継続して研鑽を積み続けないと、当たり前ではありますが感覚もすぐ消えてしまうからです。
また、伝え方にも様々あります。既に何度かテーマにしましたが、「キューイング(声かけ)」のテクニックも具体的に勉強・研究されています。
自分の体の本質的なところ、内側に呼びかけていくような内的なキューイング(声かけ)をするタイプと、例えを上手く使ってイメージをしてもらう外的キューイングがあります。「後ろに壁があってそれをグーっと押しているようなイメージで。」とか、「上から天井が落ちてくるよ。両手でグーっと天井を上に押し上げるように。」みたいな感じが外的キューイングです。
触覚を利用した指導法
このように例えを上手に使って、感覚的にイメージを掴んでもらうものもありますが、その感じてもらうことと伝えることを同時にアプローチできるのが、触覚を使うという方法です。
分かりやすいのは、同姓だったらお尻の際のところを触って、「ここが硬くなるようにしゃがんでみてね。」と伝えたり、「ここの部分を鍛えるよ。」と言って、胸の上部のところをポンポンと当ててみたりします。
触覚を使う中でも、大きな余白を持って伝えられる、色んなことを相手に感じさせることができるのが、今日のテーマである「指1本を使う方法」です。
このアプローチを私は結構好んで使います。体を左右に分けるライン(矢状面)の動揺やエラー、インバランスをみる際に特に効果的です。
片足立ちをチェックすることが私は多いのですが、特に野球やサッカーの選手は、利き足、利き手といった片則性の動作が多いスポーツに関して、どちらかの脚で支える時に大きく横へ体重移動しすぎることがあります。
また、片脚で立っているようにみえて、実は倒れているだけ、体を横にずらしているだけということもあります。脚を上げているけれども、実際はヤジロベーのように体をグーっと大きく横に傾けることで、かろうじて脚を上げているという選手も少なくないんですよね。
もちろん重心移動を全くしないというのは難しいのですが、明らかに左右差や代償運動がある場合、これ以上は動いて欲しくないなという時に、腰骨(おへその横あたりにある腰の左右の出っ張り=上前腸骨棘)のあたりをちょっと指で押す。
もしくは「これ以上こないでね。」と言って、少し隙間を空けて身体の横に指を置いておく。
重心移動をするので触ってしまうこともありますが、そこを意識して指に当たらないように、あまり体を傾けないようにして脚を上げようとすると、びっくりするぐらい動けない選手が続出するわけです。
私が指1本を使って、「ここに当てないようにちょっと立ってみて!」という時は、大きな重心移動や代償運動、かばう運動が多い選手に対してのみ行います。
片脚立ちでは実際に立った後に、一番代償しているな、かばっているな、ここで支えているんだなという場所を見つけて、端的に代償運動をしているところに対して、真横から指1本でスッと本当に軽く押しつけるだけで、その選手は倒れてしまったりする。
本当にごく簡単にバランスを崩してしまうので、選手はビックリします。「え、なんで?」と、一番驚くのは選手自身です。
2~3センチ離れたところに弘田の指を置かれて、そこに当てないように立ってくれと言われると立てない。 逆脚は簡単に立てるのに、自分が今やろうと思っている脚は、指に当たらないように立とうと思った時点で、もう脚が上がらないということを経験するわけです。
「え、なんで!?なんでこんなことができないの?さっきの方はできるじゃん。なんでこんなに差があるんですか??俺、なんでできないんですか!?」とよく聞かれます。
「まぁ考えてみてね。」と言って、理論的なものはしばらくしてから説明はしますw
中殿筋と内転筋、外腹斜筋のバランスといった問題が出てくるんですが、具体的なアプローチをした後だと少し筋肉のバランスが良くなっているので、立ちやすくなるというところまではやるんですよね。
それでも、一番大事なことは「俺、差があるんだ。」とか、「こんな風にバランスが悪いとちょっと動きのクセが出るし、怪我しやすいよな。」と感じてもらうことです。
語るよりも多くのメッセージを含むことができるということもあり、この「指1本の指導」というのを愛用しています。
動作観察タイプの指導者にはオススメアプローチ
専門家の方、全員がこうやってやるかというとやらない。
それはパッと見て、どこの部分に代償動作が出ていて、どこが原因で一番クセが強くなっているのかを見極める、いわゆる分析力や観察力が必要だからでしょう。
動作観察が得意なタイプや、いわゆる感覚派の専門家の方にとっては、このアプローチはすごく有益です。
また、選手の心を掴むというか、この人にちゃんと詳しいことを聞いてみたいと思わせる掴みの部分としてもとても良く作用するからですね。
「指1本の指導」ができるタイプの方は、どんどんこの方法を試してもらえたらなと思っています。