ユニクロ、ついにイタリア第一号店がミラノにオープン
2019年9月13日、ドゥーモ(大聖堂広場)から徒歩圏内の、歴史あるミラノの中心部、コルドゥージオ広場にオープンした。新店舗は地上2階地下1階建てで、売り場面積は約1500平方メートル。地下1階、地上2階建ての3フロア構成で、メンズ、ウィメンズ、キッズ商品などを展開。イタリアはユニクロにとってヨーロッパで10ヶ国目の市場となった。
ミラノ在住歴の長い友人に言わせると、何年も前から出店するとニュースになりつつも、その度にオープン延期のニュースが流れていたという。私が、「ついに2019年の秋に出店するらしい!」と話しても、ミラノに住む日本人は、「きっとまた延期されるだろうから、期待しない方が良い。」と皆、オープンするまで懐疑的だった。
実は、スターバックスも同じような状況で、昨年ようやく第一号店がオープン。エスプレッソ発祥の地、バールと呼ばれる喫茶店で濃いエスプレッソコーヒーを飲む文化が根付くイタリアでの進出計画にはなかなか苦労したようだ。(この話の詳細は、また後日書こうと思う)
店内の様子
巨大デジタルスクリーンには東京の街の様子や、桜や緑の木々、神社などの風景が映し出されている。
人気商品や着こなし情報などさまざまなコンテンツを楽しむことができるデジタルサイネージ。
「新しい洗浄プロセスにより、水の使用量が最大99%削減される。」ということを伝えるディスプレイ。
店は街の中心にあり、メトロやトラムでもアクセスがしやすい、好立地。
進出が遅くなった理由とは
ユニクロは2001年の英ロンドン進出後、フランスやドイツなどに店舗網を広げてきた。2017年にはスペインのバルセロナ、2018年はスウェーデンのストックホルム、オランダのアムステルダム、2019年はデンマークのコペンハーゲンに出店。そして、この秋、ようやくイタリアのミラノにオープンをsいた。なぜ、こんなにも進出に時間がかかったのか。インタビューではこのように答えていた。
「最高の立地(中心地でプレステージ性のあるエリア、かつ経済的な立地)を見つけるのに時間がかかった。」
一見、普通のコメントに聞こえるが、ミラノは東京以上に不動産価格が高い。そして、特にイタリアは、特にコネ社会だ。私自身も家を見つけるのには相当苦労した。外国籍というだけで、嫌がる大家も多い。現地を知らないことや現地との距離が遠いこと以上に、現地の人物や企業とのつながりが薄いことが、進出の足かせとなったのだろう。
数々のデザイナーやクリエイティブディレクターとのコラボレーション
ユニクロは2006年から様々なコラボレーションを推進している。アレキサンダー・ワン、ジルサンダーなど、20名以上のデザイナーとコラボしている。これは、ブランディングの面での戦略だったのかもしれないが、海外進出という面でも有効な戦略なのだろう。
2018年にはボッテガ・ヴェネタのクリエイティブ・ディレクターであるトーマス・マイヤー氏とのコラボを行なっている。このコラボがイタリアへの進出の足がかりになったのかもしれない。
ユニクロの戦略から何を学ぶか?
この一連のユニクロの戦略のポイントは、自社のポジショニングを明確にしていることだ。ファストファッションのブランドの中でも、機能デザインにフォーカスし、高い品質と低価格ということを徹底している。ライフウェア(Life Wear)のコンセプトにも表現されているように、日常着であることを価値にしている。だからこそ、デザインはあくまでスタンダードな形、色が中心だ。これは幅広いターゲット層にアピールすることができる一方、エッジを効かしにくいので、話題性というところでは弱い。
一方で、ZARAをはじめとするファストファッション系の欧米のブランドは、デザイン中心の戦略だ。いかに、トレンドを早く読み、ラグジュアリーブランドのランウェイで発表されたばかりのデザインを取り入れ、市場に出す。
ユニクロは、機能デザインにフォーカスし、高い品質と低価格というポジションを確固たるものとしながら、デザイナーとアライアンスを組んで欧州市場でのプレゼンスを獲得しつつある。
ファッションの本場は、やはり欧州だ。ファッション性を付加することで、アジアでのイメージも上がっていくだろう。
ユニクロの雑誌『Life Wear』
ユニクロがフリーマガジンを創刊した。日本でも100万部を無料配布したとして話題になっている。
人々の生活をより豊かに快適にしていくユニクロの服「LifeWear」の考え方をひもとき、伝えるためのフリーマガジンです。(ユニクロHPより)
なぜ、ユニクロが雑誌を?と思ったが、最近、私は雑誌とブランドの成功には相関関係があるように思う。
スーツケースD2Cブランドとして米国で大成功している「AWAY」は、「HERE MAGAZINE」という旅行雑誌を出版。マットレスD2Cブランドの「CASPER」は、「WOOLY」を発行し、睡眠やリラックスに関するコンテンツを発信している。また、同時に、米国のミレニアム世代に絶大な人気を誇るNY発のコスメブランド「GLOSSIER」、欧米のGen Z世代を夢中にしているフリマアプリの「DEPOP」、欧州で急成長しているインテリアスタートアップの「WESTWING」などの創業者は、前職では雑誌の編集の仕事をしている。
コンシューマーに独自の世界観やストーリーを伝えるために、雑誌がひとつの手段として有効であるのと同時に、ブランド作りの過程の中で、「誰が、その商品を、どんなときに、どんな場所で使うのか」をリアリティをもってイメージするために「雑誌」を作ることが重要なのかもしれない。また、それをメンバー間で共有することによって、ブランド価値に対する認識のズレも防げるだろう。
そして、ページをめくっていると、見たことある顔が。と思ったら、ミラノ工科大の教授かつ建築家のMichele De Lucchi(ミケーレ・デ・ルッキ)が「イタリアンデザインの神髄とは?」という特集に載っていた。「機能美から生まれるデザイン」についての対談で、教授はこう述べている。
「私が考える機能というのは普遍のものではないんです。1万年前の機能的なものが機能と言えないように、変化するべきものだし、変化していくもの。それが新しい機能だとしても使えないものかもしれません。機能から生まれるデザインというのもひとつの作り方だとは思いますが、建築、デザインにおいて一番大事なことは、人間のより良い生活を考えることだと思っています。未来の生活のために、未来に何を残していけるかが私たちデザイナーの責任です。(Lifewear Magazinより」
これは常日頃、教授が言っている「ビジョンを描け」ということに繋がる。「Viva la Vida (ビバ・ラ・ビタ:美しい人生)」をモットーに考えているイタリアンデザインを象徴する。機能やテクノロジーに基づいて、価値をつくりがちな日本人とは異なる発想だ。どちらが正解でもないし、どちらも時と場面に応じて、使いこなさなければならない。
世界屈指のファッションの本場、ミラノでも高く評価されるのか
先月、スウェーデンのストックホルムの北欧第一号店を訪れる機会があった。店内は多くの人がおり、非常に賑わっていた。価格帯についても、物価の高い北欧にも限らず、低価格を実現していた。厳しい冬で防寒対策が必須な環境、そしてシンプル、ミニマリストで高品質を好む、スウェーデン人の価値観は日本およびユニクロの価値観と親和性が高い。また、現在、私は、お隣のコペンハーゲンでのプロジェクトを行なっており、スウェーデン人やデンマーク人と日本人の価値観は一部近しいものを感じている。
一方、イタリア人の価値観と日本人の価値観は、ある意味、真逆とも言える。ファッションに関しては、イタリア人は自分の体型を生かしたセクシーな服装を好む。同じSサイズでも、イタリアブランドのSサイズはよりフィットし、体のラインがでるデザインだ。
ユニクロミラノでの特別商品は、ニットの縫い目がわからない特別な技術で作られたカシミヤのニットだ。また、動物好きのイタリア人に、このカシミヤは、特定のルールに従って動物を飼育する倫理的企業とのみ協力していると伝えていたのを目撃した。
ちなみに、お隣のフランスではユニクロは成功しているようだ。昨年秋には、パリコレにあわせて、ユニクロ展が行われていた。今週からミラノではファッションウィークが始まる。日本人として、そしてまたミラノの冬は思った以上に寒く、ヒートテックに助けられた一人のコンシューマーとして、ユニクロのミラノでの成功を願う。