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コミュニケーションとは○○である

ヴィヴィアンとのレッスンは、今思い返せばとても貴重である。わたしたちはいろんなことについて話をした。1対1のレッスンだから、何でも話すことができたし、プライベートな話もした。コミュニケーションについてのレッスンってどんなことするの?とは大抵の人が疑問に思うことである。コミュニケーションという言葉には馴染みがあるし、何となくのイメージは沸くけれども、具体的にはさっぱりわからないと思う。日本を出る時、「コミュニケーションの勉強をしに海外に行く」と言うと、みんな口を揃えて「え、何それ?どんなことするの?」と聞き返した。わたしも、特に専門家でもない限りその反応は普通だよね、と思っていた。

しかし、ヴィヴィアンはコミュニケーションを教える専門家なのだ。そういう人がロンドンにいるのだ。そしてもっと驚いたことには、わたしはコミュニケーションの勉強をしに来た、というと誰一人不思議がらないのである。なるほどね、いいね、そこに疑問はない。もしかしたら英語が拙かったせいなのか、欧米人はそこまで根掘り葉掘りしないだけなのか、そこんとこはよくわからないけれど、コミュニケーションを学ぶ、という言葉自体がとても自然なことであるニュアンスは伝わってきた。

コミュニケーションとは極めてふわふわとした概念である。日本人はもはや日本語として定着させているほどの単語「コミュニケーション」。ではその実態は何なのか。はっきり言いきれる人の少ないことよ。わたしはいつもセミナーなんかでそのへんのところを紐解くことから始めたりするのだが、それはこの海外経験のおかげでよりクリアになった。

なんだかこのまま書き進めたらコミュニケーションスキルの話になってきそうなので少し戻そう。わたしがヴィヴィアンから学んだことは何だったのか。わたしたちのレッスンはともすればただの英語の授業に見えたかもしれない。もちろんその英語で話すテーマはコミュニケーションなわけだけれど。ヴィヴィアンはコミュニケーションの取り方をまさに体現して伝えてくれることもあれば、有益な情報として伝えてくれることもあれば、ごくごく当たり前のことも言った。しかしわたしにとってはこの当たり前のことすらとても興味深かった。つまり、国や言語や人種が違っても普遍である人間の振る舞いや感情と、それぞれの文化の上だからこそ出来上がった振る舞いや感情との区別をはっきり知る機会になったからだ。

こういうことはレッスンだけでなく、海外経験での一番の大きな収穫と言ってもいい。それはやはり現地の空気を吸わなければわからないことで、滞在期間中に、ロンドンだけでなく、ニューヨーク、ドイツ、フランスにも行けたことはとてもよかった。(できれば、スペイン、イタリアにも行きたかったな)

ヴィヴィアンとの話はまた追々書こうと思うけれど、一番最初のレッスンのことを書いておきたい。彼女は部屋の壁一面にある素敵な本棚から1冊の本を持ってきて差し出すと、1ページ目を読んで、と言う。シェイクスピアの本だった。彼女はずっと舞台で活躍してきていて、今ではシェイクスピアについても講演したりするような正統派の女優さんなのだ。

意味はわからずとも読むことはできる。わたしは声に出して朗読した。1ページ目を読み終わると、ヴィヴィアンは笑顔で、OKと言った。まずは英語の発音ができるのかをチェックされたのだ。コミュニケーションとは言語である。言葉をしっかり発音できずにコミュニケーションは成り立たない。もしここでわたしがそれをできなければ、おそらくレッスンは発音の授業から始まっていたことだろう。とりあえず発音だけは得意でよかった。そしてヴィヴィアンはひとつの単語を教えてくれた。日本人にはあまり馴染みのない言葉「Diction」である。

ディクションとは、言葉遣い、語法、用語選択、口調、話し方という、つまりは言葉を発するときの要素をまるっと意味する単語だ。どんな言葉を選び、どんな声で、どんな話し方で、どんな口調で発するのか。言われてみればコミュニケーションの全てが集約されているかのような基本のキではないか。ヴィヴィアンは英語しか喋らないし、英語が母国語だけれど、そんな風にきちんと言語に向き合ってきたから、ただの言葉ではなく、ずっと聞いていたいような美しいサウンドを奏でていたのかもしれない。

母国語は空気のように与えられたツールだから、Dictionなどさして意識もしないことかもしれない。空気のようではあるけれど、決して空気ではなく、人間が開発した最も重要なツールであり素晴らしいheritage(受け継がれる文化・歴史的遺産、伝統)、それが言語。コミュニケーションとはもしかしたら、言語を大切にする、というところから始まるのかもしれない。コミュニケーションとは言語、もちろんその他の要素もたくさんあるけれど、ひとまずそう言い切るところから始めてもいいんじゃないだろうか。そしてそれは、ここでは紛れもなく、英語なのだ。はてさてわたしの英語は上達するのだろうか。宿題やらなきゃ笑 続く。

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