見出し画像

フランスのアーティスト・ビザ "Passport Talent" とは? - 学生ビザから切り替えたときの話

こんにちは。
フランス在住のサクソフォニスト・パフォーマーの阪越由衣です。

2012年に留学という形で渡仏して今年で11年。音楽家と舞台芸術をとりまく諸々をシェアするためnoteで執筆しています。

今日は、フランスのアーティスト・ビザである Passport Talent(パスポート・タラン)についての話をしたいと思います。

パスポート・タランとは?

Talent とはフランス語で「才能・素質」を意味し、このビザは有能な人材がフランスに滞在するために発行され、職業によってカテゴリー分けされています。

経済分野
・企業内転勤者
・カルト・ブルー・ユーロピエンヌ
・有能な青年学位取得者/新興革新企業従業員
・起業家
・革新的プロジェクト発案者(スタートアップ)
・投資家
・法定代表者/役員

文化、科学、スポーツ分野
・芸術・文化活動従事者
・研究者
・著名人(芸術家・知識人・アスリートなど)

AJ・FRANCE フ「パスポート・タランビザ」

私は2020年に学生ビザからパスポート・タラン「芸術・文化活動従事者」(Passport talent - Profession artistique et culturelle)へ切り替えました。
ちょうどストラスブールからパリへの引越しに伴う住所変更とコロナ禍が重なり、申請してビザが手元に届くまで丸1年かかったのは今となっては笑い話です。

学生ビザとの違いとメリット

留学して数年が経った頃、我々外国人がぶち当たる大きな壁がビザ問題です。
私も修士を取得した直後はビザを得るためにも(もちろん続けたい勉強があったからではありますが)ポスト・マスターのようなクラスに在籍していました。
フランスの音楽院は金銭的にも工面しやすく、練習場所の確保という大きな利点もあるため、専門の楽器のクラスを卒業後、室内楽科や伴奏科に残ったり、教育系のディプロムを取る学校に入り直したりと、音楽留学生は学生ビザで長くフランスに残る人が多いように思います。

◆ なぜパスポート・タランビザに切り替えたのか?
答えは単純。オーディションを受けた現代サーカス・カンパニーのショーへの出演が決まり、就労制限がある学生ビザではなく、無制限で就労可能なビザが必要不可欠となったからです。
前述の通りビザの切替には時間がかかりましたが、「一時労働許可証」(Autorisation Provisoire de Travail )というものを発行してもらっていたので、オーディション直後から他のアーティストと同じようにお給料を頂いて稽古に参加することが出来ていました。

◆ アンテルミタン(Intermittent du spectacle)になるため
ビザを切り替えた最大の理由は、こちらの身分の資格を得るためです。

アンテルミタンとは、舞台芸術と、テレビ、映画などの視聴覚産業の業界でフリーランスで働く労働者のことであり、失業保険制度の枠内で(つまり全民間労働者の拠出金によって)、雇用形態はフリーランスであっても例外として給与所得者と見なされ、契約と契約との間に失業手当を受けとることが可能となっている。

新国立劇場「アヴィニョン芸術祭」

ざっくりと言うと、契約=仕事がない日にも収入が発生するという、夢のようなシステムです。例えば「今月は先週と来週にリハーサルやコンサート(=契約)が入っていて、今週は何にもない。」といった状態に対し、今週=失業中とみなし、国がその期間の失業保険を保証します。月々の収入が不安定になりがちな舞台芸術に関わる人々の生活を支える、誠にありがたい制度です。この制度がフランスの文化の質を支えているといっても過言ではないでしょう。

EU国籍を所有していれば学生であってもこの資格は獲得出来ますが、外国人の場合、学生ビザではアンテルミタンの身分を得られません。ですので私の場合は:

1. パスポート・タランビザへの切替
2. アンテルミタンへの登録

この順番で、フランスで音楽家として生きていくにはかかせない2つを手に入れていきました。アンテルミタン制度の基準や審査の話はまた今度。

Exposition "Faut-il voyager pour être heureux?"


パスポート・タランの申請に必要な書類は?

*パスポート・タラン「芸術・文化活動従事者」(Profession artistique et culturelle)の場合の話です。

必要な書類と手続きの流れはこちらのフランス政府のサイトを参照 ➡︎ https://www.service-public.fr/particuliers/vosdroits/F16922

当時の私の活動の展望はメインの契約(サーカスカンパニーのショーへの出演)+ 単発の契約(単発で依頼される演奏会等への出演)+ 自主企画の展開(作品制作や楽曲委嘱)といったもので、申請時に正式に証明できた契約の数はそう多くはありませんでした。

パスポートや住居証明など基本的なもの以外で用意したのは以下の書類:

  • Cerfa (カンパニーが記入)

  • 推薦状2通(カンパニー所属の作曲家と、フランスで支持した恩師より)

  • 契約証明書2通(出演予定の演奏会の主催者より)

  • これまでの活動(経歴、出演歴)箇条書きリストA4用紙2枚分(チラシやプログラムを添付)

  • これからの活動(出演予定、契約)箇条書きリストA4用紙1枚分

  • これからの活動(所属アンサンブル、自主企画)概要・計画・提携相手等を企画ごとに数行にまとめたものA4用紙2枚分


にカフェにて書類を最終確認

これだけです!

これらをパリのシテ島にある Préfecture de Police にて提年後にカードを受け取りました。コロナのために全てが混乱していた時期だったのであきらめて
気長に待っていましたね。カードが出来上がった頃にはすでにリヨンに引っ越しており、ようやく予約が取れた日、TGV(フランスの新幹線)に乗ってパリまで取りに行ったというのにパスポートを忘れて(サザエさんか)、窓口で必死でお願いして指紋採取という裏技(?)でゲットしたという小話のおまけつきです。

以上、パスポート・タラン申請準備中の方にとってのひとつの例として参考になれば幸いです。

いいなと思ったら応援しよう!