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【短編小説】あおいろの味~bar YoYo ebisu物語①

 ゴウダさんは半年ほど前から週に一度ぐらいの頻度で来店されている。
体は大きく強面で、いつもカウンターの一番奥に座り、話し掛けられたくないようなオーラを出している。
 ゴウダさんという名前も、時々ご一緒される取引先らしい方が
「ゴウダ専務」と呼んでいるので知ったぐらいである。
 ところがそのゴウダ専務、顔に似合わずと言っては失礼だが、いつも爽やかなブルーの色合いが特徴の、チャイナブルーを注文される。余程好きなのか、おかわりも同じチャイナブルー。そしてグラスを見つめる時、わずかに強面の顔がほころぶように見える。

 その日もゴウダさんは一番奥の席に一人で座り、いつも通りチャイナブルーを注文した。あいにくの強い雨で、週半ばの水曜日でもいつもはそれなりにお客さまはいるのだか、その日はゴウダさん一人きりだった。
「いつもチャイナブルーですね」
 私は思い切って話し掛けてみた。一瞬驚いたような表情をされたが、
「私、こう見えても子供の頃はいじめられてましてね」
 ゴウダさんの表情が少し緩んだ。


 ある日、泣きながら帰り道の駄菓子屋の前を通ると、あまりに憐れだったのでしょう。その店のおばさんが飴を持ってきてくれたのです。
 綺麗なあおいろの飴でした。
「きいろはレモン、あかはイチゴ、むらさきはぶどう。じゃあ、あおは何の味だと思う?」
 おばさんはその飴を掲げながら私に聞きました。ちょうど空と同じような綺麗なあおいろでした。
 あおい果物なんてないし、私は言葉に詰まってしまいました。そんな私を見て、
「ソーダ味だよ」
 とおばさんはいいました。
「ソーダ?」
 聞き返す私に
「食べてごらん」
 と顔の前に差し出しました。
 私はそれを受け取り、口の中に入れました。するとおばさんの言うとおり、シュワシュワの口の中で炭酸がはじけるような感じがしました。
「美味しいでしょ」
 頬張った私は答えられずに頷きました。
「嫌なことなんて、すぐにその泡と一緒に消えてしまうから。元気出しな!」


「それでいつもチャイナブルーを?」
「そうなんです。子供の頃の記憶をもとに注文しているなんて、おかしいですよね。でもこれを飲むとあの時の、あおいろの味を思い出しましてね。ほら、こうして見ているだけでも、一つ一つの泡が消えていくでしょう」

 炭酸の泡を見つめるゴウダさんは子供の頃の表情に戻っていた。

「大人になってもあの頃の自分とほとんど変わっていません。だからここに助けを求めて来るのです。マスターの作るチャイナブルーにね」 
 そう言ってゴウダさんが微笑む。それはきっと、子供の頃駄菓子屋さんのおばさんにあめをもらった時の表情と同じだろうと私には思えた。

「もう一杯いただこうか」
「かしこまりました!」
 私は心を込めてグラスにブルーキュラソーを注いだ。
 ゴウダさんにとっての、あおいろの味になるように。

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