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虹色百貨店の空色の仲間たち-第四回

驚きの連続だった面接を経て、僕は無事入社することになった。

研修が終わった翌日の朝、いつも通り研修をしていた部屋に全員集まると、名前を呼ばれた順番に整列した。それが所属ごとの割り振りだった。

やがて僕の並んでいた列にやってきたのは、食器売場の課長で、連れられていった配属先は和食器売場だった。

課長の簡単な話を聞いたあと、早速店頭に立つ。まだ商品のことも何もわからないが、接客を通して覚えていくというやり方だった。

不安と共に店頭に立っていると、しかめっ面をしながら僕に近づいてくる一人の男性がいた。さっき紹介されたばかりだから、その人のことはさすがに覚えていた。隣の洋食器売場の吉田係長だ。

その表情から、早速店頭に立っている時の態度が悪い等、注意を受けるのかと思うと、係長は僕にこう言った。

「昨日とうもろこしを食べていたら、歯がとれちゃいましてね」

そう言いながら、とれた箇所を口を開いて見せらた。まだ配属されて数分しかたっていない時の出来事で、

「はい」

と応答する以外の言葉がみつからなかった。

「女房に話したら、心配してくれるどころか、

『お父さん、またお金がかかるじゃない』

って怒られちゃいましてね」

係長は折れた歯の部分をむき出しにしながら嬉しそうに笑った。

笑うべきかどうするべきかわからず、あっけにとられていると、

「それじゃ、これからよろしくね」

と、係長はくるりと向きを変えて洋食器売場に帰っていった。すぐに先輩の女子社員がやってきて、

「吉田さんは今まで誰にも話を聞いてもらえなくて、そこに新入社員が入ってきたから喜んで話しに来たんだよ。はいはいって聞いてればいいからさ、気にしないで」

と言った。そういうことだったのか。でも、初日で緊張していた気分を和らげてくれて、僕は一気に吉田係長に親しみを感じるようになった。

それから、僕からも吉田係長に声をかけるようになり、お互いに他の人だったら聞いてもらえないような、しょうもない話をたくさんした。

その吉田係長とは和食器を移動した部署でも一緒になり、退職した後も食事に行ったり、長く親しい付き合いになるのであった。

初日の歯が折れた話は、その後の膨大な話の単なる始まりに過ぎなかった。虹色百貨店で楽しい社会人生活を送れたのも、吉田係長のおかげかもしれない。


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