神さまにえらばれて
聖夜に、わたしの愛猫ロミオが虹の橋へと旅立った。
わたしは中学3年生のとき、学校に行けなくなり、ひきこもりで、死にたいけれどそんな行動力もないくらい弱っていた。
勉強しか取り柄がないのに学校に行けなくなったわたしは、生きている意味を失い、食欲もなく、あっという間に7キロ痩せた。
学校の紹介で受けていたカウンセリングのカウンセラーの方にアニマルセラピーを勧められ、そのときに迎えたのがロミオだった。
かしこく、愛情表現に富み、従順な大きな犬のほうがアニマルセラピーには向いているらしかったが、わたしはロミオにひとめぼれしてしまった。
風邪をひいていて、目やにをつけて鼻をぐずぐずさせていたロミオ。ちいさな体につりあわない大きなあたまをしていて、ケージから出してもらうと急に走り出してカウンターの下に落ちた。しっぽがスラリと美しかった。即決だった。
結果的にロミオはちいさな猫でも、アニマルセラピーの役割をつとめあげた。12年間、わたしを支え、守り、育ててくれた。涙を流せば頬をなめてくれ、家族とぶつかれば一緒に部屋に籠城した。
ひきこもりだった多くの時間をロミオと過ごし、わたしたちの絆は深まるばかりだった。
2年前、わたしが実家を出るときにいちばん心がかりだったのがロミオのことだった。
引っ越しの段ボールを組み立てれば、真っ先に入って妨げる。すごくいじらしくて、今も段ボールの中で無言の圧力をかけるロミオはわたしの待ち受けだ。そして、引っ越し当日には拗ねて見送りをしてくれなかった。
「猫は恩を3日で忘れる」そんなひどい嘘を言ったのはどこの誰なんだろう。
なるべく実家には帰るようにしていたが、仕事の兼ね合いでひと月以上帰れない時があっても、ロミオはわたしのことを忘れることはなかった。
玄関で待ち構えていたり、眠っていても飛び起きて声をかけてくれた。そして毎晩、一緒に寝た。
1年半ほど前に肥大型心筋症がわかってからは、いつ最後になってもおかしくなく、会える時間を大切に大切に過ごしてきた。感謝の気持ちを、なんどもなんども繰り返し伝えた。
今月に入り、衰弱がはげしく、わたしも毎週帰省した。というのも、毎週末に扁桃炎を発症し、最終的に4日も会社を休むほど悪化させていた。その間実家で療養しており、おのずとロミオと過ごせる時間が長くなった。
いま思えば、これもきっと巡り合わせだったのだろう。
ほんとうに残されたわずかな時間を、なるべく一緒に過ごせるように神様がチャンスを与えてくれたんだろう。
クリスマスに、ロミオを連れていくことを決めていたから。
25日、会社でロミオが旅立ったと連絡を受けたわたしは、憔悴しきった。1年半も覚悟をきめていたのに、いざとなると人間って弱いものだ。
なんの支度もないのに実家に帰った。きれいな花を買って、人目も憚らず泣きながら。
対面したロミオは、毛つやよく、ほんとうに眠っているようで、だけど体はかたく、保冷剤が入っているかのようにつめたくて、悲しかった。手を合わせて、あたまを撫で、感謝とねぎらいの言葉をかけ続けた。あと、生前はあまり触らせてくれなかった肉球を、存分に触らせてもらった。
無償の愛というものを、絆というものを、ロミオが教えてくれた。
つらいことがあったときは、ロミオがそばにいてくれた。
社会という戦場で、ボロボロになって、すべてをあきらめかけていたわたしを無条件に味方してくれ、一緒に戦ってくれたのが、ロミオだった。
本当にいとおしく、大切で、大好きな、かわいくて賢いロミオ。
紛れもなくわたしにとって「せかいいちのねこ」だ。
火葬をしたあと、お骨を分けてもらい、はじめてわたしが暮らす部屋にロミオを迎え入れた。
いつもロミオを気にして、一緒にいられないことを後ろめたく思っていたので、部屋に迎え入れたときはとてもうれしく、安心した。
これでずっとそばにいられる。ロミオも病気の苦しみから解放された。本当は寂しくて悲しくて胸が張り裂けそうだけど、ロミオが役割をまっとうしたから、神さまが迎えに来たのかもしれないと、ひとり納得しようと思う。
ロミオのちからを借りてなんとか生きて、大人になることができたわたしは、きっと、もう、これからは自分の足で生きていける。
そんな気がする。
ロミオ、ありがとう。感謝してもしきれません。なんども伝えたように、ロミオがいなかったらたぶん今わたしは生きられていません。ロミオがいたから、生きて、大人になれたよ。きっとそういう使命を持って、うちに来てくれたんだね。自分勝手な解釈だけど、そう思わせてほしい。重い使命だったと思うけど、見事に大役を果たしてくれました。それを、これからわたしが証明しなくてはいけないね。だから頑張るね。これからはそばにいられる。最後まで身勝手なお願いでごめんね。この先も見守ってもらえたらうれしいです。
ロミオのやさしさ、たくましさ、愛情、かわいい高い声、最上級の毛並み、きりっとした顔、でもほんとは憶病なところ、全部がいとおしくてたまらない。忘れることなんかあるわけない。
愛しています。
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