月に願いたいほどの幸せって?
どこかの本で読んだことがある。満月は月の引力が一番強くなるため、「手放す」ことや「引き寄せる」と言った願いが成就しやすくなると言う。
アメリカ人で3歳児のキラのベビーシッターをしている時のこと。
キラが窓から東京タワー越しに見える満月を見て、
「フルムーンよ!見て!」と叫んでいる。
「満月の日はお願いごとをすると叶うんだよ!キラは何をお願いする?」
考える間も無く、
「私の願い事は、パパが早く帰ってくること!」
曇りないまっすぐな眼差しだった。アメリカ人のキラは、胸の前で手を組み合わせ目を瞑った。
普段から、私がベビーシッターに行くと、父親が近くのジムに行くと言う流れになっている。キラの機嫌が優れなかったりすると、スイッチするタイミングで、父親を追って玄関で大泣きする。ルーティンだとは言え、3歳児のキラにはまだまだそれが辛い日もある。
その日は、いつも以上に大泣きの日であった。
キラの願いは、それから2時間後、すぐに叶えられた。父親の腕に抱かれたキラはとても幸せそうな顔をして、帰宅する私に手を振ってくれた。
そもそも、願いごととはなんの為にするのだろう。病気が治りますように、結婚相手が見つかりますように、成功したいなど、一言で言うと、その人が幸せになる(もしくはそう思い込んでいる)為の願いだ。
私たちは、初詣でもなんでも、お願い事と言うとあれこれ構えて考えてしまう癖がある。そもそも、パッとでてこないような願いごとは、例え叶ったとしてもあなたを幸せにはしない。そのほとんどが無理やり付け加えた、お菓子の付録のような、叶っても叶わなくても死ぬことも後悔することもない欲であるからだ。
キラは、父親が帰宅したことへの喜びに加え、願いが叶った喜びも感じていた。宝くじの当選を願うより、はるかに幸せが近いだろう。
子供はとにかく素直だ。お腹が空いている子供なら、ハンバーグを食べたいというだろう。おもちゃ屋で聞いたら、お気に入りのおもちゃを抱えてこれが欲しい!と言うだろう。
いつから大人たちは、コンビニ飯を食べながら、いい家に住みたい、フェラーリに乗りたい、年収3000万になる、あのブランドのバッグがほしい、ハイスペックな男に出会いたい、などと目の前のことより遠すぎる願い事しか思い描けなくなったのだろう。
月に願いたくなるほどの幸せは、空想と言えるほど遠いところではなく、もっとすぐに叶えられるような目の前の日常にあるんだと、キラは教えてくれた。