見出し画像

おいしい和食屋さん(2)

和食屋さんへの第一歩

みちるです。あだ名は『みちるん』。漢字では美智瑠ってかくよ。書くのも、覚えるのも難しい漢字なんだ。今ね、ねずみの五郎さんのお家に着いたところ。とっても楽しみ!なのに、やよいは楽しみじゃなさそう。まあ、あたしのお家のふっかふかのベットの方が寝心地はいいだろうけどさ。

あっ、ねずみの五郎がお家の中を紹介してくれてる。しっかり聞かなくちゃ。
「ここは台所じゃ。薪に火をつけて焼けば、焼き魚ができるぞい。」
「あそこはお茶の間。お客様が座って、食事をするところじゃ。ここに案内をしてあげてくれ。」
「ついて来い。ここは二人で、休んだり料理の練習ができる休憩場所じゃ。」
そうなんだ。でもこの紹介ってお家を紹介する紹介の仕方じゃない気がする。うーん。あ!この紹介の仕方、塾の説明会と似てる気がする。お店をいとなんで欲しいってことだよね。だったらあたしたち、店員さんになってお仕事するの!?えっ何それ楽しそう!!勘違いかもしれないけど、そうかもしれない。なんか、さっきよりも2倍ワクワクしてる気がする。

「説明はわかったかい?じゃ寝床に行こうかね」
「ねずみの五郎と寝るの?」
あっあたし寝るってこと忘れてた。でも、何でやよいはそんなねずみの五郎と寝るのが嫌なんだろう。ただの喋るねずみじゃん。なんかテンション下がった。だってさ、さっきまで、店員さんになってお客さんに美味しいものを食べてもらうっていうところまで妄想してたのに、急に(急にじゃないけど)寝るよ!って言われても・・

おはようございます!みちるだよ。夜は結局、やよいと二人で寝たよ。敷布団だったから背中が痛くなったし、癖毛のあたしはイメージヘアのお団子頭と違って今はボサボサの髪型。あたしはね、こう見えてヘアスタイルとかは気にする、いわゆる『オシャレ女子』なの。でね、ねずみの五郎さんにはボサボサの髪型を見られたくないから、今は午前6時、早起きして、やよいにお団子頭にしてもらっているの。そしたら急にハッとした顔でねずみの五郎さんのところに行った。まあ良いや、もうお団子頭完成したし。暇だから、やよいについていこう。

「ねえ、ねずみの五郎!起きて!」
あれ、やよいどうしたんだろう。
「私たち、早く帰りたいんです!お母さんたちにも心配かけちゃうので!」
私、帰らなくても良いのになあ。お母さんたちにも会いたいし、寝心地も悪いけど、ここ、楽しいんだよなあ。それにしても、けっこう焦ってるみたい。そんなに大変なことなのかな?
「むにゃ、むにゃ・・ふわあ。何じゃ、静かにしとくれ。朝から騒いでいたら、耳が痛くなるわい。」
「早く、家に帰りたいんです。おねがいです、『船乗りのおじさん』に連れて行ってください。」
でもねずみの五郎、言いにくそうな顔してる。もしかして、『無理じゃ。』とか言い出す?そしたら、あたし的にはラッキーかもしれない。あたしは『む』の言葉を待った。
「わかったのじゃ。じゃが、『船乗りのおじさん』が開いてるかわからんぞ。」
あーあー『む』じゃなくて、『わ』だったな。仕方ない、行くか。

『船乗りのおじさん』に着いた。だけど、案内板に『一か月間休業いたします。』という紙が貼られてあった。ていうことは・・『和の心』に一か月間いられるってことか!最高!でもやよいったら『この世の終わり』みたいな顔してる。良いじゃない、あたしと一緒に寝れるんだから。
「『船乗りのおじさん』以外に移動手段はないんですか!」
やよいはまだ諦めてない。さあどうするか。
「残念ながら、移動手段は他にないのじゃ。」
「そんなあ。嫌です。私、何としてでも帰りたいんです。」
でた、やよいの『何としてでも〇〇したいんです』。そんなこと言ったって帰れないよ。移動手段がないんだから。やよいがウルウルし始めた。これ、泣いちゃうかも。あたしは、慰めるために、お母さんたちと電話したらどう?って提案した。そしたら、うん。って頷いてくれた。じゃあ、電話はスマホで・・あれっスマホがない!あたしが困ってたらねずみの五郎さんは
「公衆電話なら、ここを右に曲がって、郵便屋さんの前にあるぞい。」
って教えてくれた。ねずみの五郎さんは優しいなあ。やよいもツンツンしてないでご機嫌になればいいのに。

公衆電話・・なんか、想像してたのと違う。あたしが思ってたのは緑色で、12345・・って番号が書いてあるボタンがある電話だけど、今目の前にあるのはピンク色で、『ダイヤル』っていうやつがついてる電話なんだ。どうやって掛けるんだろう?
「こうやるのじゃよ。ダイヤルをくるんくるんと回すのじゃ。やよい殿は親の電話番号はわかるかい?」
ねずみの五郎さん、あたしの心読んだのかな?あたしたちが、使い方わからないと思ったから説明してくれたのかな。そうだとしたらやっぱり、やさしい!
「はい。わかるので、掛けてもいいですか。」
「いいぞい。掛け間違いには用心しろよ。」

カラカラ・・ブルルルル、聞き慣れない効果音ばっかり。目を瞑って耳を澄まして聞いてみた。カチャッ。多分お母さんが電話に出た音だと思う。
「もしもし、やよいだよ。お母さん、私ね、塾の帰りに迷っちゃってみちるんの家に泊まらせてもらってて。でもお母さんお父さんは1か月間出張でいないんだって。でもみちるはひとりで寂しいだろうし、『泊まっていってほしい。』て言ってたから、1か月間泊まらせてもらうね。」
ガシャ。ブーブーブー。ふふふ。やよい、お母さんに嘘ついてる。でも知らない場所にあたしたちがいるってことが知られたら、大変だもんね。あたしたちはねずみの五郎さんのお家、『和の心』に向かった。

ぐう〜ぐう〜あたしのお腹が大きな音で、鳴った。ああそういえば朝ごはん、食べてなかったっけ。お腹減った。そしたらあたしの、大きなお腹の音を聞いてなのか、ねずみの五郎がおにぎりを作ってる。
「これ、にぎり飯じゃ。若菜の塩漬けが入っておるぞい。」
えー中身が『若菜の塩漬け』?おにぎりといえば、ツナマヨとか昆布とかでしょ。不満はあったけど、めちゃくちゃお腹が空いてるから、食べよう。もぐもぐ・・あれ!美味しい!名前は美味しそうじゃないけど、中身は絶品!
「美味しい!若菜ってこんな美味しいんだ。」
やよいも美味しさが分かるみたい。
「そうじゃよ。しかも、若菜は漬物、味噌汁、魚の付け合わせとしても使われる、『万能食材』なのじゃ。」
へえ。『若菜』食べるまで名前も味も知らなかったのにこんないいところがあるなんて。素敵じゃない!美味しすぎてあたし、若菜おにぎり(若菜のにぎり飯)を三つも食べちゃった。やよいは二つ食べてたよ。

 あーお腹いっぱい!さっきね『にぎり飯だけじゃ栄養がとれない』って言って、ねずみの五郎さんが、焼き芋をくれたんだよ。ホクホクであま〜くて美味しかった。あたし、『食レポ』向いてるかも。
「やよい殿、みちる殿、先ほど本で調べたんだが、かごバックを開けた時、この時代、『明治』にタイムスリップしてしまったようなんじゃ。急に言うのも何じゃが、言う時がなくてのう。」
えっ!え!うそ。ねずみの五郎さん、『明治時代にタイムスリップした』って言ったよね。あたし、(苦手な)社会の授業で少し、『明治時代』の勉強したんだけど、ほとんど内容覚えてないなあ。はあ。信じられない!あたしたちが『明治時代』にタイムスリップなんてあり得ない。やよいもお目々を丸くさせてびっくりしてる。まあそうだよね。ビックリだよ、急に言われたし。
「『船乗りのおじさん』も休業してるし、私たちはタイムスリップしてるし。どう言うことなんですか、ねずみの五郎。わざと私たちが帰れないようにしてるの?もう、意味わからないよ。」
やよいは、ねずみの五郎さんに呆れているのか、帰れなくて困っているのか、怒っているのか、よく分からないし、ねずみの五郎さんは、一気に色々言われたから落ち込んでるみたい。これが『ハプニング』って言う状況なのか。スリル満点だなあ。