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おいしい和食屋さん(5)
料理は美味しい!
初めまして、里山久美と申します。『久美』という名前はお父様がつけてくれたのよ。とても気に入っているわ。そして今、わたくしは、和の心という飲食店にいるの。築何年かしら・・汚れていて、カビもあるわ。でも、外観はとても良さげな木造の建物だったわね。
「久美様、何かお困りごとでも?」
如月さんが心配そうな顔でわたくしを見つめてきた。如月さんこと如月亜沙さんは、四六時中優しくて、にこにこ。でも時にはわたくしを気にかけてくれるのよ。わたくしは言われた度に『大丈夫よ。ありがとうね。』と返しているの。心配かけてしまうもの。
「久美様・・いつでも私を頼っていいのですからね。」
如月さんは、ふんわり笑顔でそういった。
料理を頼んで30分くらい経ったかしら。でも主人は料理を持ってこないわ。きっと、お客様にどれだけ迷惑をかけるかわかっていないようね。
「あの、私、もう待っていられません。久美様もお腹が空いているでしょうから、お屋敷に戻りませんか?」
『そうね。主人に頼んで、注文を取り消してもらいましょ。』わたくしはそう言って、主人に注文を取り消すよう言った。
「久美殿、如月殿、すまんのう。実は、材料の調達ができておらんかったのじゃ。また明日、いらしてくれるかい?」
また、店に来いと言われてしまったわ。仕方ないわね・・
「久美様、お帰りになりましたら、真鯛の甘醤油漬けを召し上がっていただきたいのですが・・」
『真鯛の甘醤油漬け』・・懐かしいわ。それはおばあさまが、幼いときに作ってくれた料理なのよ。大好物といったところかしら。なので、『ぜひ、食べさせてくれる?とても楽しみだわ!』と答えたわ。
「それでは参りましょう。」
カランカラーン・・
お屋敷(家)に着きましたわ。如月さんは、もう台所で調理をされているわ。なんて仕事の早い方なのでしょう。より美味しく感じるはずよ。
「久美様、お待たせしてすみません。『真鯛の甘醤油漬け』、どうぞ召し上がりださい。」
『いただくわね』。ぱくっ。うーん!ふんわりしていて甘醤油の甘味がとても美味しいわ。毎食食べたいくらい!
「久美様、お口に合いましたでしょうか。」
如月さんが話しかけてきた。わたくしは『ええ。とても美味しくて毎食食べたくなりましたわ。ありがとう、如月さん。』と、感謝を伝えた。
「久美様に、褒めてもらうくらい嬉しいことはありません!久美様よろしければ、夕食も・・と言いたいところですが、栄養が取れませんので、夕食は、海老のかき揚げ、白米、白菜の味噌汁でよろしいでしょうか。」
栄養のこともわたくしのことも気を使い、わたくしに『褒めてくださってありがとう』と言ってくださる如月さんはなんて優しいのでしょう。わたくし感激だわ!
『それがいいわ。如月さん、たまにはゆっくりしてくださいね!』とわたくしは返した。
夕食も如月さんが作ってくれた、料理を召し上がることになりました。ちなみに如月さんは1か月前からお手伝いさんとして働いているの。お手伝いさんとしての役目は調理と掃除。でも如月さんはそれら以外にも、家事、話し相手、片付け、付き添いまで、全てのことを手伝ってくれる、お手伝いさん。とても助かっているわ。
「久美様、お食事が出来上がりました。どうぞ召し上がりください。」
夕食もとても美味しそうだわ。なんだかお腹が空いてきたわね。丁度いい、いただきましょ。『いただきますわ』。うーん!海老の味と野菜の相性がいい!白米に乗せても美味しいわ。最後に白菜の味噌汁をいただきましょ。
『如月さん、とても楽しい夕食だったわ。』食事の後には必ず、感想を言うこと。それが『里山一家』の決まり。
「嬉しいです。私もとても楽しい、夕食でした。それと、久美様、食事の後ですから、ごゆっくりお休みくださいね。」
休んで欲しいのはわたくしじゃなくて、如月さんの方なのだけれど。
次の朝になりましたわ。おはようございます。あの後何があったって?それは秘密に決まっているでしょう。まあ、いろいろありましたけど。
「久美様、食欲はありますか?」
『ええ。あるわ。でも、朝食は白米だけで大丈夫よ。あとはわたくしがやるから。如月さんは休んでちょうだい。』如月さんは、わたくしより就寝時間が遅いと言うのに、もうお皿洗いと掃除を済ませ、野菜を切っているわ。だから、少しでも負担を減らしたいの。
「久美様・・本当に私が休んで良いのですか?私が休む権利などありません。久美様が、調理をやりたいのであれば別ですけど。」
『如月さんが休む権利などない』そんなこと誰から聞いたのでしょう。まあいいわ。わたくし、調理、やってみせるわ。
「久美様、火傷には十分お気を付けて。それと包丁で手を切ってしまわないように。大怪我に繋がりますからね。」
如月さんはキリッとした顔で警告をしてきた。火傷、大怪我・・怖いわね。でもわたくし、如月さんの役に立ちたい!
3時間経ってやっと出来上がりましたわ。(結局如月さんにも手伝ってもらった)午前10時の朝食・・たまにはいいわよね!
「久美様!出来上がりましたね!とてもお上手でした!私の手助けは必要ないみたいですね!」
ほとんどは如月さんがやってくれたのだけど・・でも!わたくし頑張ったってことでいいわよね。さて、お味は・・あっ!塩と砂糖を間違えてしまったわ!しょっぱい焼き魚なのに、甘い焼き魚になってしまったし、人参とほうれん草の胡麻和えはポン酢と醤油を間違えてしまったわ!どうしましょう・・
「久美様!とても美味しい朝食でございますね!また一緒に作りましょうね。」
相変わらず優しい如月さん・・きっと平気なふりをしているのよね。わたくしも平気なふりをした方がいいのかしら・・『そ、そうね!とても美味しくできたと思うわ。だけどわたくしお腹が空いていないの。ごめんなさい。』とてもお腹が空いているけれど、食べたくないので、嘘をついたわ。ああ。如月さんに任せておけば美味しく食べられていたのに。
でもまた料理に挑戦しようかしら!きっと次は上手くいくわよね。
如月さんが作った料理の方が美味しいだろうけれど。