初めてのピアスと過保護な親
12歳になる娘がピアスを開けたい、と言ってきた。
実は娘は7歳くらいのときから、次の誕生日にピアスを開けたいと言い続けて、結局勇気が出ず今に至っている。
しかし今回は本気のようで、明日あさってにでも開けたいらしい。
私の住む地域では(というかおそらくカナダ全土で)、5歳くらいからピアスを開けている子もいるし、学校にネイルアートをしていっても何も言われない。
そんな環境なので、娘の友だちは全員ピアスを開けているし、人によっては片耳に3つという子もいる。
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私がピアスを開けたのは中3の夏休みだった。
場所は駅前のマクドナルド。
X JAPANをこよなく愛する同級生の川ちゃんが、ピアスを開けるのが上手ときいてお願いしたのだった。
耳たぶにマジックで印をつけ、裏側に消しゴムを当てる。
マキロンで耳を消毒し、ライターで軽く布団針をあぶる。
針を垂直に、ぐりぐりめりめり耳に刺し、最後まで貫通させる。
耳がカアーッと熱くなるが痛みはさほどでもない。
川ちゃんは耳たぶの裏と表で穴の大きさが異ならないように、針の太いところを前後させてしっかり穴をひろげていく。
その後、しばらくして針を抜き取り、ピアスを入れるのだが、ここが一番痛い。ファーストピアスのスタッドはどうしたって布団針よりも太い。
しかも若いゆえの驚くべき皮膚の蘇生力により、針を抜いた瞬間から穴が塞がっていく。
だから、小さな穴にぐりぐりと無理やりピアスをねじ込んでいくことになるのだ。
痛っーーーーー!!!
この工程をもう片方も繰り返し、無事にピアスが貫通する。
痛いような腫れぼったいような感覚は1週間程度で収まり、ピアスが体の一部になる。なんだか急に大人になった気分がした。
後日談だが、別の友人にピアスを開けてほしいと頼まれたので川ちゃんがやってくれたようにやってみたのだが、これがなかなか難しい。
耳たぶは柔らかいようで結構固い。
針は両端とも細いので、指で耳たぶを貫通させようと力を入れても、自分の親指に針穴の先端がどんどん食い込むばかりでなかなか穴があかない。
結局、耳たぶの半分ぐらいから先に進めず、痛い思いをさせたのに中途半端な穴しか開けることしかできなかった。
「人の皮膚に針を突き刺して貫通させる」のは勇気と自分を信じる力がないとできないものなのだ。
だから、川ちゃんはやっぱすごい。
私と同い年なのに針を貫通させて、さらにピアスまでねじ込んでくれたんだから。かっこいいよ、川ちゃん。
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話を娘に戻すと、現代社会でファーストピアスを開ける場合の選択肢は、タ
トゥーショップか美容院のどちらかだ。
美容院だと「バチン!」とやるいわゆるガンタイプなのだが、タトゥーショップは、針で穴をあける。
針のほうがガンタイプに比べて皮膚内部の損傷が少なく、治りも早いらしい。
針タイプがタトゥーショップというのもアートっぽくていい。
しかし針ピアスは結構お値段が張るので、結局のところ穴をあけるだけなんだからガンタイプでもいいじゃない。と思ったりもする。
傷の治りがどうのこうのというけど、正直なところまーどっちだって大丈夫だよね。
でもさ、針ってのがなんかいいじゃない。
マクドナルドの片隅で消しゴムを耳たぶに当ててさ、大人の階段を登ったあの日。思い出すと、なんだかくすぐったくなる。
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結局、娘は友達2人に付き添われ、美容院にてピアスガンでファーストピアスを開けた。
娘の友達は、初めてピアスを開ける娘のために励ましのお手紙を書いてきて、終始勇気付けてくれる。優しいなあ〜ほっこり心が温まる。
穴は一瞬で開き、きらきら光るストーンピアスをつけた興奮気味の娘をよそに、私はもう一つピアスの思い出を思い出した。
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高校生の時、スタッド型のピアスをしていた。
ある時、耳が腫れぼったいなあと思って、ピアスを触ってみたら、耳の後ろからピアスのポストが出ているのに、耳たぶの前側にあったはずの石がない。
石だけでなく、台座もなくなっている。
でも、ピアスポストはある。もちろん引っ張っても抜けない。
前に押し出そうとしてももう穴が塞がっている。
ど、どういうこと?
しばらくして、ピアスの台座ごと耳の中に埋まってしまったことに気がついた。
これ、どうやってとるの???
パニックに陥った私は、放課後に高校の近くにあった内科だか整形外科だか忘れてまったが、小さな診療所にいった。
そこには、小柄な白髪のおじいさん先生がいた。
といっても、昔剣道でも極めたのではないだろうか、背筋がピンと伸びたシャッキリしたおじいさん先生だった。
先生は、私をうつ伏せに寝かし、深呼吸をするようにいった。
そして、ペンチのようなもので一気に耳の後ろから引っこ抜いた。
ブチブチブチっ!という音と共に耳が一気に熱くなった。
ぎゃあーー!と心の中で叫んだつもりだが、もしかしたら声が出ていたかもしれない。
とりあえず、耳に埋まったピアスを「取り出す」ことができたことには違いないが、こんな荒手だとは予想していなかった。
聞けばこのおじいさん先生は昔、軍医だったそうだ。
なるほど、修羅場をくぐり抜けているだけある。
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川ちゃんとおじいさん先生のことを思い出すと、娘のピアス通過儀式はいささか過保護だなあ、と思ってしまうのだが、まあ時代が違えば仕方ないか。
きっと埋まったピアスも今なら麻酔したり、切開したりして上手に取ってくれるのだろうね。
だけど、おじいさん先生も「スピード」で言ったら一瞬、「インパクト」で言えば最大だったから今となってはいい思い出。
ともあれ、娘の念願のファーストピアスは無事に開いた。
私とはだいぶと違う登り方だが、彼女なりに大人の階段を一つ登ることができてよかった。