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打てなくなったら書いて、書けなくなったら言葉にして

時間は進むか


6万円の時計を修理に持って行った。すると半額出せば直せると言われた。そこで私は口を閉じた。

10年に近い時を共に過ごした。この先も、一緒に歩くと思っていた。私の時間を左手首で刻んでくれると思っていた。けれどある日突然止まってしまった日に貴方が出てきたから。

もう、さよならかなと思った。

大切に10月12日のまま仕舞っておきましょう。半額出せば直せるとか直してもらえばいいと、誰かは言うでしょう。でも時はそこで止まってしまったから、いい加減私も歩き出さなければと思ってやめた。

つい先日誕生日だった事もあって、新しく手に入れた時計は二桁にグレードアップした。いい歳だし良い物を持ちなさいは、いつも両親に言われていた言葉だった。

褪せたピンクゴールドからプラチナのベルトへ。文字盤は万華鏡のようにカットされた藍色、ダイヤモンドが埋め込まれ、品の良い針が時を刻む。日付はゆっくりと明日へ向かっていく。

私の、新しい友人だった。

一目惚れとは言ったもので。人間に対して起こした事のないそれは物になると一気に確立を増す。

私にとっての買い物は一目惚れするか否かである。

どんな高い物でも、これだと思ってしまえば買うし反対にお気に召さなければ買わないのだ。服を買いに行って一目惚れしなかったから買わないなんて事もあるし、その逆もある。だからこそある程度の貯蓄を有しているのだが、詰まる所、私は私の直感を信じているのだ。

何かを信仰しているわけではないけれど、何となく。私がこれだと思って選んだものは私自身をどこかに連れて行ってくれると思うのだ。より良い場所に、進ませてくれると信じていたいのかもしれない。

新しい友人は随分軽くて、前の友人とは違っていた。こうやって、どんどん変わっていくのだと思う。考えも嗜好も色んな事が沢山変わっていく。これまで積み上げてきたものが、信じていたものが、新しい形になって私を連れて行く。

もう、かっこいい人が好きとか言わなくなってどのくらい経ちましたか?優しい人がいいとか、こんな見かけがいいとか、上辺だけの情報に惑わされなくなって、作り上げた外面から本性を探すようになった。息が出来る恋がいいなんて言葉も言わなくなって、ただ等身大の自分でいられる場所を探している。

歳を取った日くらいからずっと体調不良に悩まされてきたがそれも良くなってきた。あれ?これまさか四半世紀じゃなくて終わりか?と思ったが何とかなるものである。


傷一つも自分のもので、悲しみ一つも共有出来ず、歩き疲れて諦めてしまった全ての物事に。それを肯定するからこそ、今の自分があるのだと。

誰かの成功を見て嫉妬にまみれ自己不振に陥り苦しくなるような日々が存在していたとしても。私は私だと、好き勝手にすればいいんだって。私が主人公の物語は、どれだけ誰かに願って頼み込んでも、私にしか書けないと、紡げないとようやく納得できたから。

いつか誰かがページを開いた時に、つまらない話だって笑われても。自分にとっては最高の物語でありますようにと。ただそれだけを願っているのだ。

そんな事を思いながらも、また眩暈が来たので書くのを止める。最近、視界がくらむような眩暈ではなく、脳がふわっとしてバランスが取れなくなるような眩暈が続いているので、画面を見続ける時間を抑えてます。ちゃんと病院には行きます。これでやばい病気だったら笑ってください。

それでも、PCが使えなくなったら紙にひたすら書き綴るんだろうけど。



そうやって、生きていくのだろうけど。

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優衣羽(Yuiha)
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