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ハッピーもラッキーも手に入れたら気分は良いでしょう


アンラッキーの申し子


幼い頃から持っている。持っているというのは運ではなく反対の意味。
列に並んだら自分の前で全てが終わるし運ばれてきた料理が自分だけ頼まれていない事もしばしば、固形燃料は一人だけついていないし何故か同じ事をしていても自分だけが非を被る。

何もしていないのに自動ドアはいつだって開かない。ここまで来ると、最早幽霊なのではないかと思える。

もう一度言おう、持っている。悲しいくらいに持っている。ラッキーとは対極の位置で息をしている人生が25年続いている。なので運試しなんて出来たものではないし、大概の事は叶わないと知っている。

ちなみに兄はラッキーなので、こいつに全てを吸われたのではないかと思っている。色んな意味で。


ついていない人生が続くと最初こそ悲しかったが慣れてきてしまう。というより、何が起きても、あーはいはい来ましたね。今回はこれですか。はいはい、もう対策は考え済み。っていう思考になる。

おかげで最悪のケースを考えて行動する人間になった。良いか悪いかは分からない。


先日、焼き鳥の名店に行くために渋谷駅で待ち合わせをした。午後三時過ぎ、異常なほど混んでいるハチ公前のJR線出口であまりの多さに、人間こそが呪いだったのかと呟いた。

次の瞬間だった。


突然、スマートフォンの電波が死んだ。

友人からメッセージが届いても見れず、返事は返せない。再起動をかけた。電波は戻らない。20分以上そこで立往生して三度の再起動の末充電は35%、しかし電波は戻らない。


死んだ。終わった。

脳内を占めるのは絶望感。そして渋谷という土地に対しての完全なる八つ当たり。ここでなければ。人が少なければ。ハチ公前、スクランブル交差点信号の先まで誰がいるかなんて見通せたのに。動けばぐるぐる回り合えなくなる気がして足を止めた。

終わってる。
何たってこんなについていないんだ。その日西日本では通信障害が起きていたらしいが、周囲を見渡しても特別困っている人はいなかった。つまり、これは自分にしか起きていない謎のいじめである。

半泣きになりかけた時、見知らぬ男性に声をかけられた。一人?大丈夫?この後暇?その瞬間の私の内心は、「殺すぞてめぇ」だ。

今それどころじゃないんだ。お前半泣きになった瞬間に寄って来るんじゃねぇ。ガン無視を決め込んでいた時ふと、あ、Wi-Fiだと思いついた。

使いたくなかった渋谷の公衆Wi-Fiを使い何とかキレキレの状態で電話を繋げた。男性はどこかに行き、私は壁際に残される。理由を説明するにはまた切れる可能性がある。すぐに居場所を伝え友人を待った。切れるタイミングで、

「たすけて……たすけて……」

と言った結果、彼女に会った瞬間に死んだかと思ったと言った。彼女は私が既読をしない事が珍しく、誘拐でもされたのかと思ったらしい。半泣きになりながら会えた喜びを噛み締め、ようやく冷静になった時、ふと母から聞いた昔の待ち合わせを思い出した。

30年以上前、スマートフォンも携帯もなかった頃、待ち合わせは駅前にある掲示板に、今どこにいますと名前を書くのが主流だった。真緑の板に書き尽くされたメッセージから待ち人の名前を探す。会えない事だってあったらしい。

誰が出るか分からない自宅の電話にかけ、待ち合わせ場所を指定する日も。車を持っていたら家まで迎えに行った方がよっぽど確定されていた事。ハチ公前で歩く人々の顔をひたすら眺める。

そんな時代があった事。


今ではそんな時代があったなど考えられず、日常は簡単に繋がれる時代となった。私は新しいスマートフォンを買おうか考えた。それと、特別必要なわけではないが二台持ちするのもありかもしれない。

もっと沢山、仕事が出来るようになったら。電話用のスマホでも持つかと考えていた。

結局焼き鳥は美味しかったんだけど、次起きたらもうどうしようもないと思った。


なんて思いながら、また彼氏が出来たと言った友人がクリスマスはお泊りデートと話したせいで、人生って何だろうと考えたのだ。



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優衣羽(Yuiha)
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