見出し画像

言葉の海に沈む度、僕らは変わっていくのである

言葉の海に溺れた


子供の頃、辞書を開くのが結構好きだった。

これを調べましょう。教師の言葉に分厚い辞書を開く。言葉の意味を調べたのち、授業が再開された。黒板を見る生徒が多い中、一人他のページを開いては眺めていた。

辞書が面白いと気づいたのは、適当に開いたページの中で思いがけない言葉に出会うからである。綺麗な言葉、情景、感情、知る機会もなかった難しい単語。何に使うか利用する機会もない。ただ無駄な事で埋め尽くされていくのが好きだった。

思えば昔から、無駄な事を学び続けた気がする。

受験に必須な国数英みたいな教科ではなく、この先の人生でどうでもいい事ばかりを脳に入れるのが好きだった。

例えば色彩の名前とか、芸術が好きなので美術史とか、西洋の歴史、南米の記録、この世界にはない空想の都市、言の葉、その全ては平凡な人生を送るために必要とされなかった。

人生の岐路、簡単に言うと受験とか就職とか結婚とか、そういう生活が変わっていく瞬間、私の得た知識は何一つとして意味をなさぬものになる。結婚はしてないけど。

その度に私は、ああ、もっとためになる事を学べば良かったと思う。ついでに文句を言うと税金周りは絶対に学校でやるべきだ。金銭関連はやましいみたいな考えを捨てるべき。大人になってまじで困る瞬間があるから。

話を戻そう。私は数学が出来れば良かったと子供の頃から思っている。だって10代の自分はいつだってこれのせいで嫌な思いをして来たからだ。思い返せば数字のせいで馬鹿にされ不安になり自信を落としてきた。私の周りには数学が出来なくても大丈夫と言ってくれる人間などいなかった。

が、さすがに出来なさ過ぎた。

正直これさえ出来ればもっといい選択が出来ただろう。もっといい世界に行けただろうし良い未来に出会えたはずだ。でも笑っちゃうくらい出来ない。根本的に数字が分からない。私にとっての数字はいつも黒色だ。

見るだけで憂鬱になり視界がモノクロになるような気持ちにされるのだ。

人生の岐路に、私が学んだ事が必要とされる瞬間があれば良かったのになあと思う。しょうもない歴史、芸術、言葉、これが受験に必須だったらめちゃくちゃ良かった。

まぁもう過去の話なのでどうでもいいんですが。

私が好きで詰め込んだ知識を理解してくれる人間は全然いない。もう笑えるくらいいない。美術の話は出来るんだけど、言葉の話や歴史など、テンションが上がり話すと絶対盛り上がらない。ごめんって思う。いや、これは本当にごめん案件。

作品を書いていてもそうだ。冗長過ぎる文章を書くとニーズには答えられない。結果噛み砕いて生み出す作品を、私は愛しているけれどどこか物足りなく感じたりもする。

うーん、ここ、この文章。もっと堅苦しい感じが良かったな。もっと情景を描きたかったなぁ。何言ってるこいつレベルの冗長さを打ち込みたいなぁと思ったりもする。個人的に自分が読む物語はいつだって堅苦しい冗長な文章だからだ。

しかしそんな事を考えていても、堅苦しい文章をしっかり書けるだけの力が足りないのが現状だ。

思っている物が表現できない瞬間が一番腹だしく思う。もっと、力を、おらに力を、と結果としてラスボスになるライバルみたいな思考回路になる。いるよねそういうキャラクター。

だから、辞書を開く。

結局知識に勝るものはないのだ。

殴るより武器を使う方が強いし、歩くより車に乗る方が速く移動できる。無知は恥とはよく言ったもので、私はいつまでも自分が無知だと思っている。この世界は知らない事で溢れていて、私はその一端すら知れていないと、本気で思っているくらいには知識の波は留まらない。

詰め込んできた訳の分からぬ知識も、いつか意味のある物となるかもしれない。

言葉の海に溺れて手を伸ばし新たな言葉を掴み、口に入れ飲み込んで咀嚼していく。この海は沈めば沈むほど良いものですが、沈めば沈むほど他人と離した時に、あれ?何だこいつの表現と言われます。面白いです。

言の葉の海はいつだって傍にあるけれど、多くの人がそれに気づいていないのだ。本を読まずとも海には沈める。少しのきっかけで世界は変わると、ずっと信じ続けている。

花は散っても春が廻るように、愛が消えても個が残るように、居場所が無くなっても新たな地へ向かうように。

人は前に歩いていく生き物で、足を止めるために生きているわけではないから。

だからできうる限りのポジティブシンキングで私は今日も辞書を開き、文句を言いながらもいつかの未来で幸福になれる道を選びながら、とりあえず目先の未来、数時間後の夕飯を何にするか考えるのだ。


いいなと思ったら応援しよう!

優衣羽(Yuiha)
もしよろしければサポートお願いいたします! いただいたものは作品、資料、皆様へ還元出来るような物事に使わせていただきます!