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世界に微笑んでもらうのではなく自分が世界に向かって微笑め
花弁が転がった
桜の花びらの不思議な所が散って道路に落ちた後、風が吹いたら縦に回るよう車輪みたいに舞う事。他の花には見られない特性だ。秒速5cmで落ちる花弁に、人は目を奪われる。
大きな花が落ちるのは首が落ちるみたいな残酷さがあるが、細かな花弁が散っていくのはまるで人の生の時間が鮮やかに散っていくからなのか。何にせよ人間は、特に日本で生きる人間はこの数週間に目を奪われる。
たまに捻くれた人間が桜が嫌いだと言う。私の母がそうだ。咲けば誰からも愛されて散り際すら大事にされる、主役みたいで綺麗だけど好きとは言えない。これを聞いた時、何て捻くれてるんだこいつはと思ったがそこは私の母。私も同じような理由で向日葵が好きじゃない。
向日葵は太陽に向かって咲く。大輪の花を広げ燦燦と夏の陽射しに生を受ける。向日葵の好きじゃない所は多分だけど一つに色味。あの黄色と茶色が好きじゃないんだと思う。特に種の部分は近づけば近づくほど集合体でちょっと嫌な気分になる。
次に幼い頃庭先で育てていた向日葵の種を炒って食した事があるが、生来ナッツ類が得意ではないため口の中が物凄い不快になった事だろうか。これも向日葵が悪いわけじゃない。単純に合わないだけ。
最後に、太陽に向かって迷いなく咲くからだろうか。人生はそんな真っ直ぐではない。天体系地球を照らす大きな燃える星に愛し愛される愚直な姿が、どうも受け入れられなかったのだと思う。早くも、自分の人生に陽の光が降り注ぐようなものではないからと感じたからだろうか。
まぁとりあえず、向日葵は悪くない。好みの問題である。
桜の散り際に最初に値段を付けた人間はどんな気持ちで付けたのだろう。金儲けになると思ったのか。それとも崇高な何かを感じ取ったのだろうか。後者であればいいけれど多分前者だと思う。人間って現金だから。
見知らぬ土地を新しい靴で歩いた。ピンク色のパンプスだ。街路を颯爽と歩いていると足先に花弁が転がった。ああこの花弁たちは美しさを失ったと烙印が押されるのだろうか。人々の視線は上を向き、風の中を舞う薄桃を見ていた。地に落ちたそれに目を向ける人は誰もいない。
散って踏まれて汚れても、美しいのが魅力だと思う。破けても色を失っても。溝を埋め尽くすそれが心の隙間を優しく埋めるようで。陽気と花々、人は少しだけ誰かに優しくなれる。
花は散っても生きてる限り春は巡るのだ。今日は二度と訪れなかったとしても時間は経ちもう一度新しい春が来る。去年の私は何をしていたっけ。確か引っ越し先を探してたか。この部屋に移り住んで来月で一年になる。随分早かった。
一年前の私はこんなにも時間が経つのが早いとは思わなかった。希望を抱いて踏み出した新しい世界は随分とくすぶる事ばかりだったけれど、一年経ってようやく物事が回り始めた。理想はまだ遠い。でも叶えるために生まれてきたんだから欲しい物には手を伸ばさなきゃ。
春先になるとさよならに気づいた数年前を思い出す。ちっぽけな後悔と一握りの勇気を持って踏み出した新しい世界で沢山悩み自分自身に問いかけた。結果、ここにいる。傷つけて傷ついてそれでも終わらせたくなくて言葉にした。それが今を作っているのなら、これからも変わらず言葉を紡ぐだろう。
指先に春が触れた。鼻先をツンとさせる。君は思い出になって久しい。戻らないから美しくて、過去を抱くから人は歩けるのだ。飲み込んできた全てを抱いてあげないと気づいた時に足を引っ張られてしまうから。
18歳だった子供に言おう。7年後の君はまだ書いていると。出来ると思って始めた書き物は最初の直感通り君の軸になったと。何をしても報われない、何をしても比べられて何をしても中途半端だと言われてきた君の、唯一になったと言おう。
今の君は随分前向きになったと言おう。相変わらず毒は吐くけれど、誰かを傷つけるための毒ではなくなった事を教えよう。きちんと自分の目で物事を判断し、誰かの意見で左右される事無く道を決められるようになったと言おう。そして君が経験してきた全ての苦しみが今を生かし幸福を作る糧になったと話しておこう。
中学生の頃妄想していた有り触れた幸福は叶わないと教えよう。ありがちな、大学在学中に付き合った恋人と同棲、26、7までに結婚して子供を産む。みたいな、テンプレートは叶わない。まだ25だけど、在学中に付き合った恋人と同棲はない。これだけは言っておく。ないぞ。
このテンプレートを君の兄は叶えるけれど、それに自分が惨めに感じるかもしれないけれど、先に言っておこう。君にテンプレートは無理だ。だっていつだって君は自分で自分の道を作り誰かが決めた型にはめられるのを嫌がるから。言う通りにしなさいも、出来ないも何もかも、嫌いだろ散々だったんだから。
君の良い所は型にはまらない事だ。ついでに言うと自分自身の力で稼いで幸福になれる事だ。誰かに縋って自分の人生を他人任せにしないのが君だ。これって凄い事だって、私は最近気づいた。人って安心感を得るために型にはまりたがる。はまらない人間に指を差すけれど、君が欲しい物はそこにない。
いつだって君は自分の好きな服装で好きな空想を描き自由を謳歌するんだ。素敵だろう。
君が選ぶ全ては君を幸福にするためにあるんだって、憶えておいてくれ。相も変わらず嫉妬や羨望に晒され文句を言われる事もあるだろうが気にするな。だってそんなものと向き合っても時間の無駄だから。私の人生は私を幸せにするもののために割いてたら、無駄なんていらない。
PRADAのバッグを持ちながら3300円の靴で銀座を歩いても、人は案外気づかない。むしろ3300円の靴がハイブランドと勘違いされ声をかけられる。素敵な靴ね、どこのブランド?って。笑える。返しはお気に入りのブランドですだ。間違いではないから。
大事なのは自分自身が持つ品性だ。どんなに安い服を着ようとも綺麗に身なりを整えて背筋を伸ばせ。身長は諦めろ、もう縮まないから。縮まないなら伸ばせ。堂々と前を向け顔を上げろ。それだけで世界は変わる。
誰かに憧れる気持ちもずるいと思う気持ちも痛いほど分かる。比べられるのが嫌いなくせに比べられてきたからそうしてしまうのも、称賛やスポットライトが欲しいと願うのも分かる。でもスポットライトは当たるべくして当たるべきだ。
背筋を伸ばしただけで世界が変わるなら、前を見据えて今日に対し喜びを見つけろ。君に取って春はそういう季節だから。
桜の散り際に値段をつけるなら、君は散っても美しいと言える人間のままでいよう。
ところで桜もいいけれど、たんぽぽも沢山咲いてたから時には下を向いて。
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