マガジンのカバー画像

元気でいろとは言わないが、日常は案外面白い

93
作家による日記風エッセイ
運営しているクリエイター

2024年10月の記事一覧

腹を括る事で幸せになるのなら、何度だって括って楽園へ手を伸ばす

時折、一瞬で世界が変わっている事がある。 それは別に、一瞬で変わった訳ではなくて。知らない所で進んでいた物事への結末がこの目に映る瞬間。それが重なっただけのお話だったりする。 一人で少し遠くに行っていた。呆然と、世界を見ながら久し振りにノイズのない状態になれたと感じながらも車窓を眺める。生きていると色んな事を考える。見えもしない未来に不安を抱き、置き去りにしたはずの過去の選択、これまでとこれから。今日のご飯は何にしようなんて考えるのも煩わしい時があったりする。 最近気づ

深海を照らしていた光は今、心臓の真ん中で輝いている

忘れられない瞬間がある。 午後一時、靡く薄水色のカーテン、黒板を弾くチョークの音、水平線のような空、制汗剤の匂い、薄手のシャツ、誰かの寝息、静かな教室。 電気のついていない室内が陽の光だけで照らされている。優しいその光が、子供の頃からずっと好きだった。今でも陽が暮れるまで電気はつけないし、目安はキーボードを打ち間違えるくらい暗くなるまで。 小さな声、息遣い、酸素を求める魚のようにパクパクと動かして。その先には忘れられない人生の欠片がある。 当時はこんなにも憶えているよ

いつか、そんな終わりを迎えるために進む物語

金木犀はまだ散らない 夏が長引き秋は一瞬で消え冬は長く春は変わった。生きれば生きるほど、知っていた季節は消えていく。残っていた歴史は薄れ、標準は変化し、希望は時に点滅する青信号のようで、いつ赤になるか分からない。普通はいつの間にか姿を変えていた。 その昔。十数年前くらい。よく分からないけど26歳くらいで結婚すると思っていた。進学するかしないかは分からない。でも淡々と、有り触れた日常を生き求められた普通を選ぶのだろうと、信じてやまなかった。 やりたい事は特にない。焦がれる