マガジンのカバー画像

元気でいろとは言わないが、日常は案外面白い

93
作家による日記風エッセイ
運営しているクリエイター

2022年12月の記事一覧

エンドロールの最後に、君の名前は消えるだろうね

さよならを指折り数える。 エンドロールで席を立ち帰る人とはうまくいかないと言われる事があるが、正直本人たちが良ければそれでいいのである。そんな事を、ふと思いついた。 映画館に行かなくなったのはコロナのせいか、学生で無くなったからなのか。そのどちらもが作用している気がした。単純に時間の使い道が狭まっただけの事である。 大学時代、最寄り駅に映画館があった。そこは錆びついていると言えば言い過ぎかもしれないけれど、集客率などほとんどない、数十年前に栄えたのだろうが今は既に全盛期

ハッピーもラッキーも手に入れたら気分は良いでしょう

アンラッキーの申し子 幼い頃から持っている。持っているというのは運ではなく反対の意味。 列に並んだら自分の前で全てが終わるし運ばれてきた料理が自分だけ頼まれていない事もしばしば、固形燃料は一人だけついていないし何故か同じ事をしていても自分だけが非を被る。 何もしていないのに自動ドアはいつだって開かない。ここまで来ると、最早幽霊なのではないかと思える。 もう一度言おう、持っている。悲しいくらいに持っている。ラッキーとは対極の位置で息をしている人生が25年続いている。なので

足を滑らせて転んでも、歩き出せるような人でいられますように

街路の銀杏が散り草木に積もりアスファルトを彩らせた 花が散る様に値段を付けた人間って何なのだろうと思う時がある。まるで死に値をつけているみたいだった。散り際こそ美しいならば、咲く前の姿は美しくはないのか。 未熟な子供が歩く様に目を向けて自己投影するくせに、成熟し年老いた人間の死にざまからは目を逸らすのか。花は逆だというのに。 そんな事を、外を歩いている時に思った。 街路にずっと植わっていたのは銀杏だったらしい。薄い、カスタードクリームのような黄色がハートみたいな葉を落

背負ってきた悲しみも苦しみも全部、僕だけのものだって知ってるから

詰まる所だが、 午前2時過ぎ、PCに向かい書き綴る日常だった。 窓の外から聞こえる音が静寂ではなく排気ガスを吐く鉄塊がアスファルトの上を走る音に変わったのは、成長か退化は分からなかった。鉄筋コンクリート造りの部屋は温度を奪っていく。 徐々に動きが鈍る指に鞭を打つようにキーボードの上を走らせる。軽快なワルツを踊れるようになるまで、何度も何度も繰り返し転んでは立ち上がり、ヒールの底がすり減っても踊り続けた結果、キーボード上のフロアダンスは一つも間違える事なく踊れるようになっ