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元気でいろとは言わないが、日常は案外面白い

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作家による日記風エッセイ
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2022年10月の記事一覧

呪いの言葉を吐いている。救いの言葉を書いている。

誰かが作った価値にあてはめられ、値踏みをされている 最近やっと体調が回復し今度は大量に食べるシーズンがやってきた。人間の身体というのは面白いもので、次に来る衝撃に備え身体を整えるために蓄えるのだ。多分、今冬眠前の準備中。 カフェインを断ってみたり、めかぶばかり食べたり、一見健康そうで不健康な日々を送っている。ところで時計を変えてからずっと急かされる夢を見ていた。つい先日、違う夢を見てようやくと思い安心したものだ。 時間と年齢が上がるにつれ、より感じるようになったのは誰か

打てなくなったら書いて、書けなくなったら言葉にして

時間は進むか 6万円の時計を修理に持って行った。すると半額出せば直せると言われた。そこで私は口を閉じた。 10年に近い時を共に過ごした。この先も、一緒に歩くと思っていた。私の時間を左手首で刻んでくれると思っていた。けれどある日突然止まってしまった日に貴方が出てきたから。 もう、さよならかなと思った。 大切に10月12日のまま仕舞っておきましょう。半額出せば直せるとか直してもらえばいいと、誰かは言うでしょう。でも時はそこで止まってしまったから、いい加減私も歩き出さなけれ

月日は貴方を彷彿させる

時計が壊れた。 10月12日、7時を永遠に繰り返すそれがおかしくなったのに気づいたのは、出勤してからだった。 太陽光で動く電波時計は、曇りの日や長時間伏せたままでいると時を止めてしまう。代わりに電光の下に置くと瞬く間に回復し正確な時を刻み始めるのだ。 動き始めた瞬間の秒針の速さはどこかやみつきになる速度で。ファンタジー映画でよく見るような、時計の針が回り続けるシーンに酷似していた。 そんな時計は随分と変わった壊れ方をしている。 5秒止まり5秒動くのだ。つまり一時間に30

四半世紀。四半世紀。

子供の頃、何故か半世紀という言葉が好きだった。世紀という言葉にはそこまでの魅力を感じなかったけれど、半世紀とか四半世紀とか。何かよく分からないけど好きだった。 多分、世紀という言葉の色合いが藻というか、明るい抹茶色のイメージだからか。まあ、これも私の世界から見た色彩なのだけれど。 半世紀という言葉はオフホワイトのような。歴史の書かれた書物が綺麗に保たれて白を遺しているような。あの初秋に図書館の隅で見つけた古びた書物の、少しだけ黄ばんだ紙の色に似ている。 人生が百年時代に

匂いは仕舞った記憶を思い出させる爆弾だ

ベランダから見えた花火を眺め、思い出は繰り返すものだと悟った。 何度でも言うが匂いと音は、仕舞ったはずの記憶を思い出させるための爆弾だ。爆発した瞬間、走馬灯のように当時の出来事が浮かび上がり、心を締め付けては唇を噛み締めた。着火を待っていたわけでもないのに、勝手に思い出しては苦しむなんて馬鹿みたいだ。 先日、歩いていると金木犀の生垣が続いていた。橙の小さな花はまだ、落ちる気配もない。 金木犀の匂いはどこか石鹸の匂いに似ている気がする。酔いそうな甘さと肌にこびりついていく