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韓国ドラマ「スイートホーム」の伏線解説と感想 ※ネタバレ注意

7月19日(金)にNetflixで配信開始した、sweet home(スイートホーム)シーズン3。ソン・ガン演じるチャ・ヒョンスと、グリーンホームの住人たちが怪物に立ち向かいながら生きていくホラーサスペンス作品です。ここでは、伏線の解説と作品の感想を紹介します。


『新人類』について

シーズン2のラスト、イ・ウニョクが復活したことで
新たな怪物の登場か、特殊感染者か、
どんな姿で登場するのか期待が高まっていました。
しかし、彼の口から語られたのは原作にはない設定『新人類』。

新人類は、人間でもなく、怪物でもない存在。
超人的な身体能力を持っているが、怪物のように特殊な力はない。
過去の記憶が持っているが、人間的な感情を失っている。
死んでも繭(彼らは心臓と言っている)に包まれば、また復活できる。
不死身の存在。

シーズン3から突然登場した設定のように思えますが、
実は、ウニョクが怪物化するよりも前から、新人類になる人物がいました。

グリーンホーム15階に住んでいた女性、イム・ミョンスク。
幼い我が子を亡くしたばかりの母親で、
鼻歌を歌ってベビーカーを引いている姿が印象的でした。
彼女も怪物化した直後、何度か内にある怪物と争うような描写がありましたが、怪物化を受け入れて、スヨンとヨンス、住人たちを襲うことを恐れたのか、そのまま閉じこもるようにして繭に包まれていました。
シーズン2では繭から復活した直後なのか、生まれたてのような状態で登場しています。

シーズン3では登場しなかったため、その後の生死は不明。
軍人に殺されていたため、彼女はまた繭に包まれて復活しているはず。

新人類とは一体なんなのか、どうすればなれるのか。
作品内ではほとんど説明されていません。

新人類は「怪物化を受け入れれば真実が見える」
特殊感染者は「発症から15日間、怪物化を耐えれば進化できる」

自分の欲望=弱さと捉えれば、
内なる怪物を受け入れるか、必死に争うか。
その決断で新人類になれるか、特殊感染者になれるか
大きな違いなのだと思います。

ウニュの怪物化で聞こえた幻聴

ウニョクと再会し、ヒョンスが戻ってきた後
ずっと会いたかった二人を目の前に安心したのか、
ウニュの怪物化がはじまった。

ウニョクの声が聞こえてきたり、ウニョクに優しい言葉を掛けられて抱きしめられる幻覚を見ていることを察するに、彼女の欲望はふたつ。

・新人類ではない、本来のウニョクに再会すること
・ウニョクと一緒に暮らしていた日常に戻ること

ウニョクとウニュは血の繋がっていない兄妹であり、ウニュは養子縁組をして引き取られています。
両親が死んでもなお、血の繋がっていない自分を守ってくれるウニョク。
苦労して入った医大を休学し、ウニョのためにバレエ費用をアルバイトで稼いているウニョク。
そんな兄に罪悪感を抱いていた結果、ウニュは一人、家を出て行こうとしていました。

「食料と武器、薬を持って一階へ。生存者の生存確率が高まります。生存者は共にいるべきです」

これは、ウニョクのセリフです。
グリーンホームの住人たちに向けて、みんなで助け合おうと放送で伝えているシーンですが少し違います。

ウニュの気持ちを知っていたのか、
ウニョクは住人たちに伝えている様に見せかけて、ウニュに伝えています。

「一緒に生きていこう」

そのウニョクの言葉が、怪物化で聞こえた幻聴によって、
シーズン3ではウニュだけで届いていました。

ヨンスがスライムの怪物になった理由

グリーンホームの生存者のひとり、ヨンス。
姉・スヨンを失い、幼いながらに怪物が溢れる世界に翻弄されながら生きる男の子。

彼は人間を怪物にできるイ・スと出会い、交流を重ねた結果
スライムの怪物になってしまいました。
ヨンスは怪物になっても人に危害を加えることはなく、むしろウニョクの助けになってくれています。

なぜ、ヨンスはスライムの怪物になったのか、その理由はシーズン1で分かります。
ヨンスの父親は食料を調達するために家を出ましたが、すぐに怪物に襲われました。
マンションの上層階から落ちてしまったため、即死かと思われましたが、実は息がありました。その後、スライムの怪物として再度登場し、ヨンスを敵から救っています。怪物になっても人を助ける優しさは父親譲りということですね。

ヨンスが怪物になった時はショックでしたが、ラストで人間に戻った元気な姿を見て安心しました。

スイートホームの意味

Sweet homeは一般的に、「愛しい我が家」と訳されることが多いです。
怪物によって日常が奪われ、楽しかった家族との記憶やつらい記憶を胸に生きているキャラクターたちにとってはノスタルジックの概念とも言えます。

・自分らしくいられる場所
・安心できる場所
・楽しい記憶が残っている場所

相対的なつらい環境に置かれているからこそ、人々は怪物化が進んだことでもう戻れないあの場所に、あの頃に戻りたいと思ってしまう。
新人類は感情が失われてもなお、過去の記憶を頼りに棲み家を探している。

スイートとビターは表裏一体。互いに相関関係を築いているからこそ、スイートなホームを求めるのなら、必然的にその弱さを認め、怪物化を受けとめなければならないという考えがあるんじゃないかと思いました。

作品の終わり方について

作品は、屋上でウニョクとヒョンスがウニュを見つめるカットで終了。
グリーンホームの屋上ではないため、新たに棲家を見つけ、そこで三人一緒に住んでいることが予想されます。

ウニョクとヒョンス、どちらが先にウニュを見つけたのか
ウニュは新人類になったのか
ウニョクはどのようにして感情を学んだのか
新たな棲家「スイートホーム」を見つけるまでの過程は?

はっきりとした結末を出さず、視聴者の想像にお任せしますというラストだったため、好みは大きく分かれますね。個人的には素敵な終わり方だと思いました。スイートホームは「自分で考えて欲しいということそのものがテーマになっている」という作品なんでしょう。話を広げすぎた結果、少々テーマが脱線したように見えたのは目をつぶります。

この作品はシーズン3で完結しており、シーズン4はありません。続編があれば、ウニュウニョクヒョンスのその後、生死不明になったグリーンホームの住人たちを描いてほしいですね。

作品全体の感想

スイートホームの魅力といえば、怪物が溢れる特殊な状況下で起こるヒューマンドラマと、主人公・ヒョンスの成長です。

シーズン1では個性豊かな住人たちがマンションという狭い世界で必死に生きている姿が良かったですし、ヒョンスが怪物と己の過去に向き合って葛藤している姿がカッコよかった。泣けるシーンも多く、改めて全シーズンを通して見て一番面白かったですね。字幕と吹替、どちらも好きで何度も見返しています。

シーズン2では主人公の成長を描く様子やヒューマンドラマの魅力が激減。一気にディストピア・バトル漫画へと姿を変えてしまいました。魅力といえば、カラス部隊とウニュが兄を探す展開だけ。グリーンホームの住人たちも続々と死んでいき、まるで重要な役以外までは手が回らないという理由でシーンを省いているかのように見えてしまいます。正直苦痛でした。悪く言えば、シーズン3のための序章です。

そして、待望のシーズン3。ついにイ・ドヒョンも復活し、新たな展開に期待が高まっていました。結果、展開に粗が目立ちますが、シーズン2よりも面白さを盛り返し、綺麗に物語を終えられたと思います。

ショックだったポイント
ヨンフ以外のカラス部隊メインキャラクターが1話で死んでしまったこと
グリーンホームの住人がほぼ死んでしまったこと
感情移入できないキャラクターが多かったこと(神父の件は正直いらない)
良かったポイント
ウニュウニョクの再会
イギョンの葛藤
最終決戦時、サンウクの戦い
闇ヒョンスのカッコよさ

シーズン1との大きな違いは、ケミ(人と人とが化学反応を起こす)の少なさ。キャラクター同士で関係を構築し、友情や裏切りなどが見れれば良かったのですがどうしても中途半端に思えます。完全にキャラクターが個人で動いている分、描かなければいけない話も多く、8話では足りないと思ってしまう要素のひとつですね。

やはり、シーズン3は俳優陣の豪華さと演技力によって、脚本の粗が薄まり、結果的に作品が良くなったように思えます。

個人的に一番良かったのは、イ・ドヒョンですね。彼が登場したらぐっと作品の色が良くなりましたし、展開のワクワク感が上がりました。彼が登場しないままだったらシーズン3は今ほど話題になってないと思います。ウニュとの再会も「そうきたか!」という感じで、いい意味で裏切られましたね。

泣けるポイントもたくさんあって良かったです。
(ウニュの怪物化のシーンは号泣しました)

2020年から約4年、無事に作品を最後まで見られて私的には満足しています。原作者が生み出した難しい世界観を越えることは簡単にできるものではないし、誰もが満足できるものを作り上げる難しさを実感する作品でした。

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