アメリカの田舎でiPad Miniを土に埋めた話
(初出:2013–06–19)
アメリカはミネソタ州のSt.Paulという街の、中心部からさらに外れにあるのに、なんだかバブリーな内装のライブ会場へライブを見に行ってきた。2セットみる予定で夜8時から深夜2、3時まで続く感じ。ニューヨークから行って現地で一晩明かしてとんぼ帰りする予定で。
写真や音声など記録できるデバイスの持ち込みが禁止というのは事前に聞いていたのだけど、会場に預ける場所ぐらいあるでしょ、と日本の感覚で思っていた。またチケットはネットでしか購入できず、家のプリンタで出力してくるよう指示書きがあったんだけど、旅行中でプリンタは手元にないし出力サービスはお金がかかるし、資源の無駄じゃない?iPad Miniで見せれば合理的だよね、どうせバーコードをスキャンするだけでしょ、と思って印刷していなかった。
ところがセキュリティを担当した会社の見立てたワークフローは「地元の人しか来ないだろうし、家でチケット印刷して車なり歩いてここまで来るよね」でありそれ以外はただ見立てもなく、ただただ「ノー」と言うだけだった。カメラ機器は車に置いてくればいいし、チケットは入場時のみ必要だから手渡してくれればいいし、そしたら手首にタグを巻いて中に入ってくれ、と。だからカメラ機器は置いてチケットだけ持ってくればいいじゃない?と。そしてそのルールは超厳格に適用されたのだった。そしてそこに、PDF化したチケットが入ったiPad Miniがないと入場できないし、カメラ機能のあるiPad Miniがあると入場できないという矛盾が立ち現れたのだった。
「カメラ機器の持ち込みは禁止」と数十回聞かされたし、新キャラが来ては同じことを言うので「知ってるしってる」と言い返したり、「日本から来たんだよ」と(本当は違うけど日にちを長めに解釈すればそうとも言える)ぴょんぴょん飛び跳ねたりしたが、セキュリティ会社の人いわくとにかく一切入れることはできないと。それで、ぼくのような外の州から来た人や旅行者にはなす術があまりなく、ぼく同様に困ってる人たちが十数人いたと思う。そしてチケット代は$280/show。なんとかせねばならない。
チェックポイントが複数あって、それは1.荷物チェック、2.チケットチェック、3.チケットの種類に応じた手首にタグを巻いてもらう、の3つ。1と2をiPad Miniがある状態で済ませて、iPad Miniを会場の外へ置いてきた後、1を再度済ませ(一旦外へ出ているので)2から3の場所へ係員と一緒に移動し、3を済ませる必要がある、と。
外で置いてくるといたって、周囲にも預かってくれる場所はなく、田舎なのでロードサイドの店舗がいくつかあるしかなかった。入場を待ってる行列と、それらのひとたちが止めた車だけがあるのだった。ロードサイド店舗の店員に少しお金渡して預かってもらうかとも思ったのだけど、人が介入するややこしさもあるし、ライブ自体が深夜2時すぎまでかかるのでお店はしまってしまう。並びながら会話した人たちは善良そうだったけど車では来ていなかったので預けておくこともかなわなかった。結局駐車場をブラブラ歩いてみつけた、草むらで一部ゴザのようなものが一体化していてペロッとめくれるようになってる土の中にiPad Miniを埋めてしのいだのだった。いくらトムソーヤの舞台の地だからといって、アメリカの田舎でiPadを土に埋めることになろうとはこれまで想像したことがなかったな!たまたま通りかかったパトカーに「何をしている?」と職質され、作り笑顔で「ライブ会場へ行こうと思って〜」とやり過ごして「じゃあ早く行けよ」とパトカーが去った後におもむろにスーっとまた戻ってiPadを土に埋める、ということをしていた。下手に説明しても絶対理解してもらえないだろうから。
戻ってきて同じような境遇の人たちが係員に捕まっていて、外に置いてきたよと係員に告げるの「どこに!?」と血相を変えて聞かれたのだけど「外に」としか答えられなかった。ノウハウ(違)を共有できなくてごめん。
結局2回のショーとも同じことをしたが二度目も苦労した。だって各チェックポイントにいる係の人が全ワークフローを知ってる訳じゃないんだもの。ぼく「緑のタグがいるんです」係「いや、要らないよ」ぼく「いやいや、要るんだってば!」係(マイクで全体見てる人を呼び出す)…といった感じ。
1回目はがんばってスルスルと人並みをかき分けて前から2列目。2回目はどうにも挽回できず10列目ぐらいから無事ライブを観てこれた。
深夜2時すぎのライブ終了後には手間をかけて助けてくれたセキュリティの人たち数人を探して、ファーストネームを交換して握手して感謝の意は伝えてきた。イレギュラー処理には違いないだろうし助けてもらったので。セキュリティの人で日本に行ったことあるおじいさんもいて、観客にも日本にいたことある人がいたんだけど、第一声が揃って「ワタシはニホンゴがハナセマセン」だった。最初はヨーロッパの言語かと思ったが発話されしばらく経つと日本語が頭の中で立ち上ってきた。なんだか “I can’t speak English” と日本人が言っているようなシュールな内容がおかしかった。軍隊で那覇や三沢で働いていたんだとか。