令和6年司法試験 商法 再現答案
第1.設問1(1)
1.Dは株主ではないため、株主ではなく監査役の地位に基づき何らかの手段を採る必要がある。そこで「監査役」として、385条1項に基づき本件臨時株主総会1の開催を止めるように請求できないか検討する。
2.まず、同条項は直接には「取締役の行為の差止め」を定めているから、取締役でない乙社の行為の差止めを行う本件の事案では同条項を直接適用することはできない。
3.では同条を類推適用できないか。この点、同条項の趣旨は取締役の業務執行を監査する監査役の地位に鑑み、会社運営の適法性を確保しもって会社及び株主の利益を保護するという観点から、取締役の違法行為の差止めを認めた点にある。よって、直接的には取締役の行為でなくても会社運営の適法性が害され、会社及び株主に不利益をもたらす恐れが存する場合には上記趣旨が妥当し、同条項が類推適用可能である。具体的には、①株主が取締役の職務執行を代替する場面であり、②「会社に著しい損害が生じるおそれがあるとき」に類推適用可能であると解する。
4. 本件では、乙社は、令和3年7月20日、甲社に対し「本件各議題」を目的とする株主総会の招集を請求した(297条1項・2項)。しかし、甲社は、株主総会の招集通知を発しなかった。そこで、乙社は、令和3年9月27日、裁判所の許可を得て、甲社の株主に対し、本件各議題 を目的とする本件臨時株主総会1を開催するため、必要事項を記載した招集通知を発した(同条4項1号)。株主総会の招集は取締役の業務執行の一環として行われるものである(298条3項)から、乙社は取締役の職務執行を代替している(①充足)。
5. 本件議題は取締役及び監査役の選解任であるところ、誰が取締役及び監査役の役職に就くかは会社運営に重大な影響を及ぼすものである。よって、乙社の株主総会招集行為により「会社に著しい損害が生じるおそれがあるとき」に当たる(②充足)。
6.以上より①、②を満たすから、本件臨時株主総会1の開催に法令違反があるのであればDは385条1項に基づき、乙社の行為の差し止めを請求できる。
第2.設問1(2)
1.Eは「株主」として「決議の日から3箇月以内」に、本件決議1について、株主総会決議取消しの訴え(831条1項柱書)を提起した上で、差止め仮処分(民事執行法23条2項)を申し立てることが考えられる。
2.本件では乙社は株主総会の招集に当たり、本件書面を交付したうえで、議決権行使について商品券を交付しているところ、これが利益供与(120条1項)に該当することにより、「決議の方法が法令・・・に違反」する場合に当たらないか(831条1項1号)。
(1)本件では乙社が商品券の交付を行っているところ、120条1項が直接適用又は類推適用できるかが問題となる。仮に「株式会社」の定義に乙社が該当するのであれば、直接適用可能であるため、「株式会社」の定義について検討する。
(2)同条項の趣旨は、株主の権利行使に影響を及ぼす目的で会社が利益供与を行うことは、健全な会社運営を害するから、これを防止する点にある。よって取締役が主体となる場合だけでなく、株主が取締役の職務執行を代替する場合も「株式会社」に含まれると解する。このように考えないと、健全な会社運営という同条の趣旨が害されるからである。また、小問(1)とは異なり、120条1項は「取締役」ではなく「株式会社」という文言の規定となっているから、このような解釈も無理な解釈ではない。
(3)本件では第1で検討した通り、乙社は取締役の職務執行を代替しているから、「株式会社」にあたる。そして乙社は本件各議題についての乙社提案の各議案のいずれにも賛成した甲社の株主全員とういう「何人」に対して、1000円相当の商品券という「財産上の利益を供与」している。
(4)既に述べた同条項の趣旨から「株主の権利・・・の行使に関し」とは、株主の権利行使に影響を与える趣旨であれば肯定される。本件では、本件議題についての乙社提案の各議案について賛成票を投じることの見返りに1000円相当の商品券を交付するものであるから、株主の権利行使に影響を与える趣旨であると評価できる。よって「株主の権利・・・の行使に関し」を満たす。
(5)以上より、乙社の行為は利益供与に該当し、120条に違反する。よって、831条1項1号に該当する。
3.令和3年10月20日、本件臨時株主総会1が開催され、本件各議題についての乙社提案の各議案は、いずれも出席した株主の議決権の約75%の賛成により可決した。そして、本件臨時株主総会1においては、出席した株主の議決権の数は、例年の定時株主総会よりも約30%増加し、行使された議決権のうち議案に賛成したものの割合も、例年の定時株主総会において行使された議決権のうち甲社が提案した議案(いずれも可決された。)に賛成したものの割合よりも高いものであった。なお、本件臨時株主総会1において、甲社の株主が返送した議決権行使書面には、賛否の欄に記入をしていない白票は存在しなかった。これらの事実を踏まえると、乙社の利益供与が株主の投票行動に影響を与えたことは明らかである。よって、「決議に影響を及ぼさないものであると認めるとき」には当たらない。したがって、裁量棄却(831条2項)はなされない。
4.以上より決議取消しの訴えは認められる。
第3.設問2
1.丙社は本件決議2は株主平等原則(109条1項)違反であるから、法令違反として株主総会決議取り消しの訴えを提起する(831条1項1号)。
2.本件株式併合は①~③を一連のものとして行うことにより丙社を排除し、ABCのみを株主として残存させるというスキームの一環としてなされたものである。よって、丙とABCとの間で、不平等が生じており、原則として109条1項に違反する。もっとも、本件のような企業買収の事案においては、会社の企業価値が毀損され株主の共同の利益が害される場合にまで、厳格に株主平等原則を貫くのは妥当でない。そこで、(a)会社の企業価値が毀損され株主の共同の利益が害される場合であり、(b)差別的取り扱いが公平の理念に反し、相当性を欠くものでない場合には、例外的に同原則違反にはならないと解する(ブルドックソース事件判決参照)。そして、丙社による企業買収が甲社の企業価値を毀損するかは見解の分かれる問題であったが、これに関する判断については会社の実質的所有者である株主の判断を尊重すべきだから、(a)の要件は、判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が瑕疵が存在しない限り、株主総会決議が可決されていれば肯定される。
(1)甲社は、令和5年12月11日、適法な招集手続を経て、本件臨時株主総会2を開催した。本件臨時株主総会2では、全ての株主が出席し、Aが上記8及び9の丙社による提案等を説明した上で、甲社と競合関係にある丁社のために経営に介入されることを防ぎ、甲社の独立を維持するために、丙社を締め出す必要があるとして、本件株式併合が必要な理由を説明した。そして本件決議2は可決された。これらの事実を踏まえると、判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が瑕疵は存在せず、適法性のある株主総会決議により議案が可決されている。よって(a)を満たす。
(2)、本件株式併合により1株に満たない端数となる株式の買取価格は、公正な価格と認められるものであった。よって(b)を満たす。
(3)以上より、109条違反に当たらず、株主総会決議取り消しの訴えは認められない。なお、ブルドックソース事件の事案と異なり、本件の事案は買収者排除の計画を主導した者のみが議決権を行使している事案であるが、やはり会社の実質的所有者である株主の判断を尊重すべきであるから。結論は変わらない。
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