社会的インパクトを成長ドライバーに、ビジョン・ミッションの実現を加速する
こんにちは、守屋祐一郎です!ユビー、聖路加国際大学公衆衛生大学院(School of Public Health,以下SPH)に所属しています。
先日公開された重要政策文書骨太2024、新しい資本主義のグランドデザイン2024年改訂版にて、社会課題解決、インパクトに関する複数の言及がなされました。今後ますます、同テーマに対する関心の高まりが予想されます。
先立って、ユビーでも先日、社会的インパクト指標とロジックモデルver1.0の策定、開示を試みました。実際に社内外ステークホルダーとの対話で活用される中で、事業、組織の成長(ビジョン・ミッションの実現)を加速する兆しが現れています。
本noteでは、プロジェクトをリードする担当者の視点から、学びや展望を記します。
インパクトと日々の業務が直接関連し、事例や活用方法に関心がある事業者、インパクトファイナンス関連の方
社会課題解決を志し事業に挑み、インパクトやその評価の存在を知り関心も強いが、生き延びるために必要な日々の売上、利益創出を優先する中で具体的な活動には繋げられていない方
社会課題解決を志し事業に挑み、ユーザーや顧客の声から確かな手応えを感じているが、財務的な価値ばかりに注目され、真価を過小評価されているのではないかと悩む方
に興味を持っていただける内容を意識しました。
要約
重要政策文書(骨太、新しい資本主義のグランドデザイン)にて社会課題解決、インパクトに関する多くの言及が成された。今我々は、社会課題解決が経済の本流になる「転換点」に在る。
社会的インパクトは、ステークホルダー間の共通言語として事業と組織の成長ドライバーとなり、ビジョン・ミッションの実現を加速する強力な武器となる可能性を秘める。
現行の社会善に外発的なインセンティブが生じにくい資本主義に対し、「インパクト」という介入は良い「治療効果」をもたらす可能性を秘める。企業による主体的なインパクト評価の実践と活用の事例蓄積、及び規範形成に向けたマルチステークホルダーの議論が極めて重要である。
背景:社会課題解決が、経済の本流になる
半年前のnoteにも記した通り、社会課題解決、インパクトの興隆は一過性のものではなく、経済社会システムにおけるゲームチェンジと考えています。
踏まえて、上述の最新の重要政策文書における関連文言を抜粋します。
企業目線では、❶意図するインパクトと財務的成長を両立しながら、❷適切に評価、開示を行なっていくことが求められていると解釈できるのではないでしょうか。
ユビーは第一歩を踏み出したばかりですが、今後両者を追求していきます。次章では、2024年5月ver1.0の策定、開示から得た学びと今後の展望を記します。
社会的インパクトを成長ドライバーに、ビジョン、ミッションの実現を加速する6の学び
ユビーのインパクト評価における基本思想は、「インパクトを社内外あらゆるステークホルダーとの対話に融合し、ビジョン、ミッションの実現を加速する」ことです。
外部動向の調査、事業課題の定義、社内のリソース確保、要件定義と開発、公表物作成、開示後のステークホルダーとの対話への浸透、と一連の過程を推進する中で得心した6の学びをご紹介します。
① Mission Impact Fitを表現する
複雑な社会課題はいち企業では解決できず、協業が必要条件です。その際、ビジョン、ミッションはステークホルダー間の共通言語になります。ゆえにインパクト指標の策定においては、掲げるビジョン、ミッションと整合するインパクトの創出を内包する成長戦略*を表現することが重要と考えます。
*造語でMission Impact Fitと呼んでいます。
これらを適切に翻訳しながら、ステークホルダーとの対話に活用しています。ver1.0ゆえ改良の余地も多くありますので、実践の中で改善してまいります。
② Impact-Led Growthを意図する
評価は価値を引き出す営みです。経営意思決定、ガバナンスへの統合と並列で、インパクトを起点にステークホルダーとの結束を強化し、ビジョン、ミッションの実現を加速すること(Impact-Led Growth)が重要と考えます。
各方面壁打ちを重ね、Growthへの貢献を信じられる形に作り込みました。開発者自ら継続的に、社員、顧客、投資家、採用候補者など全方位への浸透活動と改善方針の探索に取り組んでいます。
浸透とは、社会課題解決に向けたステークホルダーとの結束を強めることであり、ビジョン、ミッション実現の加速に他なりません。このような活用方針、出口戦略の設計は、手段の目的化を防ぐ上でも重要と考えます。
③ チームでビジョンを開発する
インパクト評価は自社の内発的なビジョンと深く対峙するR&Dであり、同時にビジョンを全方位に浸透する広義のS&Mと解釈できます。その観点で、IMM(インパクト測定・マネジメント)実施に際してはプロダクト開発、事業開発になぞらえ、ビジョン開発(Vision Development)的なケイパビリティを備えるチームの構築が有用と考えます。
例えば、ユビーのインパクトチームでは、
ビジョン、ミッションに対する理解と共感を解像度高く有し、自らの言葉で熱を込めてストーリーテリングできる
取り組みで意図する目的、目指すアウトカムを見失わず、変化する状況に呼応し、迅速かつレジリエントな仮説検証を重ねられる
大きな未来を信じ、0->1段階にありがちな不確実性、失敗、必要性の疑念を乗りこなし突破できる
綿密なリサーチから実効性、厳密性等のバランスを総合的に勘案の上、最適な手法を採用できる
ステークホルダー視点で違和感のない言語(サイエンス、ファイナンス、etc…)を、伝わりやすい濃度で配合、表現できる
QCDのバランスを制御しながら、目的に資する制作物を企画、作成、出版できる
チームを組成できました。企業内部におけるIMMの担当者は、「ビジョン開発」のような役割期待とともにアサインできるとより輝くのではないか、と考えます。
④ Quick Winを捻り出す
限られた資源で効率的に売上、利益を作ることが必要な一方、インパクト評価が何に効くか確信を持てず、優先度が上がらない企業も多いと思います。
創業者/医師の阿部は医療の課題を解く手段として事業を選んでおり、ユビーにとってインパクトの追求、評価はある意味当然でした。また、個人的にも「ユビーのビジョン、社会貢献を定量、定性で対話に活かすことで、社内のガバナンス改善、ステークホルダーとの結束強化を通じて、よりビジョン、ミッション実現を加速できる」という仮説を持っていました。
しかし、貴重な時間や資金を投下する以上、期待成果を信じる根拠や覚悟が重要です。そこでQuick Winを通じて投資効果を信じられる状態を作ることが鍵になります。その初期テーマとして、下記の理由から「採用ファネルの改善」が効果的でした。
社員からの認知、理解を得られる
社員からのフィードバックを得られる
貢献を即効性高く定量定性両輪で認識できる
実際に、「候補者の方がよりユビーの社会貢献により魅力を感じてくださっている」という反響が、「インパクト、なんか良いじゃん」と皆で信じられる最初の根拠となりました。「今後xxに取り組みたい、不確実性の潰し方はxx、マイルストンはxx」といった中長期の構想と両輪で、今すぐに信じられる具体的な成果を作る(例えN=1であっても)ことが、インパクト評価の0->1において極めて重要と考えます。プロダクト開発や事業開発と同様ですね。
⑤ インパクトと財務のバイリンガルになる
インパクト、財務のどちらかに偏重した状態では、自社の真価は十分伝わらないのではないでしょうか。また、どちらか一方を追う意思決定では、時にビジョン、ミッションからズレかねません。理想は、「社内外のあらゆるステークホルダーが、インパクトと財務の言葉を使いこなし、ビジョン、ミッションの実現に向けた対話と共創を実行できている状態」と考えます。
そのためにも、事業特性やメトリクスの傾向を考慮しつつ、双方の言葉を組み合わせ相互補完的に聴き手のセンスメイクを導く技術に価値があると考えます。インパクト企業の資本市場における情報開示及び対話のためのガイダンス第1版なども参考に、実装と対話のブラッシュアップを試みます。
*医療ヘルスケア関連企業を広義の医療従事者とみなせば、上記に加えパブリックヘルスの観点を考慮したトリリンガルな状態が理想と考えます。
⑥ 数字とお金を諦めない
数字とお金は強力です。2024年5月時点のver1.0では、かなり定量面を強調しています。具体的には、
DALY,疾病負荷を用いた「社会課題のTAM」の定量化
増分QALY,健康寿命延伸インパクトの定量推計
インパクト加重会計の手法を参考にした経済価値換算
に取り組みました。(詳細:Ubieの社会的インパクト)
この他にも、インパクト評価そのものが0→1段階にあるという前提で、なるべく多くの方との共通言語がある状態を実現すべく、定量的で客観的な表現を多めに散りばめています。
数字やお金で定量的に全てを説明できる、ないし定量が常に正しい、とは考えませんが、既存の定量的な概念との比較を通じて建設的な議論に繋がることは少なくないと考えます。その最たる例が、インパクト加重会計、すなわち社会的インパクトを貨幣価値に換算、財務指標と比較可能にし、意思決定に用いる考え方です。
領域によって相性は異なりますが、特に現時点では、数字やお金といった定量的で客観的な表現を工夫することが結果として最も建設的であるケースが多いのではないか?と感じています。
今後は、Appendixに記載した内容の他、
定性的、質的な価値と融合(Mixed method)した日本型インパクト
インパクトと財務のテクニカルな翻訳(Impact on equity、Impact earnings ratioなど)
なども探求できたらな…と妄想しています。
後記:インパクトは、資本主義を「治療」できるか
企業の能動的な実践にこそ意味がある
本noteで紹介したユビーのインパクト評価、開示のプロジェクトに臨む姿勢に対して、私はありがたいことに四半期の全社バリューアワードを頂戴しました。
自身のオタクをユビーの嬉しさに変える=ユビーという関数を使って私という存在の社会貢献を最大化する"勝ちパターン"を腹落ちすることができ、嬉しく思います。他方、この受賞は以下の点でも興味深いなと感じています。
インパクト評価の仕事は、狂信者たる自分以外にとっては、「不確実で不恰好な一歩目」であった点
しかしver1.0をやり抜いた時点で、全社として大きな未来への手応えを感じ始めている点
企業が主体的にインパクト評価に取り組むことで、予想以上に色々いいことある(ただしめっちゃ不確実性高いので、覚悟を持った推進が必要)のではという感覚が伝われば幸いです。
"インパクト"の意味と存在意義を問う
なぜ私が狂信者でいられたかというと、乱暴に言えば「インパクト評価、やって当然じゃん」と考えているからです。
私は11年前に健康へのマクロな介入として医療ヘルスケア x ビジネスを選びました。以来ずっとビジネスを「スケーラブルな健康創造の手段」と捉えて仕事をしています。
ゆえに、「ビジネスを通じた社会課題解決」は至極自然であり、インパクト評価は有言実行の必要条件と感じています。なので、わざわざ「インパクト」と仰々しく呼称することには、微妙に違和感を覚えています。個人的な感覚ですが、「大きい方がえらい」印象を回避できず、質的な価値を過小評価してしまいかねない(果たして大きいことだけが豊かなのか)、と懸念を持つからです。
しかし、現行の資本主義では社会善に外発的なインセンティブが生じにくいことを踏まえ、そこに「インパクト」という介入が良い「治療効果」をもたらしうると仮説を持って、考えながらどんどん前に進みたいなというスタンスです。
実践を重ね、規範を形成する
インパクト投資の資金総額は拡大しています。政府の支援は強化傾向、マルチセクターの議論も多方面で始まりました。企業にとって、「インパクト」的なものが当たり前になっていく機運は今まさに高まっています。
今必要なのは、企業による実践の積み重ねと規範形成です。
ユビーでの取り組みに加え、パブリックヘルス人格の自分としては、医療経済学の知見を梃子に、医療ヘルスケア産業からこのトレンドを加速したいと考えています。具体的には、社会的インパクト評価 x 多基準意思決定(MCDA)、社会的インパクト評価 x 企業価値にセンターピンを置いて研究に取り組みます。政策、企業による参照を通じて、実際に「意思決定」、「リソース配分」、「コミュニケーション」の行動変容、ひいては規範のイノベーションに資する実装科学を目指します。
そのようにして、個人的なミッションである「パブリックヘルスの産業を開発する」を愚直に追いかけます。