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【社会人大学院実況中継】Ubie x 公衆衛生大学院(パブリックヘルス)1年目総括

こんにちは、守屋祐一郎です!「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」Ubie、社会人大学院生として聖路加国際大学公衆衛生大学院(School of Public Health,以下SPH)に所属しています。

2023年4月の大学院入学から1年、2年目の春タームが始まりました。学びと頭の棚卸しを兼ねて、タームごとに都度noteを書いています。本記事は1年目の総括です。

こんな方に読んでもらえたら嬉しいです!

  • 公衆衛生大学院、薬剤疫学、医療政策、健康行動科学等に関心があるビジネス人材

  • ビジネスやスタートアップに関心があるパブリックヘルス/医療関係者

  • 社会課題解決、インパクト界隈

2023年度のいろいろ


(インプット)授業、社会人ゼミ

あちこちで学び、様々な分野の専門家と議論でき、充実した1年目でした。

1.聖路加国際大学公衆衛生大学院の授業

履修した科目は以下です。

    • 疫学概論 / Epidemiological Methods

    • 生物統計1 / Biostatistics I

    • 健康情報学 / Health Informatics and Decision-Making

    • 医療政策 / Health Policy & Management

    • 公衆衛生学概論 / Introduction to Public Health

    • 臨床疫学 / Clinical Epidemiology

    • 健康行動科学 / Health and Behavioral Science

    • 環境保健学 / Introduction to Environmental Health

特に医療政策、健康情報学、健康行動科学は個人的な関心と近く面白かったです。聖路加はあまりネットに情報がないので、実態気になるよ〜という方はお気軽にコンタクトください。

2.Next Public Health Lab

パブリックヘルス、公共政策分野のゼミに参加しました。他校含め先輩方の取り組みに在学中から触れられる贅沢な機会です。

今後ますますパブリックヘルスの専門性の価値が増すと信じています。自分の知見を深めつつ、周りの関心層をどんどん巻き込みたい&専門家同士の結節点も増やしながら、集合知を拡張していきたいです。

下記はパブリックヘルスの学際性を上手に表現しているなと感じたYale SPHによる可視化ですが、このように全景とそのつながりを自分なりに解釈し、良質な問と解の仮説を立てられる状態を目指しています。

Yale SPH

3.新渡戸リーダーシップ・プログラム(新渡戸国際塾)

国際文化会館主催の同プログラムに参加しました。経済安全保障、芸術、文化などの狭義のヘルスケア"以外"の話題に触れた貴重な機会でした。
最近よく考えている、「GDPの次の経済指標はどうあるべき?」「国益とは?」「少子高齢化成熟経済に適応した死生観のあり方とは?」と言った問のきっかけをいただけました。

「公共」健康医学、「社会」健康医学としてのパブリックヘルス学徒たるもの、幅広さも大切にしていきます。

(アウトプット)カンファレンス企画

多くの人と問を共有し、未来の姿を議論したい、という思いで始めました。

1.IVS 2023 Social innovation areaの企画

狙いはIVS 2023 KYOTOでPublic Health x スタートアップのモメンタムを作りたいに記した通りです。パブリックヘルスとスタートアップの結節点を今後も大きくしていきたいです。今年のIVS 2024では、Well-being、プラネタリーへルス、グローバルヘルス、健康の定義、社会的処方といった話題提供を検討しています。

2.IMPACT SHIFT2024の実行委員、サイドセッション企画/登壇

ヘルスケア x インパクトをテーマにイベントやサイドセッションの企画・登壇の機会をいただきました。インパクト界隈と議論したかった私の主張の核は、あらゆる事業が健康に影響を与える(全てはヘルスケアに通ずる)というものです。

これはパブリックヘルスにおける「全ての政策において健康を考慮すること(Health in All Policies)」、Commercial Determinants of healthの考え方と似ています。いかに狭義の医療ヘルスケア「以外」と繋げて健康を捉え、課題解決の市場や仕組みを創造できるか、一方で健康至上主義の苦しさを回避できるか、を議論していきたいです。

(アウトプット)政策提言

アカデミックな視点と実務者の視点を備えながら、産業全体で前進していけるよう、公益に資する政策提言、ルールメイクの議論にも参加していきたいと考えています。

一歩目として、ひょんなご縁(飲み会)から林官房長官&ユースの意見交換会に参加させていただいています。視座がぐっっと上がり刺激的です。

2024年度前半の深化と拡張


(深化)リサーチクエスチョンを定義し実装環境を確保する

「見えない価値」を見える化し、評価尺度に統合する 経済社会システム、保健医療システムのゲーム・チェンジに取り組む中で個人・組織単位で行動変容が加速する仕掛けこそが要所と理解しました。これを研究で引くレバーと、社会実装で引くレバーに分解し、前者をリサーチクエスチョンに磨き込みます。

(拡張)社会学 / 人類学の眼差しを装着する

私は「もっと人の役に立ちたい」という価値観や"効果的利他主義"的な態度が強く、意思決定を振り返ると、Social Return of Investmentm(SROI)を重視してきました。昨今のESG、インパクトにまつわる議論を観察していると、SROI追求はもはや半歩先で必然の未来であるように感じ、非常に楽しみです。

ただ一方で、「SROIのその先で、定性的、質的な価値を規範にいかに包摂していけるか」こそ、未解決の重要課題であるようにも思います。そしてその際、エボラ出血熱緊急対策における、「安全な尊厳ある埋葬」の発明のように、社会学や人類学の観点がヒントになるという仮説があります。私たちがどのようないきもので、何を大切にしているのか、どのような過程でどのような未来に進んでいくか、打つべき楔は何か、こうした問への仮説を模索します。

パブリックヘルスの産業を開発する


いち企業の限界を超えて、大きな問いを大きく解き、大きなインパクトに寄与したい(ある種の群戦略)と考えています。同時に、このためには、全景とレバレッジポイントを捉え、正しい問を立て、重要な問=レバーと、事業、研究、政策等あらゆる手段を最適に組み合わせて解くことが鍵である、という仮説があります。

あらゆる手段を最適に組み合わせるには、あらゆる手段の特徴を自ら実践しながら会得することが必要という脳筋思考で生きており、本業に加えカンファレンスに政策提言に学生に研究にと回ってなくもないのですが、結局目的は全部同じ&繋がりも多く、なんとかなるかもという気もしています。

「公益に資する理想と高解像度の現状理解から、産業のVisionと登り方を定義・言語化し、人を巻き込み、事業、政策、エビデンス等あらゆる広義のプロダクトを通じてインパクトに繋げる」といった能力開発の方向性はかなり見えてきたので、粛々と学びながら楔を打つ2年目にしたいと思います。

おまけ:パブリックヘルスとは、人々の希望を守るための科学的実践(?)

以前東大MPHの先輩から、「東大SPHでは入学直後にそもそもパブリックヘルスとは何かをひたすら議論する授業があり、めちゃくちゃ面白かった」と聞き、非常に深くて難しい問だなと考えていました。まだ「これだ」と完全に腹落ちはできていませんが、気づきをくれた思考実験(妄想)があります。

認知症進行予防の真価は?

医薬品の社会的価値の多面的評価

ひとつめは、「認知症進行予防の真価は?」というものです。認知機能障害の緩和、重症化予防を通じて、ご本人のQOL改善のみならず家族介護の総量も減ることにより、家族のQOL向上にも寄与するとしたとき、

定量的には、12兆円にも及ぶ経済損失の軽減を、無償労働の貨幣評価などで貨幣換算、またHEORのエビデンスから介護者のQALY良化を推定し費用対便益分析の枠組みに乗せれば、SROIの最適化を議論・評価・改善・・・・などと議論できうると考えます。しかし、さらにその先で、定性、質的な価値へと関心を移せば、

「これまでの人生の、大切な思い出を守ること」
「未来に渡って、家族や大切な人との時間、繋がりを守っていくこと」

といった、「希望」の価値こそが真に重要ではないか、とも思えてきます。

*このような価値の表現技法に関してもぜひ探究を深めたいところです。
合意形成のためには一定の共通言語が必要かつ、現在の多数派、コンセンサスは貨幣価値かと思いますが、個人的には人類は希望を貨幣換算したくない(できない)と考えており、どのようにこの価値を受容していきうるか、とても趣深い問だなと感じます。

不老不死が実現した未来で、人生を終えるトリガーは?

加えて、少子高齢化社会、成熟経済に適応した死生観のあり方を考える際、Quality of Death(QOD)に焦点を当て、「不老不死が実現した未来で、人生を終えるトリガーは?」を考えました。これに対する暫定解は「またxxにxxとうまい酒が飲める、と思えなくなった時」というものです。

私は周りの「社会を意図する姿へと彫刻すべく戦っている人」と飲む酒を抜群にうまいと感じるのですが、人間的魅力に加え、未来に希望を見出し、具現化すべく戦う意志と試行錯誤のエピソードが好みの肴なんだな、と感じています。

両者の共通点は「希望」です。私はこれまで医療ヘルスケアを、「病により理不尽に失った・失ったかもしれない時間や機会、繋がりを取り戻すor守るための営み」と表現していましたが、上記の思考実験(妄想)を経て、その本質は、未来への希望を守ることかもしれないな、と思うようになりました。現時点では、パブリックヘルスとは、人々の「希望」を守るための科学的実践なのではないか、と解釈しています。

より広く深く学びつつ、「パブリックヘルスとは何か」という深遠な問を追究していきたいと思います。


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