チカラ2 私はつまらない人間でいいです
間宮千晴(まみや・ちはる)さん / Kubilai Khan Investigations
2002/10/27 @ 阿呆船(阿佐ヶ谷)
阿呆船(故・寺山修司氏命名)に着くと、蝋燭で一杯の店内は、唸り声がオーディオから流れていた。3人はちょっと戸惑いながらカウンターに座り、糠信さんは、そんな3人と握手した。
舞踏手の糠信淑美(ぬかのぶ・としみ)さんが開いている店である。壁には横尾忠則氏とコラボレーションしたポスターが冷蔵庫に隠れ、貼られてある。それ勿体ないですよと言うと、糠信さんは「誰も見ないから、いいんですよ」と笑った。インタビューのことを話したら、お店は休みの日曜日だというのに開けて下さった。
千晴さんは5歳からクラシックバレエを始め、高校を卒業するとフランスのカンヌにバレエ留学をする。次にウィーンに渡り、コンテンポラリーダンスに活動の場を変える。21歳のとき、ドイツでプロとして初めて踊る。それを観たフランクさんが千晴さんをK.K.I.に誘う。彼女は現在25歳。本当にきれいなフランス語を話す。
Tanin No Kaoを観たとき、千晴さんは異国で、異国のメンバーと、異国の観客の中で踊っていた。そこに優越感とか劣等感というコンプレックスはなかった、というか、そんなちっぽけな自意識について考える僕を、吹き飛ばして踊っていた。それが何だったのか知りたかった。
千晴さん:
何でしょうね。私は前にも一度言いましたけど、コンプレックスの塊で。でも、一応ひとつずつ克服していって。
一番最初にこのカンパニーに入った時、散々みんなにクラシックだって言われて、別にいじめられたわけじゃないんだけど、勝手にコンプレックスに思ちゃって、何も出来なくなっちゃって、とりあえず出来た踊りをそのままぶつけるみたいな感じで。Tanin No Kaoの時に開き直って、これがなかったら私は今ここにいないんだし、だから、そこに戻って何か違うことやってみようと。
そういう感じでプロセスをやっていったら、少しずつ自分の踊りが出来てきて。あと、周りの人達がみんな驕り高ぶりがないっていうか、あるんだろうけど、すごく普通に接してくれる人達だったから。
『え、じゃあ、これやってみる?』みたいな。じゃあ、私も下手だけどやってみようと。そう、だからかなー? なんて思ったりする。
千晴さんには、無国籍な強さがあるのかなと思った。
そのことを強さって自分で見たことはないんだけど。私は日本人だとか、喋れないっていうコンプレックスとかを早く克服した方なのね。
どうやって克服したかっていうと、どうにか同化しちゃおうって思ったわけ。言葉って、言葉だけじゃないじゃない。だから、態度とか考え方とかをとりあえず全部同化しようとしたの。
それで自分が消えてっちゃったようなときがあった。それはすごく悲しくて。そうなったときに最後にすごく悩んだ。悩んだって言うのは、K.K.I.に入って一番最初に問題提起されたことがアイデンティティーだったから、アイデンティティー・・イ? 私は誰? みたいな。
そんなわけで2つの私、今までの私と、フランスに入ってからの私を融合させたというか。最近は、日本語に訛っているようなフランス語を話す人が羨ましいなって思う。
それだけで個性を保っていられるから。それも助けになってるわけじゃない? 作品の中で私が歌を歌ってたのを覚えてる?
これが面白いことに、フランス語の詩なんだけど日本人の私が作っているから日本人の感覚のとこで止まるの。
昨日はタイにいて、今日も異国にいるフランクさんは、「寝たらごめんね」と言って、うとうとしていた。たまに日本語で笑う4人を眺め、一緒に笑っていた。
フランクはね、言葉がわかんなくてもみんなが笑ってると、一緒に笑うの。
いろんな国の人と対話し、ぶつかってきた千晴さんが、その中で学んだことは何か聞いた。
言語というのは技術であって、なんでしょう…。出会いにはならないんです。フランス語が喋れたのに、喋る内容がなかったときがかなり長い期間ありました。会話が続かなくて、逃げ出したりとか。
それは別に喋れるとか、喋れないじゃなくて私の中に質問がないわけでしょう。そういうことばっかり追ってるから。
たくみさん(バイオリニスト)とウラジミール(ギターリスト)がすごいベーシックな英語で会話していて、英語が喋れる人にしたら、何でそんなことで笑っているの?という感じだったけど、その内人間関係が出来ているからそれだけで済んじゃうんだなって思って、その時に言葉なしで私がぶつけるものは何?みたいな。
人間関係を通して私が苦しかった時に、私が誤解されてた時があったのね、あんまり喋らないから、自分のことを。「何でわかってくれないんだ」「何で自分の好きなようにとるの」とか思ってたんだけど、結局私が自分のことをみんなに教えてないだけで、自分から自分を知ってもらおうとしないと教えてくれないんだなと分かった。
そういうふうにコミュニケーションを取るようにしていったら、どんなに新しいものとか、新しい人に会ったりしても、たじろいで話せなくなったりとか、何にも情報交換出来なかったりとか、そういう場面が少なくなった。
それが簡単に言うと自己主張だとしたら、自己防御はどうしてたのか気になった。
昔は、(アーティストとして)ぶっ飛んだ人になりたかったの。あるとき気付いて、私はぶっ飛んだ人になれない・・・と思って、じゃあ「私はつまらない人間でいいです」というところで、こう自己防衛をしたの。
例えば、ワークショップで教えてても、私は若いし、いっぱいもの知ってるわけでもないし、30とか40歳の人にものを教えるっていうのが最初は辛かったの。でも、私はこういうこと知ってるんですけど、あなたは何知ってますか? みたいな風にした時に、すごく怖くなくなった。
私が今現在どう思っていようと、今ここにいる人達は話している以外にもいろいろコミュニケーションしていて、、だから、人の言った言葉とか、その時受けた印象とかで決めないこと。
そういう宙に浮いたエーテルみたいなものを信じてます。
話は途中から、糠信さんも交えて踊りについての話になった。「ダンス」を持つ3人を、僕はとても羨ましく思った。
千晴さんは胸を張って少し前傾姿勢で歩くものだから、ズンズン進んでいくように見える。これからもたくさんの国をそうして歩くのだろう。
千晴さんとフランクさんは、小さなプライドを超えて違いを前向きに楽しみ、自分を広げていく。
小さな自分を守らないで、大きな自分を守る。
それが2人の世界に対する態度。
もくじ
守らないで守ることの力
チカラ1 コンタジオン(積極的な感染) : Frank Michelettiさん
チカラ2 私はつまらない人間でいいです : 間宮千晴さん