ヘミングフォード・グレイのマナーハウス
ケンブリッジから車で30分ぐらい田園の道をドライブすると、ヘミングフォード・グレイという小さな村に到着します。
このイギリスの片田舎にある、辺鄙な小さな村。日本ではかなり知られた有名な場所。そうです。『イギリスはおいしい』で有名な、あの作家の林望先生がケンブリッジ大学客員教授時代に住んでいたルーシー・ボストン邸です。
あの1991年に刊行された優れたエッセイ、『イギリスはおいしい』を通じて、ボストン夫人の不思議な、そして温かみのあるあの邸宅に想いを寄せ、頭の中で想像した読者も多いはず。もちろん私もその一人です。
この小さな村。本当に美しく、おとぎ話に出てきそう。時間が穏やかに流れ、幸福感をもっとも純粋なかたちで感じらるような、何とも言えない心地よさ。何を隠そう、私も学生時代にリンボウ先生の著作のファンでしたが、ここに来てその住んでいた家のファンにもなりました!美しい庭と、歴史を感じるイギリスでも有数の古い邸宅。とても大切に、手間とお金をかけてこのマナーハウスと庭園を守っている様子が、伝わってきます。
これを機会にあらためて、昔の学生時代に愛読していたリンボウ先生のエッセイをいくつか、Kindle版で読んでみたのですが、それにしても文章が美しい。やはり、文学部のご出身で、日本文学を専攻していた優れた専門家だけあって、言葉の選び方と、豊富な語彙、そして見事な比喩とで、心情や風景、文化を実に鮮やかに描いているのですね。さらに、リンボウ先生のイギリス文化への造詣の深さも驚異的です。学生ながら、あのようなエッセイが書けたらどれだけ楽しいのだろうと、感じていました。
そして、私自身がケンブリッジに今住んでいて、車で気軽にかつてリンボウ先生が暮らしていた小さな村に訪れることができるというのも、なかなか嬉しいこと。村には『雄鶏』という名の小さなレストランがあり、せっかくですのでそちらに入り、遅めのランチを食べてきました。
ここで、お料理が美味しければ、まさに「イギリスはおいしい」というタイトルの通りなのですが、うーん、申し訳ないですがあまり美味しくない…。注文したメニューが悪かったのか、はたまた日本の美味しい料理に慣れすぎているのか。どうでしょう。
遅めのランチで、とりあえずお腹を満たした後は、この小さな村を散策。といって、簡単に村の端から端までいけるのようなサイズの小さな村ですが、とにかく川沿いの小道が心地よい。ここをよくリンボウ先生も歩いていたようですね。白鳥が羽を休め、また小さな子供を連れたお母さんや、犬の散歩をする初老の夫婦など、色々な人がそれぞれ思い思いに週末の川沿いの散歩を楽しんでいました。
ともあれ、素敵なエッセイをたくさん残したリンボウ先生を見習って、この1年間でしっかりとイギリス文化や社会のエッセンスを吸収できるよう、精進し、また楽しみたいと思います(その代償は仕事がさらに滞ることかもしれませんが…)。
(2022年1月記)