第10話~蒼の生きがい~
初夏の翠雨(すいう)が街を潤す。森の木々や田んぼの幼穂は生命の息吹を誇示するかのように踊っている。ワイパーを最大限に稼働させ、雨の国道289号線をかき分けて「唯芳窯」に着いた。磐城ブルーと呼ばれる美しい青紫色を纏った常磐白水焼の陶器が麗しく並べられていた。
「いわきの粘土にとある条件を掛け合わせると、褐色色の粘土が神秘的な青紫色へと変わるんですよ。」興奮しながら目を輝かせて工房の店主は続ける。「結婚式のお祝い用に購入していただき、大変喜んでもらえたんです。」
これがしたくてたまらないという偏愛を突き詰めることが、生き残りをかけた分水嶺になる時代。山奥に籠って、いわきの粘土にしか出せない蒼さを追求するひたむきさ。唯一無二の色味を帯びた作品たちは、この街の誇りである。
将来、子供に生きがいって何?と聞かれたら、自分の好きなことや得意なこと、人に感謝されること、周りが必要としていること、これらの要素の交点が生きがいだよ、と伝えよう。その時きっと僕はあの目を思い出すのだろう。―磐城ブルーの陶磁器のように、控えめで、でも主張のあるキラキラしたあの目を。 (いわき民報掲載)