「なぜ日本人は世間と寝たがるのか」を読んだら、「できる社会人は即レス」というメッセージの本当の意味に気づいてしまった…
日本を支配しているもの、それは世間である。
お歳暮やお中元に代表されるように、私たち日本人は世間を維持するための習慣を大事にしてきた。そして、世間の中でのパワーバランス・上下関係にはとてつもなく気を使う。
会議室や会食の咳だけではなく、タクシーやエレベーターにまで上座・下座の考え方を広げていったのは、まさに世間の支配力の賜物である。
こんなことを言ったところで、若い人たちには笑われるかもしれない。上座や下座、お中元やお歳暮など、もう古い習慣だと。
いまは効率的に、意味のあることだけを重要視する時代だから、飲みニケーションも少なくなってきている。大事なことは、仕事をさっさと終わらせて結果を出すことだと。
確かにそうかもしれない。昔ながらの習慣は、古臭いものだと排斥されていっているのかもしれない。アップデートだ。
世間という得体の知れないものから脱却して、個の力で突き進むようになっていくように時代を変えていこう。古臭い非効率な因習は、個の力によって一層してしまおう、と。
多くの人はこのようなアップデートを行っていると感じているのかもしれない。私自身もそう感じていた。
しかし、それにしては奇妙なことがある。この奇妙さについて教えてくれたのが、この本である。
この本では、世間のルールについてこのように説明している。
「世間」の第一のルールは、「贈与・互酬の関係」であり、お中元・お歳暮に代表されるような、「お返し」のルールである。
受け取ったものは返さなければいけない、それが世間を維持するために必要なルールである。
お中元を受け取ったら、お返しをする。出産祝いをもらったら、内祝いを返す。年賀状をもらったら、7日までに返信を出す。
これが世間を維持するためのルールである。そして、これは今のビジネスの世界では少なくなってきていると言われている。それと同時に、別の互酬の関係が生まれている。
それは、「即レス」である。
Twitterで「即レス」とでも検索してみて欲しい。できる営業は即レスが基本、社会人になったら即レスをしよう、即レスだけで成績が変わる、などという言葉を見つけることができる。
これをわかりやすく言い換えれば、「もらったものをちゃんと返すことが社会人として大切」と言っているのである。
つまり、お中元をちゃんと返せよ、年賀状には返事しなさいよ、お返ししてる?と小言をいってくる年配の方たちと大差がない。
ビジネスの世界から、古臭い人間関係や世間というものは失われたと思っていたが、実際は違った。世間が形を変えて居座っているだけだ。
つまり、ビジネスがアップデートされたのではない。世間がアップデートされただけだ。残念ながら日本から世間はなくなっていない。
この本の中でも書かれているように、日本には社会というものがなく、個人というものも成立していないのである。
結局、私たちは形を変えながら「世間」との付き合いを続けている。そして、この世間がなくなることは期待できない。それほど、世間とは日本の中に深く根を張っているものである。
だからこそ、自分たちにできることは、世間と対峙するときにできることは、世間のルールを頭に入れてそれがどのように成り立っているのか、みることである。
即レスも含めて、世間のルールと分かっていてもやった方がいいことは確かにある。それを世間のルールと分かった上でやるのか、自分のルールと思い込んでやるのかは、大きな違いである。
世間のルールをあまりに内面化させてしまうと、世間から離れることを怖がりすぎて身動き取れなくなったり、世間を維持することに時間を使いすぎたり、自分よりも世間を優先してしまったり、してしまう。
大事なことは、自分の中の世間をちゃんと見つめること。自分と世間を分けて考えることである。