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いい人・死ねなかった人・路上生活者・ダンサー Lunch#54 西篤近さん
普段の生活では出会えない人、縁遠い人、どうしてもすれ違えない人と出会い、話すことができるのが、このランチの素敵なところです。
そして、今回も素敵なご縁をいただき、路上生活者でダンサーとして活動もされている西さんとお会いすることができました。
そんな西さんのポイントはこちら
・アイデンティティが無い
・死ねなかった人
・ダンスをやる理由
まずは、アイデンティティが無い、です。
一度しか会ったことの無い私がいうのもおこがましいですが、西さんは、とてもいい人です。優しい人でした。
そのいい人であることのせいで、西さんにとっては辛いこともあったそうです。
というのも、お母さんにはいつも人に迷惑をかけるな、と言われて育ってきて、西さんはとにかく人に迷惑をかけない生活をしようと心がけてきました。
人から嫌われない、人に優しく、いい人であろうとし続けたそうです。
そんな西さんのいい人ぶりは、たとえば、親の期待を一身に受けて、地元の進学高校に行きます。行きたくもなかったのに。親に迷惑をかけたくなくて。
そのほかにも働いていた職場では、周りの人の愚痴を聞くとその人のために何かをしようと動いてあげる。そうすると他の人からも頼られて、どんどんと愚痴が西さんに溜まるようになる。
それを全て自力でなんとかしたいと、人のために動き続ける。そんな風に、周りが良ければいいんだと、人のために動き続けるような人でした。
またある時、友人に頼まれたまま重病の猫を買い始めます。
動物を飼ったことのない西さんが、猫のために、本当に全て猫のために、自分の生活を変えて、とにかく元気にしてあげようと試行錯誤します。
さらに、知り合いのカイロプラクターの先生に診てもらったり、なんとか猫を元気にしてあげようと奮闘していました。
しかし、西さんの努力の甲斐もなく、数ヶ月で猫は亡くなってしまいました。
そして全てを猫に捧げてきたあまりに、西さんはかなり重度のペットロスとなり、ほとんど何もできない状態に陥ってしまいます。
そんな状態の西さんを見た友人から、こんな言葉をかけられました。
「自分からは何もしないよね。」
西さんはその時に、アイデンティティの欠如、自分というものの欠如を強く感じてしまいます。そして、他にも色々重なったこともあり、何もかもが嫌になって、家を捨てて路上生活者となるのです。
次は、死ねなかった人、です。
西さんは、路上生活に出てなんとか生活を続けていたのですが、そのうちにその気力も失ってしまい、もう死んでしまおうと思いました。
生きる気力を失って、そのままのたれ死んでしまおうと。
そこで、水だけの生活を始めたのです。ただ水だけを飲む生活。
そこには、希望も不安も絶望もなく、何も無い時間。
本当に無為の時間があって、その中で、ただ水を飲みそのまま死んでしまおうと。
1週間が過ぎ、2週間が過ぎ、苦しくなってきた3週間目に、突然眠ることができなくなったのでした。
そして、眠ることのできないまま、やることもなく、思うこともなく、考えることもない時間。走馬灯を繰り返し見ながら、でもその走馬灯で見えるのは、どうでもいいようなことばかり。
あまりにも苦痛なこの時間が続き、気が狂いそうになる。
そして、死ぬこともできない中で、西さんは、初めて他人を頼ります。
路上で雑誌を売る仕事を紹介してくれる事務所に向かったのです。
この3週間のことを話しながら、西さんは、死ねなかったんだよね、と教えてくれました。
生きることはとても大変かもしれないけれど、かといって死ぬこと自体にもとてもパワーがいる。生きるにも死ぬにもパワーがいるんだと。
そして、西さんは、その事務所の人に教えてもらった路上生活経験者で構成されたダンスグループを見学に行きます。
最後は、ダンスをやる理由、です。
西さんが本格的にダンスを始めたのは、社会人として働いていた時でした。そこでのダンスの経験から、自分が表現する楽しみを知ります。
人の目を気にして生きている西さんの感覚とは全く逆のものだったのかもしれません。
このダンスとの出会いから、ダンサーとしての活動やインストラクターとしての活動、さらには、表現者としての活動もしていったのです。
それから、長い時間が経ち、西さんが路上生活者になった後に、またダンスと再会します。死ねなかった後に、です。
そして、表現者としての、パフォーマーとしての西さんが再び動き出します。
西さんに、パフォーマーとしてやりたいことを伺うと、妄想みたいなとても抽象的な世界の話になりますが、という前置きと一緒に、こんなイメージを共有してくれました。
それは、自分のパフォーマンスによって時を止めたい、と。
もちろん、実際に時を止めるということではなく、人の思考を一瞬だけでもいいから止めてみたい。そんな踊りの境地にたどり着きたいんだと。
また、死を目前にした時に自分は何ができるのか。その時に後悔のないパフォーマンスがやれる、そんな生き方がしたい、とも。
抽象的ながら、表現者としての究極の世界について教えてもらいました。
そんな究極的な表現に向けて、踊りをパフォーマンスをやりたいんだ、と教えてもらいました。
どれだけ私が理解できているかはわかりません。わかりませんが、ドキドキしました。こんな非合理なことを考える人がいる世界がいいなぁ、とも思いました。
2019.5.15 西篤近さん
新宿にて
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