売りたいのは、モノではなくて、そこにまとう空気。 Lunch#58 金丸リリアンさん
フィリピン人の母親と日本人の父親との間に生まれた金丸さん。
名前はリリアンと、外国人ぽいのですが、生まれも育ちも日本。
どこからどう見ても完全に日本人です。
それでも、毎年夏休みには、母親の実家に里帰りとして、フィリピンを訪れているそうです。
意識としては、ふつうの日本人と変わらないのですが、やはり自分のルーツであるフィリピンは大好きな場所の一つでありました。
そんな金丸さんのポイントはこちらです。
・2日で1120本のバナナ
・人間ってつまづくところは、同じだから
・「いいものじゃなくても、買っていた」
まずは、2日で1120本のバナナ、です。
そんな金丸さんが、あるバナナの存在を知ります。高校生の時でした。
たまたま手に取った鶴見良行著の「バナナと日本人」という本を読んだことをきっかけに、フィリピンバナナを巡る労働・環境問題やフェアトレードというものの実態を知りました。
そして、そのバナナを売ることで大好きなフィリピンに貢献しようと考えたのでした。
そのバナナの名前が、バランゴンバナナと言います。
フィリピンへの思いの強さだけでなく、もともと販売業が向いていた金丸さんは、バナナの売り子にのめり込んでいきます。
どれくらいのめり込んだかというと、アースデイマーケットという代々木公園で行われたイベント、2日間で、なんと1120本ものバナナを売ったのでした。
これさらっと書いていますが、
単純計算すると、ものすごいことになります。
2日で1120本なので、1日で560本。
イベントが10時間だとすると、1時間で56本。
ほぼ、1分で1本を売っていることになります。
手売りでこのスピードと量は、もう尋常じゃない販売量です。
それほどまでにバナナの販売をしながらも、金丸さんはバナナを売ることに違和感を覚え始めます。
金丸さんが、バナナを売るのは、フィリピンが好きだから。
フィリピンの美味しいバナナ、この活動をしている素敵な人たちのことを知って欲しいから。
フィリピンっていいところって伝えたいから。
でも、売り子をしているときに、最も売れる方法は、
良い面をクローズアップする方法ではありません。
残念ながら。
そんなものより、フィリピンのバナナ農園で起きている問題を伝えた方が、圧倒的に売れやすい。
バナナを売るというよりも、同情を売ってしまう方が、楽なのです。
そして、いつのまにかそういった売り方をしている自分に嫌気がさしました。
その売り上げによって、フィリピンの人たちが救われることは確かで、その売り上げがなければ、もっと困る人が出てくるのですから。
でも、金丸さんは葛藤します。
同情を売ることで救われる人はいる、いるけれど、バナナを買った人たちの中に残るフィリピンのイメージはネガティブなものばかり。
救われる人はいるけれど、フィリピンのイメージは良くはなっていかない。
金丸さんがやりたいことは、同情を売ることではない。
それよりも、素敵なフィリピンのことを伝えたい。知ってもらいたい。でも、その方法がわからない。
このような葛藤に苦しんでいる最中に、「一緒に起業しない?」と誘われたのでした。
次は、人間ってつまづくところは、同じだから、です。
フィリピンの現地の問題に積極的に関わっていく金丸さんは、昔から、意志が強く、夢や希望に燃えていて、起業家精神も強いのかというと。
全くそんなことはないらしいです。
どちらかというと、流されやすく、自分の意思も弱いタイプ。
ただ、そんな中でも金丸さんがすごいのは、自分が流されやすいことを知っていることでした。そして、流されやすいなりにも、何者かになりたいという思いを持っていたこと。
高校の時には、フェアトレードやフィリピンなどの問題についてのイベントやセミナーに積極的に参加するようにして、大学になると、周りに起業家志望や、投資家志望など、自分で何かをやろうとしている人たちの近くにいるようにします。
どうせ流されるなら、いいように流されようと、自分から環境をコントロールするわけです。
この話を聞いて、個人的にはかなり衝撃的でした。
というのも、10代そこそこの女の子が、自分の弱点を正確に把握した上で、その弱点について諦めや弱音を吐くのではなく、その弱点を解決できる仕組みを作り上げたからです。
流されやすい、だから、意識して流されないようにしよう、よりも、
流されやすい、だったら、気持ちよく流される場所にいよう。
って賢すぎませんか?
この客観性の高さを金丸さんがどうやって身につけたのかというと、書くという習慣からでした。
金丸さんは、共感性・感受性がとても高く、うわっと洪水のようにあふれようとする感情に悩まされることがたびたびあります。でも、人にそれを共有するのは苦手なために、いつからか、日記をつけるようになりました。
長い時で、3ページくらいの日記を書いてしまう金丸さん。
そこには、自分の間違い、失敗、嫌なこと、楽しかったこと、できたこと、できなかったこと、愚痴など、いろいろなものがとにかくぶちまけられています。
そして、そうやって、「膿を出す」ことで、金丸さんは自分の弱いところやダメなところに、ノートの文字という形で、ちゃんと向き合うことができるのです。
そして、そのノートを見ていて、金丸さんが気づいたのが、
人間ってつまづくところは同じだということ。
そして、どんなに同じところでつまづいているように見えても、前に比べたら、ほんの少しだけど成長しているように見える。
そんな風に、少しずつ自分と向き合いながら、ちゃんと成長を確認しているのです。
最後は、「いいものじゃなくても、買っていた」です。
現在、金丸さんは、大学の同級生である、たいがさんとOne Novaというブランドで活動されています。
「透明なパンツ」をつくっている、面白いブランドです。
さて、そんなブランドをしながら金丸さんが言うには、別にパンツを売らなくなってもいい。何を売るかは、大して重要じゃない、と言うのです。
もちろん、いいものを作りたいし、売るからにはいいものを売りたいという、至極当たり前な感情はあることが前提ではありますが。
それ以上に、金丸さんは、このブランドのもつ空気感を保ったまま、モノを作って届けていきたいというのです。
そして、その空気感が何かはまだ言語化されていないのですが、人間味や優しさ、人との距離感、そういったものを含んだ空気が、One Novaには流れていて、それを支持してくれている人たちがいる。
そんなブランドとお客さんとの関係性をとても大事にされていました。
そして、金丸さんが、お客さんからかけられて嬉しかった言葉が、
「もちろんモノの良さでも買っているけど、いいものじゃなくても、買っていた。」です。
ブランドとして、もしかしたら、この言葉はネガティブな意味を持つのかもしれません。作り手からしたら、失礼な言葉になるのかもしれません。
でも、金丸さんはこれをとてもポジティブに捉えています。
パンツ自体に価値を感じて選んでくれただけではなく、ワンノバというブランドに価値を感じて選んでくれたから。
金丸さんが、バナナの売り子をしている時から、ずっと目標にしていた、
ポジティブな理由で買ってもらうということが実現したから。そしてもの以上にブランドの持つ空気感に価値を感じてくれた気がしたから。
いま、金丸さんは、そして、One Novaは、自分たちのまとう空気を言語化しようとしています。今まで、なんとなく、それこそ、空気で伝えていたものをより強く伝えるために、言葉を作ろうとしています。
それは、今まで流されてきた金丸さん自身が、初めて自分の内面と向き合い、内にあるもやもやと向き合っています。
流されるのをやめて、自分を描き出す瞬間に、その直前のタイミングでお話を聞けたことがとてもありがたいです。
どんな言葉に、金丸さんが出会うのか、楽しみです。
2019.6.14 金丸リリアンさん
新宿にて
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