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小説『系譜』
1、閑散とした住宅街にその屋敷はあった。夜10時頃、屋敷へと入っていく人々の影がある。年齢、性別はまちまちでその中心に神秘的な装いの少女がいる。そして、60才前後と思われる男性の姿が垣間見られる。
2、交番の巡査である牧本は焦りを覚えていた。ある屋敷に年いくばくもない少女が誘拐されているのではないかという話を得たものの捜査に必要な証拠が得られず、位の上のものに掛け合っても何故か黙殺されていた。
牧本はそこで秘密裏に大学の同窓生で探偵を営んでいる島倉に話を持ちかけた。
「あなたは見たの?少女が入っていくところ」
「見たことは見たんだが、誰もがあれは屋敷の主人の姪っ子と言うんだ。」
「じゃあ、誘拐というのは?」
「新しくこの地域に暮らし始めた人が不審に思ったらしくて、というのもたまたま11時頃に少女が屋敷から出てくるを見たら腕からうっすらと血を流していたらしいんだ。」
「それで誘拐かもしれないという訳なのね。」
3、島倉は屋敷の調査を行った。もし、屋敷が何か怪しい出来事の舞台なら監視カメラの設置が疑われたが、屋敷の周辺には意図せぬ侵入者を拒む仕掛けはないようだった。
夜10時、何人かの人と少女が屋敷へと入っていくのが垣間見られた。見張られていないか用心しつつ、島倉が屋敷に近づくと、その門や扉は鍵も施錠もなされておらず、逆になんとも言えない不気味さを覚えた。
しかし、事の核心を知るべく屋敷の中へと入っていった。屋敷の入口玄関には赤い絨毯がひかれ、人が入っていったとは思えない閑散とした雰囲気を感じた。足音も響かない。屋敷を歩くと、その構造は複雑ではなく、少女の居る広間を発見するのは簡単だった。
島倉は気づかれないよう様子を伺った。すると、屋敷の主人がナイフを取り出し、少女の腕をナイフで切りつけた。
集まっている人々が何かを語りだした。
「子供だった頃、野山には草木がしげり、そこは僕の楽園だった。」
「私が若かった頃、小さな公園があって夕暮れ時、1人でもの想いにふけっていた。」
島倉には何をやっているのか分からなかったが、再び主人がナイフを取ったので思わず、声を出してしまった。島倉に気付いた広間の人々は驚きを見せずただ残念そうな表情を浮かべた。
少女を前方に据え、屋敷の主人を合わせ、6人くらいの男女が広間に立っているのだが、その人々は無言でたたずみ、少女もまた無言で宙を見つめている。島倉は様子を伺いつつ、ゆっくりと少女に近づいた。誰も島倉に危害を加える様子はなく、虚ろな眼をしている。島倉が少女の腕を持ち、広間から離れるよう促すと少女は従い、主人が、
「我々はただ記憶の系譜に意識を沈めているだけなのだが、、、。」
とただその一言を言った。
4、島倉は少女を連れ牧本のいる交番に行った。大まかに事情を説明したところ、牧本は不可解な様子を示した。少女に真相を話させようとしたが、少女は無言で余計に2人に困惑を募らせた。事後処理をどうするか島倉が切り出そうした、その時、いつの間にか少女がナイフを取り出し、腕に傷をつけ、あっと思ううちに、牧本の表情が変わり、
「僕が子供だった頃、近くの川に桜の綺麗な場所があった。そこが僕の初恋の、、、。」
と宙を見つめた、、、。
〈完〉