【講座レポート】「おひとりさま・おふたりさまの高齢期を安心して過ごせるための地域づくりとは?」
講師:
沢村香苗(さわむら かなえ)氏
株式会社 日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト
企画協力・話題提供:
一柳弘子(いちやなぎ ひろこ)氏
一般財団法人 一柳ウェルビーイングライフ 代表理事
日時:2024年8月30日(金)13:30 ~ 16:00
個・孤の時代の高齢期 ~誰もがおひとりさまになる時代
沢村 香苗氏
「身寄りなし高齢者問題」とは
「身寄りなし高齢者」について、最近政府でも言うようになってきました。ひとり暮らしが増える、高齢者が増えるということは以前からわかっていても、何が問題になるかは、実は最近まで言われていませんでした。7年ぐらい前から私はこの課題に関わってきましたが、よく言われるようになってきたのはここ1年程です。
孤独死は、警察が関わっただけでも年間6.8万人という推計が出ています。高齢者のひとり暮らしでは、賃貸住宅に入れない、入院できない、銀行でお金を一緒に下ろしに行ってくれる人がいない、救急車に一緒に乗ってくれる人がいない、亡くなるまでは特に問題なく過ごしていた人でも火葬の段階で困る、遺骨の引き取り手もいない、という課題が増えてきています。しかも、そのような課題は、結局同じ人が該当しているのでは、ということもわかってきました。
私がそれに注目したのは、2017年に、厚労省の調査事業での、身元保証等高齢者サポート事業者の実態調査がきっかけでした。家族替わりを引き受ける日本ライフ協会という業者が、預かっていた葬儀代などのお金を事業に流用した消費者事件がありました。身元保証等高齢者サポート事業には、監督官庁が無く、事業者数も把握できていない状況でした。きちんとした事業者なら死後事務だけでなく、生前の支援、中には日常生活支援の提供もできるところもあります。ひとり暮らしや、子どもがいても頼れない場合は、家族代わりに有償でサポートしてくれます。しかし、法律的な根拠は今もありません。
身元保証人やキーパーソンが必要なのは、転居、入院、施設入所などの時、そして亡くなった後です。保証人の役割は明確では無く、「家族欄」などに名前を書くのみ。高齢の配偶者ではダメで、若い人はいませんかと言われることも。「何かあったらなんとかしてくれる」のが身元保証人。本人にお金があればいいというわけではなく、支払う手続きができないことが問題になってくるのです。急に入院したときに家から服を取ってくる、帰った後のためにベッドを用意するなど、手を動かせる人も必要です。口がきけない状態になった時に、情報や意思確認が必要になることがあります。延命治療したいのか、相続人となる親族は誰がいるのか、本人が話せないと確認のしようがありません。
家族がいると当然のように「老後の面倒」とまるめて言ってしまいますが、改めて、高齢期は何が起こって何が必要かを模式的にしたのがこの「SOLO(ソロ)マップ」です。
それまで問題なく過ごしていても、病気や介護で住む場所を変わらなければいけない、今までとまったく同じ自宅に戻れるわけでもないということが起こります。帰るにも、介護や在宅医療などのコーディネートをして初めて家で暮らすことができます。支援が必要な高齢者にはケアマネジャーやソーシャルワーカーが関わりますが、「移行」から次のフェーズに行くときに必要な対応は守備範囲からはずれるものがどうしても出てきます。死後は、オフィシャルには面倒を見る人があらかじめ決まっていないので、誰の守備範囲でもありません。
認知機能が低下していれば、成年後見人が意思決定や契約に関わることや金銭を動かすことはできますが、家に来て買い物を手伝うかというとそれは考えにくいですね。何でもできていたのは家族。外の人はそれを全部埋めることもできなければ、お金もかかります。手立てがないわけではないですが、様々な人がばらばらと対応することになります。そうならないように、まるごと引き受けてもらえるような、保証人やキーパーソンが求められているのです。
背景には、単独世帯、夫婦世帯、そして未婚者の大幅な増加があります。単独世帯だから身寄りがないというわけではなく、周りにお子さんがいる人も結構います。ですが、未婚の方は、一番近くても甥姪だったり、それもいるかどうかわからなかったり。2050年には単身男性の6割は未婚のおひとりさまなのです。
ほとんどの県で人口が減り、支える側の人も減ります。都市部で人口が増えているところは単身者や未婚者など恐らく支えを必要とする人が増えるうえ、外から様子のわからない場合も多いでしょう。地方では、特養に入る人さえいなくて空床があったり、介護サービスも廃業したりしています。たとえば北海道の町では、困る人が少ないので、大きな仕組みを作るより個別に対応したほうが効率がいいですが、渋谷区は個別対応では恐らく限界が出てきます。地方によってソリューションが全く違います。
家族機能の弱体化と「老後の面倒」
家族機能が弱体化しています。世帯の縮小が進み、長寿化も進みお互いが年を取っていきます。家族がいても、家族の中でサポートしあえない状況も起こります。
また、高齢期になると心身機能が下がり、料理をしていた妻が体調不良になったり、夫は運転できなくなり、家も老朽化するなど、それまでの生活が続けにくくなります。若い世代が近くにいれば、なんとなく家族の誰かが手助けしていましたが、そうでなければ、自分でなんとかしなければなりません。たとえば介護保険の利用申請や、配食の注文やヘルパーさんを頼むなどです。顕著なのは入院時。調子が悪いときに、いろいろなことを考えなければいけなくなります。ライフスタイルが多様化して選択肢が充実したのは良いことですが、昔なら決まったやり方があったのが、自分のやりたい人生を送れるようになったことで、しんどい時にもその決定を迫られるのは苦しいものです
こういった現状についてお話する際に、必ず言わなければいけないことが2つあります。1つは、生活の中での意思決定には、実行する必要が伴うということです。例えば、何か買うと決めたら実際に誰かが店に行ったり支払いをして買い物をする必要があります。日常生活のささいなことを一体誰が手伝うのでしょうか。もう1つは、新たに支援のための専門資格を作ったとしても、日常生活を成り立たせるのはささいな、専門的でない業務が多く、全部埋めるのは難しいというのが正直なところ。専門家や事業者にやってもらえばいいというものでもないのです。
介護保険を使うには、複雑で手間のかかる手続きをする必要があります。心身の機能が下がってきている状態で、ケアマネジャーを選んで契約して、使った制度について自己負担分は払うなど、できるでしょうか。介護保険は、主に本人の心身にかかる支援が対象で、家のメンテナンスなど、生活で必要になる多くのことは範囲外です。介護保険があるから事足りるとはいえません。
単身が課題なら、結婚してもらえばいい、ということでもありません。配偶者は多くは同世代で、いつ頼れない状態になるかわかりません。8050も弱い人同士がお互い支え合う状態で、そのうちの1人が動けなくなると回らなくなります。家族と一緒にいるから安心なわけではない、というのが現実です。
連絡先がわからないというのも問題です。母親が亡くなった際に子どもやきょうだいと連絡がつかず、自治体が火葬してトラブルになってしまったという事件がありました。逆に何年も遺族と連絡がつかず遺体を焼くことができなかったことが不祥事となった自治体もありました。連絡先が固定電話ではなくスマホになったので、連絡がすぐにはつかないのです。こんなに便利な時代になったのに、そこは不便になったと言われます。戸籍を取り寄せても住所しかわからず、連絡を待つしかありません。
お金もある、判断能力もあるから大丈夫かというと、お金があっても引き出せなければ意味がありませんし、いつ認知症になるかわからないリスクがあるというだけで身元保証人が必要になります。
認知機能が低下したら法定後見人制度、お金がなければ生活保護制度など使える支援もありますが、お金もそこそこあって、認知機能も問題ない人が使えるソリューションがあまり無いのが現状です。そうなると困るのが、ゴミ屋敷、無縁仏・・などという話になりますが、実はどれも同じ人に対して同じ理由で起こっているのです。
これが問題になってこなかった理由は、民間はお金がある人がターゲット、公的機関は障害があったり生活保護が必要な人などを対象にしているという、縦割り横割りになっている状況の中、その隙間に落ちている課題だということもあります。多くの人が持つ課題だとわかっていなかったので、政府の対応が決まっていないのです。ですが最近になり、去年には首相官邸の会議でも取り上げられたり、骨太の方針にも入ったり、国としても動き出してきた状態です。
自治体や民間業者の動きと、私たちにできること
政府では自民党がプロジェクトチームを作っているそうです。自治体は終活相談窓口を作ったり、引き取り手がない遺体にならないよう火葬の生前予約をあっせんするなどの動きが出てきました。
民間企業の動きはまだまだこれからだと思います。動いていても零細企業だったり、生活支援に応えられるサービスがありません。サービスを提供するだけの人手が足りないなど、ソリューションが無いのが現状です。そのため、自治体が相談を受けても、提案できる支援やサービスが充分ありません。そのあたり、(結・しぶやの)皆さまのお力が必要なのではと思っています。
自分でできることとしては、自分の情報や契約などを整理して動いてくれそうな人に依頼をする、お願いしようとぼんやり思っている「あの人」に明確にお願いする、エンディングノートを書いてその存在を伝える、といったことがあります。どれも思っている、持っているだけでは意味がありません。そのあたりの仕組みが整備できていない現状ですが、参考にしたい事例として、横須賀市では、全市民対象で、終活に必要な情報、例えば緊急連絡先、エンディングノートの置き場、お墓の場所、などが登録できます。
横須賀市でリストアップした終活に必要な情報は、こちらの図の通りです。
本当は、この3番の、「地域コミュニティ」について書いてほしいところですが、書ける人はあまりいないようです。
私たちが過去にとったアンケートでは、終活に向けて備えたいという人は9割いましたが、実際明確に人に頼んで備えているのは1割にも満たない状況でした。頼む人を決めていてもまだ動いていない人が3-4割いたり、頼む相手がいなかったり決めていないという人も多く、どうすれば実際に動けるかは課題です。
取り組まない理由としては、まだ先でいいと言う人が多く、80歳以上でも33.6%がそう回答します。のんびりしているように見えますが、いつやっていいのかわからないということだと解釈しています。積極的にやりたいと思うようなものではないので、この時にやると決めないと進みません。高齢者の方とお話する際には、できることやわかることから始める、誕生日にやる、既存情報を整える、対話をしながら考える、身近なつながりを保って頼めるようにしていく、などとお伝えしています。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)もその中の1つで、自分がどういう姿でありたいのかを周りに伝えておくようにします。「もしバナゲーム」という、専門家が作っているゲームがあります。価値観は何かと言われても難しいですが、何が自分に大切かを考える手助けとなるゲームです。
また、複数のつながりが、レジリエンス(回復)につながります。お金があればいい、家族がいればいい、というだけではなく、つながりが複数あることが大切です。
問題解決に向けて
高齢者支援の事業者は、全国に400程度です。今あるサービスを使うことも大事ですが、いつ何をやっていいかわからない問題について、そして、意思決定・金銭管理・事実行為をどう社会で分担するかは話し合うべきです。何を大事にするか、そのために何が必要で、どう分担できるのか、そこが整理されないと民間事業者は手を出しにくいと思います。
口がきけなくなってからでは、おひとりさまの情報は確認が難しくなります。お葬式の契約があったのに、葬儀が終わってからわかることもあります。口がきけなくなることを前提に、情報を把握し、伝えるようにしなければと思います。
そして、地域で支えていかなければいけないことは、たくさんあります。
いくら支援サービスを契約しても、雨戸が閉められない、ちょっとモノが取れない、転んで立ち上がれない…など身近なことにどう対応するかというのは大きな課題です。
ある市で長くこの分野に取り組んでいる方は、まず当事者に備えてもらうこと、行政はそれを支えるし法律などの専門家もいますが、決まった制度ではカバーできないところをアメーバのように柔軟に支援する「アメーバ支援」も必要だと言っています。
今日の話は、このあたりをどう埋めていくかを考えていく、きっかけにしてもらえたらと思います。
支えてほしい・支えたい つながる循環をつくるために
一柳弘子氏
最後までその人らしく生きるために
おひとりさまの人生の後半から旅立ちまでの対応を考えると、誰に頼れるかがキーワードです。入院の荷物の用意、退院の会計、その後の金銭管理、それを誰がしてくれるのか。本人しか知らないことや、本人しかできないことをどうするかというのが大きい問題です。
もしものときを含めて少しでもベターに生きるために今必要なことは、1つは、その方のKPO(Knowledge Process Outsourcing:知的生産活動のアウトソーシング)を支援する専門職。もう1つは、地域づくり、コミュニティのかかわりだと思います。
その方が大切にしていること、好きなこと、嫌なことなど、その人アもわかる、思いを共有できる関係性があれば、QOLが高まることにもつながります。沢村さんがおっしゃっていた、アメーバ支援とも言えます。
一柳ウェルビーイングライフでは、「最期までその人らしく生ききると支える、人・場・しくみづくり」を大切にしています。「生ききる」を支える人を増やすために、来年2月にキーパーソン講座を実施します。一般に「キーパーソン」とは、本人が自らできなくなったときに、代わりに意思決定したり、または責任を持ってくれる人です。ただ、私たちが考えるキーパーソンは、こちらの都合ではなく、本人の思いを第一にすることを大事にしています。そして、最後まで、その人に合わせて一歩一歩伴歩するキーパーソンを増やそうと言う取り組みです。
地域の「助け合い」「地域活動」について、「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」(要介護認定者、施設入居者を除いた区内の65歳以上対象)の渋谷区での調査結果を見てみると、心配事や愚痴を聞いてくれる人も、聞いてあげる相手も、多くは配偶者や友人です。家族や友人知人以外で、何かあった時に相談相手になる人がいないという人は医師・看護師、地域包括等が多く、そのような人はいないという人も34.1%になります。地域での役割を期待されていないと感じる度合いが高まると、地域活動に「参加したくない」の割合が高まるということもわかりました。
自治体や見守り活動で声をかけると、関わってほしくないと思われるケースもありますが、そういう人でも不満をこぼす相手がいたり、友人と「生きてる」コールをしたりしているようです。小さな仲間での、もしもの時のいのちをつなぐネットワーク、ゆるやかなつながりができれば、それも地域のつながりの1つです。その場合、ツールとして、LINEなどデジタルの助けも活用できます。そこから、もしものときには社協は地域包括につながる糸口にもなりえます。
いま、高齢者と言っても様々で、これまで培ってきたキャリア、経験、スキルがある人やアクティブな人も多く、「高齢者」とみられることにいい感情を持たないという話を聞きます。地域で役割を期待されていないと感じると地域活動に参加したくない、ということであれば、アクティブシニアに地域活動を主体的にやっていただく、得意な事で地域の活動に関わってもらうことも考えられます。
おひとりさま・おふたりさまの心構え
わかってはいても、エンディングのことというのはネガティブで、目をそむけたくなります。また、いま普通に生活できていれば、すぐに必要を感じるものでもありません。エンディングに向けた課題もあります。まずは信頼できる方をどこで探せばいいのか。そして、契約してもお金がかかります。財産管理を任せてしまうと人生最期をある意味託すことになり、裸になる覚悟もいるので、なかなか、どのタイミングで、どこに、という課題はとても重いものです。
おひとりさま、おふたりさまは、自分の思いがわかっているようでいて、実は漠然と不安であったり、どうしたらいいかと思っているようです。どの場面で誰にお願いすればいいのか、どのようなサービスが使えるのか、そしてそれらをどこ・誰に依頼するか1つ1つ可視化できると不安が緩和できてきます。
終活にとらわれると、いまを楽しむことがおざなりになります。でもそれをしておかないと、病気になったら迷惑をかける、孤独死したらなど、責任を感じてしまいます。そこをクリアする1つの方法として、生き方や価値観が近い人と、気軽に本音を言ってみるワークをやってみることをお勧めします。そうすると、意外と自分の思いに気づけます。定期的にやると、気持ちの変化にも気づけたり、ワークをやってノートを取っていれば記録も残ります。
ウェルビーイングライフで実施している終活に関するワークは、まだ完全な形にはなっていませんが、セミナーなどで実施しています。支える側のキーパーソンを作りながら、支えてほしいという方たちも参加いただき、継続的に集まることでつながる場を作っていきたいと思っています。体験者の話を聴きたい、などの声もあります。その人の備えだけでなく、情報や知恵を共有したり、仲間づくりをしたり、支えたいという人とのつながりができるかもしれません。
全部を重たく支えるのではなく、ここだけという支援、アメーバ支援を、ちょっと進めてみるのは可能なのかもしれないと感じています。
[講師プロフィール]
沢村 香苗(さわむらかなえ)氏
株式会社 日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト
研究・専門分野は、高齢者心理学、消費者行動論。
高齢期~終末期のQOL向上および意思決定支援手法の開発、「人生100年時代のパートナー 自分のデジタルツインsubME」、「「おひとりさま高齢者」の自律的生活支援研究会 SOLO Lab」などを注力テーマとしている。
▼沢村氏プロフィール詳細
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=26187
【参考】
クローズアップ現代(2024年7月10日放送)
特集「死後のこと誰に託しますか?“高齢おひとりさま”に安心を」
講師の沢村氏もゲストとして出演されている特集です。
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4926/