<結・しぶや>開設1周年 スペシャルオープンデイ *クロストークレポート
結・しぶやの開設以降、多様な活動に取り組み団体さんとつながっていく中でも共通して「居場所」という言葉がクローズアップされ、一つの大きなテーマとなっています。そこで、共に地域に暮らす様々な背景を持った方々と、それぞれの方法で繋がりを築いていらっしゃる 4 つの団体の皆さんにご登壇をいただき、今必要な居場所のあり方について考えました。
進行:渋谷区社会福祉協議会地域福祉コーディネーター 前田
渋谷区ボランティアセンター 中村
⭐️各団体の活動紹介
一般社団法人Vielfalt(フィールファルト)
代表理事 久保 亘さん
約 5 年前から活動しています。渋谷の本町出身で生まれ育ちました。外資系のIT企業で 40 年ぐらい働いて今は独立しました。私自身が引きこもり気味になったことと、娘も似たような経験があって、人生後半に向けて、何らか課題を持っている人たちの課題を解決していくのは一種のイノベーションだと思って、この活動をさせてもらっています。
多様な人々が共生できる社会を作るのに、世の中からちょっと外れてしまうとなかなか出てこられなくなってしまいますが、匿名でいいから一緒にご飯食べませんか?と。居酒屋という言い方をしていますが、何の目的で来てもらっても良いカフェを運営していて、そこが今日のテーマである居場所だと思っています。そこで繋がった人たちに、私たちのような自立している人たちがどんな思いで仕事しているか理解してもらったり、一緒に仕事をするような活動を並行して事業として取り組んでいます。
NPO法人フリースクールまいまい
代表理事 鴻池 友江さん
幡ヶ谷 3 丁目に「いるかや」という居場所を持って、平日 1 時半から 5 時半まで開いています。法人設立は2002 年、その頃は14万人が不登校と言われていて、その支援がしたいという思いでフリースクールまいまいという名で伊豆大島で立ち上げました。
放課後の居場所なども運営する中で、いろんな家庭を覗くことになり、家庭にどんな支援が届いているのかとても気になり、そこから児童福祉の世界に入りました。児童相談所でいろんな家庭をまた見させていただくことになって、会えば会うほど見れば見るほど、子どもだけの話じゃないということにたどり着いて、社会そのものの生きづらさや、家庭がどれだけ丸ごと支援してもらえているかがとても気になってきました。今現在は、行政では行き届かないところも含めて、支援がこぼれていくところに手が届けばいいなという思いで、今度は居場所を渋谷で立ち上げました。本当に安心して暮らせる社会はどんな風にしたら作れるか?をみんなで考えていける拠点になればいいなと思っています。居場所であるし、子ども食堂であるし、外に発信していく企画もしていく。そんなコミュニティのハブになっていけばいいなという思いでやっています。
caféマリエ(結の碧空)
代表 中島 珠子さん
区内で 2 箇所、渋谷区ではオレンジカフェと呼ばれる居場所を運営しています。 5 年前に看護師をリタイヤし、現在はコミュニティナースとして人との繋がりで町を元気にする町のお節介を、そして、世代間交流、サロンなどの活動もしています。認知症カフェは現職中の 2014 年から運営し、カフェの中では認知症、若年性認知症に関する情報提供や共有、本人、ご家族の仲間作りのお手伝いなどを行っています。
活動のきっかけは、現職中から「認知症だけにはなりたくない」という声をたくさん耳にして、誤解や偏見が多いことを感じており、正しく伝え偏見をなくす目的を持って開催しています。特に、若年性認知症の方は診断直後につながるサービスが今でもほとんどありません。症状が相当ひどくなってから初めて介護保険につながります。でも、その時にはすでに症状が進んでいる状態で、そうなるまでになんとかならないかなと若年性認知症のカフェを作りました。若年性認知症カフェの運営は 8 年ぐらいになりますが、3 年半ぐらいはコロナで行き場をなくしてしまいました。借りていた会場がクローズして行き場がなくなってしまい、本人も家族も本当に困ってしまいました。そんな時に声をかけてくれた協力者がいて、その方に場所を借りたりしてなんとか続けてきています。現在はせせらぎラウンジで開催しています。この 8 年間で今の場所は 4 箇所目で時には中野区でもやりながらも、ご本人やご家族、皆さんが来てくださり、そのお仲間の力が続いてきた理由として大きいと思っています。
せせらぎファンイン 冒険あそび場
代表代理 小水さん
居場所という言葉が2000 年頃から言われ、その頃に子どもたちの居場所づくりを地域でとファンインという組織を作りました。その中の 1 つとしてせせらぎファンインが設立されました。コミュニティせせらぎの学習室をお借りし、出たり入ったりできるようにしたり、その当時、ラウンジが希望制でお手伝いできたので、子どもたちと一緒に喫茶店ごっこができるようにしたり、「かまどでおやつ」ということで、色々交渉して、災害時に使うかまどを一般の日でも使えるようにして頑張って月に 1 回、子どもたちと一緒におやつ作りを屋外でやるなど、現在20何年の活動になります。
スタッフみんな、外にいないと息苦しくて死んでしまいそうになるので、外での居場所づくりができないかと、今のスポーツセンターの角地で扉を閉められる元幼児広場をお借りできるようスポーツセンターの方にご相談しました。その当時のサービス公社の大沢さんという方が工夫してくださり、年に 3 回ぐらいの頻度で始め、子どもたちが自由に遊ぶ練習、自由であることの練習ができるようにしてきました。”自由さ”というのはすごくよくわからないので、何をしていいのかなって子どもも思うし、大人は特に決まりごとがないと動けないことが結構あります。でも、繰り返していくうちに自分でいいとか悪いとか本当によく考えながら決めていけることができるようになっていくことがとてもたくさんあります。大人があーだこーだ言うよりも子どもたちが遊ぶことを見守っていく、子どもたちが広くいろんなことにチャレンジすることを見守っていくことを主体として活動をしています。
せせらぎ冒険遊び場としてスポーツセンターで 1 年、その間、視察してくださった区長や区議さんが色々と考えてくださり、有志のおばちゃんたちだけでやるような仕事じゃないよね、と、公園課の事業として「渋谷はるのおがわプレーパーク」の立ち上げを手伝ってくださり、「渋谷の遊び場を考える会」という組織が公園課の事業を受託する形になりました。子どもが遊ぶことを大事に、遊びの中で色々学びながら子どもたち自身が育っていくことがすごく大事なことだと思います。遊びを通して子どもが力をつけていく、自分自身で力をつけていくことで、お家に帰ってお家の問題や、いろんなことを自分自身で解決していく力を作っていければいいな、と冒険遊び場、プレーパークをやっています。
⭐️テーマ1
「活動している中で大変だったこと、辛かったこと。それでも、続けられる秘訣」
聞くところによると、地域活動には3 年目の壁があるらしい・・・。熱い思いを持って始めたけれど、活動していく中で何か違うと思い始める壁を超えて、どう活動を継続してきたのかを伺いました。
小水さん:
私たちが居場所づくりをした時に、上原社協館で相川先生という方のお話を聞きました。”いつ来てもいい、行ってもいい”、子どもたち自身に縛りがなく、逆にやっている側も”いつ始めてもいいし、やめてもいい”。また、 1 つだけ遊び場があっても仕方がなくて、中学校区単位で8つぐらいの遊び場が本当は欲しいよね、と広げてきていたのですが、それぞれが絶対に競わない、数を意識しない、ここにあるよということが居場所の大事なところと教わりました。それがここまで継続している理由のひとつだと思います。
鴻池さん:
続けられる、というより続けることが大事ということはすごくあるなと思います。ここにいるよ、ここにあるよと。来たい時に来て、今日はどこか別の違う場所へ行く。今日はあそこに行ってからその後にこっちに来た、と行き来する関係性がいいなと思っています。いるかやでは、毎日ここに来なきゃいけないという登録性ではなく、学校に行ってる子も行っていない子も関係なく、また、子どもだけという年齢制限もないし極力「誰を」という線引きをしないことを意識しているところです。
中島さん:
カフェにたとえ 1人も来なくても、とにかく決められた曜日の月 1 回は必ずここで開いているよ、ということが大事だと思うので、とりあえず開いて続けることですね。でも1人ではなかなか運営はできないので、一緒にやってくれる同じ気持ちで同じ方向を向いている仲間を作るということが長続きするためには、すごく大事かなと思っています。
私が続けてきて一番嬉しかったことは、来てくださった本人さんやご家族に、「ここがあってよかった」と言ってもらった時です。認知症の話はどなたにも理解してもらえるわけではなく場所がなかなかない、でも、そこに行ったら同じ仲間がたくさんいて、一番気持ちを理解してくれる人が集まってくる場所です。認知症に関係なくても、今後に向けて学ぶという意味でもすごく備えになるのではと思っています。
久保さん:
私の場合、対象としてるのが社会から外れた人ですが、最初に始めた時にそういう方ってどこにいるの?っていうところから始まりました。私が居場所としても運営しているカフェは、実は引きこもり経験者が運営する、としか書いていなくて、引きこもりの方が来てください、というメッセージは極力出さないようにしています。自分自身で私がそうですという方に来てもらう、そして、あなたが誰かを別に言わなくていい、匿名でいいです。いつ来て帰っても構いません、としています。
私自身は場所を提供しているだけです。応援者募集という言い方で、私が一緒にお仕事している社長さんを呼んで人生を語ってもらったり、選挙目当てではなく衆議院議員さんにあなたの人生を語ってください、と話してもらうなど、やっている間に色々な出会いが生まれ、周りで勝手に手伝うよ、という声をいただくようになってきています。
続けることがやっぱり重要だなと思うのと、来てくれる人にいったい何がいいの?と聞くと、「楽しい」「明るいね」と言ってくれる。みんなの居酒屋という言い方で、ちょっとお酒も入りながらそういう場が重要だと思っています。
小水さん:
外遊びが好きな人たちが集まってお子さん達の活動も、運営している人たちも一緒に楽しみながらやれているのかなと思っています。使命感とか義務感を考えすぎたり、やらねばならないと思うと苦しくなります。しんどい話は色々ありますが、基本的にはやっぱり遊びは楽しい、その楽しさを本当に伝えていきたいです。最近は 1 つの場所の質を考えるよりも、子どもも大人もここまでできるという解放区をいっぱい作りたいと思うのですね。先ほど話もありましたが、ある日は校庭開放とか、居場所を子どもたちが回遊できるのが良いと思います。 子どもは色々見つけるのも得意なので、隠れ場所みたいな場所もいいし、小さかったり大きかったり、地域に本当に色々な場を散りばめていけるといいなと思っています。
⭐️テーマ2 居場所とは何か?
居場所の定義はあるものの、居場所に対して正解はなく、その人にとっての居場所はその人が決めるもの。場所、空間、人など様々な形がある中で共通して「居場所が大事」と言われている今、果たして、居場所とは何か?大事にされていることを改めてお伺いしました。
鴻池さん:
国の中でも居場所の重要さは認識されていて、こども家庭庁の中に子どもの居場所づくりを支援する仕組みの整備をする課が出来て、居場所づくりを加速させようという動きがあります。 個々人が居場所と感じるところが居場所であるわけですが、私たちの活動を説明するのに居場所という言葉が必要な場面があると感じています。場所を借り続けるためのお金が必要ですが、 その場に来る子どもや親御さんたちからお金は取らないので、その資金作りが必要となります。世の中に理解していただいてご寄付を集めていく際の説明に「居場所づくりをしています」という言葉が必要になってくることや、“生きづらさ”といったマイナスに感じられる言葉をどうしても使わないと説明していけないところにジレンマを感じています。本来は、目の前のあなたを大事にしたいし、不便な人とか困っている人の定義をしたくはないのが思いですが。。。
中島さん:
居場所は 1人 1 つじゃなくていいと思っています。その時その時で自分の気持ちが楽しくなる場所であればどこでもいいと思います。「結の碧空」は、若年性認知症の方向けに始めました。全国の自治体どこでも、よほど症状がひどくならないと繋がる場所がなく、行政もなかなか把握しにくいのが実態です。2 ヶ月に 2 回の頻度ですが、渋谷区民含め、まずこんな場所があるのだよと知らせるために開催しています。特に若年性認知症の方の人数が少ないので本人同士が繋がって情報を得ることが大事なことです。診断直後はものすごく落ち込むし、みんな自殺を考えるぐらいとのお話をよく聞くのですが、仲間の繋がりがあって、一歩先を行く話を聞く、それだけでも気持ちが落ち着くので、特定の場所にはなりますが居場所という意味ですごく大事で必要だなと思っています。
久保さん:
対象としている人によって随分変わってくると思います。僕のイメージでは、地域の居酒屋やカフェに入ったら面白い人がいたな、ちょっと声をかけて話せるといいなと思って場を作っています。今思っている自分の中にはない違う世界がそこにいると見えるというような。
1人1人のありのままな人生なり、思いを無理なく聞ける、話せたらいいな、そういう場ができたらいいなと思ってやっています。私はお酒を飲まないですが、居酒屋のように大きな声で喋ってもいい場所がいいのではと思っています。
鴻池さん:
伊豆大島から渋谷に活動場所を移したという話をしました。当初は、新宿の歌舞伎町の界隈にいるトー横キッズたちや、渋谷だったらセンター街の子ども達に安全な場所はこっちにあるよと言いたくて土地を選びました。全国からいろんな若者が何を求めてきているかというと、人との繋がり、ちょっとしたぬくもり、どこかに自分の場所があるのではないか、何かあるかもしれないと求めてきている。キラキラしているイメージを抱いて来ている若者たちが、結局は被害、加害の関係になってしまったり、家出少女みたいな扱いで警察が補導に入ると、居場所がなかったから地元から出てきたのに、また生きづらかった場所に戻されてしまうことが起きていて、そういうことが減るといいなと思っていました。そういう被害・加害が起きないで私たちの所では見守ってあげられる思いがあって場所が作れるといいなと思ったのですが、実際今の居場所にはそういう若者が来るかと言えば、そこには繋がっていません。
若者にとって安全とは何かを考えると、ねばならないとか、to do とか、こういう人でなければならない、こういうことをしなければならないという外から認められる自分を一生懸命つくらなければいけない所に安心感はない。何ものでもない自分がそのままでいられる場所がとても安心できる場所だと思う。結局、自分の居所を明かさないでいいし、どこから来たとか何があったとか言わなくても似たようなファッションで、なんとなくそこにいられる馴染めることが大事。歌舞伎町とかセンター街に集まっている子たちにとっては、そっちの方が心地いいんだろうなと感じています。いかにそういう方たちに安心感を伝えていけるかは、これからの努力したいところだなと思います。
久保さん:
実は最初にカフェをやったのはセンター街でした。僕のイメージでもあそこが一番自由じゃないかと思って。そこにいると自分 1人だけど孤独感を感じないのは居場所だという風に思っていて、安全地帯ですね。
小水さん:
何年も「はるのおがわプレーパーク」に通っていた子がいて、今やスタッフの手伝いもできるようになっています。何年も喋らなくて、やっと名前を聞き出したのも何年目という感じで、でもいつも来ていました。少しずつ本当に少しずつ解けてくる、そういうシーンが本当に多々あります。ものすごい荒くれ者で、どんなものもなんとかして自分のものに欲しいという風なところがあった子が、何年か経つと本当にどうしたの?というくらいに削ぎ落とされて、すごく静かな優しい子になったのを見ることもできます。人はやっぱり変わっていけるのだと。
カチカチにこうしなきゃいけないではなく、失敗してもいいのだという安心感。その子がその子でいられることを用意する。それが大人の役割という風にはいつも思っています。
子どもの中には完成形があって、本当に失敗してもいいし、へんちくりんなものを作っても面白いなっていう自由さがあるとか、そういうところはすごく大事にしたいなと思ってるところです。
⭐️最後に
久保さん:
居場所はいろんな考えがあって良いと思っています。いろんなことをやっていたら繋がってくるんじゃないの?と考えています。
来年 2 月 15 日に結・しぶやでエールダイアログを開催します。「違いを力に変える街 渋谷でみんなで語り合う」という主旨で、去年はガンダムの監督に語ってもらいました。何人かに自分がどう生きてきたのか自己開示気味に語り合う機会を予定しています。自分ではない、親でもない大人の人生を語ってもらうことはすごく重要なことで、コラボレーションを応援したいという方がいらっしゃったら、是非ご協力いただければなと思います。
鴻池さん:
地域に繋がって、あの人今日は出てこないな、という気づきで、いざという時も助け合いになるところはとっても大事にしていて、この秋 11 月、12 月、1 月とささハピのプロジェクトの助成を使わせていただいて、違いを力に変える街を体現したいと考え、一般的にはマイノリティと思われるいろんな方に来てもらって、座談会で語ってもらいます。皆はどう考えるのかとか、自分はこうだよみたいな話をしていきます。日々そういうことで、隣の人はどんな人なのだろう?と興味を持って理解し合う、尊重し合う。そういう心の土台を作っていく活動をこれからしていきたいと思います。一緒に活動していただける方がいたらぜひご協力ください。
中島さん:
2025 年問題もあって、高齢者の方がものすごく増えます。
超高齢社会、認知症を発症する前に学んでおけば安心で怖くもないですし、仲間がいればもう本当に心強いです。来年の 1 月からは、こちらの結・しぶやで他区で認知症関連のことをやっておられる方とも繋がって、より情報をたくさん入れることで安心できる時間を作っていきたいと思っています。
小水さん:
私も高齢者で孫が3 人に増え、今はウーバと言われています。個人的には、何でも相談に乗ったり、お手伝いをしたりしていきたいなと思っています。
本町笹幡初で 1日でいいので出張遊び場、出張プレーパークを作りたいなと思っています。
司会より:
私たち地域福祉コーディネーターは、昨年より「福祉なんでも相談」の受付を行っています。その中で、他者とはあまり関わりのない方たちや、地域で孤立している方たちの家族からご相談を受けてご本人と繋がっていくことをやっています。誰かと繋がっていく、そうすることで地域から孤立を防ぐことができます。ただ挨拶する関係だけでも、今日いないなとわかる、地域で繋がってそういう事態が発見できるようになるといいと思っています。今回登壇いただいた方たちのように多種多様な活動が渋谷区内に広がっていくいけばいいなと思います。ありがとうございました。