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「これからも地域の医療的ケア児を支えていきたい」|重症児デイサービスの看護師上野さん
栃木県下野市にある重症児デイサービスDAIJI(だいじ)。
重症児デイサービスDAIJIは、医療的なケアが必要な子どもを預けられる施設です。
たんの吸引などの医療的なケアを必要としている子どもたちには、常時見守りが必要です。しかし、子どもたちの預け先は少なく困っている家族も多いといいます。
重症児デイサービスDAIJIは、地域の医療的ケアが必要な子どもたちのために、当事者の親が立ち上げた施設です。
施設の名称である「DAIJI(だいじ)」は栃木の方言で「だいじょうぶ」の意味を表します。「ここなら大丈夫」という意味がこめられており、その名の通り、医療的ケア児やその家族の憩いの場にもなっています。
今回は、地域の医療的ケア児を支える重症児デイサービスDAIJIに勤務されている看護師の上野さんにお話を伺いました。
重症心身障害児との出会い
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上野さんは、総合病院で看護師として働いていましたが、結婚を機に栃木に引っ越してきたことをきっかけに、重症心身障害児者施設の看護師へと転職しました。
「総合病院は治療がメインでとても忙しく、患者さんの生活に寄り添った看護があまりできなかったんです。次の職場では、患者に長く寄り添える看護がしたいなと思って探していたところ、重症心身障害児者施設を見つけて転職しました」
重症心身障害児者施設での勤務は、長く患者さんに寄り添い続けたいという上野さんの願いを叶えるものでした。充実した看護生活にやりがいを感じていた上野さんですが、産後の時短勤務期間が解除されるのを機に一度は退職することに。
その後、しばらくは総合病院や産婦人科でパート看護師として勤務しますが、子どもが大きくなったのを機に、もう一度腰を据えて重症心身障害児者施設に勤務したいと思うようになったそうです。
「訪問看護や通所施設など、在宅で過ごしている方と関わりたいと考えながら探していたところ、DAIJIに出合ったんです。ここなら、子どもたちもまだ小さいので成長を見られるし、他の看護師と相談しながら業務を進められるのも心強いと感じました」
上野さんは、看護師としてのスキルを活かしながら、子どもたちの成長を感じられることに魅力を感じ、DAIJIに転職したのです。
個性豊かな子どもたちの成長を見守る仕事
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DAIJIには、医療的なケアが必要な3歳〜18歳(高校3年生)まで幅広い子どもたちが利用しています。子どもたちの成長はとてもゆっくりですが、身体も少しずつ大きくなり、できることも少しずつ増えてきます。
「子どもの成長を見守れることが何よりの魅力ですね。一人ひとり個性があってみんな可愛いんです」
個性豊かな子どもたちですが、その多くは、言葉や表情を表出できず、自分の思いを伝えることが難しいため、普段から気をつけていることは山のようにあるといいます。
「普段から骨折を防ぐために足の角度や体の向きに気をつけたり、管が外れたりしないように常に気を配っています」
すぐに子どもたちの異変に気づけるように、日頃から元気な時の様子を観察したり、保護者とのコミュニケーションで情報収集に努めたりしているそうです。
地域の医療的ケア児を支えるために
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上野さんはDAIJIでの看護経験を振り返り、施設と保護者間のコミュニケーションが重要であることを強く認識したといいます。保護者の社会的な孤立やコミュニケーション不足は、重症児保育における大きな課題のひとつです。DAIJIでは重症児の保護者がひとりで悩むことがないよう、送迎の時間でのコミュニケーションを重視しているそうです。
「保護者さんからは、送迎時にお話しできるだけで気持ちが楽になるというお声をいただきます。普段過ごしている様子の話を聞くのを楽しみにしてくれている保護者さんも多いんです。呼吸器などがついている子どもたちを送迎するのは大変だとは思いますが、少しでも外出して誰かと話す機会を作れるよう、私たちもサポートしていきたいと思っています」
保護者が社会に触れるための接点としての役割もあるという重症心身障害児者施設ですが、一方で全ての家庭に支援の手が行き届いていないという課題も残ります。
「うまく外との連携がとれるといいなと思います。ここを利用しているご家族は理解がある方が多いのでそんなに困ることはないんですが。地域との連携というところでは、いろんなご家庭がありますし、難しい部分もあるなと感じています。」
地域との連携に課題を感じた上野さんは、現在、通信制の大学に入学し社会福祉について学んでいるといいます。
「医療と福祉も違うなと感じていて、きちんと社会福祉を勉強しないとわからないなと思って学んでいます。やっぱり施設にいるだけだと自分の考えも狭くなってしまうし、新しい情報をアップデートしていかないと。医療の方も病院にいるわけではないので時代遅れにならないように学んでいきたいです」
やってみたいと思ったら飛び込んでみる
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もともと総合病院で小児科を経験したことはなく、「やってみたい!」との思いから重症心身障害児者施設の看護師となった上野さん。一度は重症心身障害の分野から離れたものの、現在はDAIJIで活躍されています。
「やってみたいと思っていても頭でっかちに考えすぎてしまうと、なかなか最初の1歩って出ないと思うんです。やってみたいと思ったら、まずはやってみる、行動を起こすことが大切だと思います」
そう語る上野さんは、働く中で地域との連携に課題を感じ、思い切って通信制大学で社会福祉を学び始めます。将来はその学びを重症心身障害児のサポートや施設の発展に活かしていきたいと考えているんだそう。
「やりながら学んでもいいと思うんです。学んでからやろうでは遅くなってしまいますし。実際にやっていくと見えなかったものが見えてきたり、想像と違う場合もあったり。これは、やってみないとわからないですよね」
上野さんがDAIJIで働き始めてから新たな挑戦をして世界が広がったように、まずはやってみることで、今まで知らなかった知識や経験が積まれていくのかもしれません。
もし、あなたが新しい分野に興味をもった時には、思い切って新しい一歩を踏み出してみませんか?きっとその先に思ってもみなかった景色が広がっていることでしょう。