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生まれて初めて、空港の床に寝た日のこと〜ニューカレドニアの思い出(地獄編)

2019年9月9日

ちょうど1年前、9並びのこの日。
私の30ウン年の人生の中でも、忘れがたい1日だ。

本当は人生の中でもっともハッピーな1日になる予定だった。
でも、まったくもって正反対の意味で記憶に残る1日となった。

今日は1年前のそんな1日、自分で思い返してみてもなかなかに壮絶な1日なので、思いっきり振り返ってみようと思う。

題して「陸の孤島へ、決死のルポルタージュ」だ。

なんの日かというと

2018年に結婚式を挙げたものの、お互い日本とフランスを行き来することはあっても新婚旅行的なものに行っていなかった私たち。

私がちょうど退職して有給消化中だったし、タイミング的には今しかないよね!ということで、Otto氏がバカンスをとり、日本で合流してからの、新婚旅行に出発する日だったのだ。

オーガナイズは全てOtto氏。ベトナムでヨーロッパのリタイア層向けツアー会社を起業したいと言っていたくらいの「旅企画」好きなので、全面的にお願いすることにした。

Otto企画とはいっても、場所くらいはふたりで決めるのかと思いきや、「サプライズだ」とのたもうて、場所からして氏が決めることに。

うちのOtto氏は「サプライズ」に対する尋常じゃないおこだわりがある。なので、どんなに問いただしても頑なに行き先を教えてくれない。唯一、シュノーケリングのゴーグルみたいなのと水着は持ってくるように言われたので、たぶん海のあるところだな、くらいしか事前情報がなかった。本気と書いてマジだ。

すでに東京の住まいは引き払って実家に戻っていたので、Otto氏がパリから羽田に到着する9月8日(日)の朝に実家を出て、夕方羽田に迎えに行く。その足で都内にある親戚の家に1泊だけお世話になり、9日(月)にどこかへ出発する予定だった。

ヤツが、来たる

日本では目下、台風の季節。先日も大きな台風が九州あたりを直撃したとニュースで聞くにつけ、異国に住む身として心配はつきない。

昨年もこの時期に、台風が多く発生した。中でも、千葉沿岸部を中心に関東地方を荒れに荒らした台風15号のことを覚えていらっしゃるだろうか?「令和元年房総半島台風」と名付けられている模様。


8日(日)の夜 嵐の前の静けさ

台風がくるみたいだから早く夕食を済ませて家に戻ろうと、親戚夫妻と月島の老舗でもんじゃ焼きをサクッと食べ、翌日に備えて床についた。

就寝中、聞いたこともない強烈な風の音と、マンションが揺れるほどの強風で目が覚める。こりゃかなり大きい台風だな・・・と若干心配ながらも、呑気にまた眠りにつく。

9日(月)の朝 都内中央区

未明の台風のニュースを聞き流しながら、準備を済ませる。

このときもまだ行き先はもとより、飛行機の便名すら教えてくれない。
唯一、空港は羽田ではなく成田だということだけは昨日の段階で情報をゲットしていたので、「成田までの行き方を考えなきゃだから、いい加減時間くらいは教えて」と粘って、「遅くとも17時までに成田にいけばいい」ことがようやくわかる。

成田までなら東京駅からバスだと所用時間1時間半くらいか。台風の影響で道混んでるかもしれないから、まあ、お昼を食べて東京駅に行って、14時くらいのバスにのれば余裕でしょう。

と、いともあっさり考えていた。台風一過だーなんて写真を撮る余裕もアリ。

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ところが少し早めのお昼中。のんびり近所のカフェで焼きシャケ定食をいただきながら、どこに連れて行かれるか当てっこしている平和な家族グループのLINEのさなか、妹から「成田孤立っぽいよ」と情報が入る。

え??・・・

急に慌てる。
ここにきてようやく交通機関の運行状況を調べ始める私。
たしかに成田エクスプレスは止まってるっぽい。

こりゃやばいかも、と胸騒ぎがしたので、ごはんを途中で切り上げて速攻バスで東京駅にむかう。

13:00 東京駅

東京駅前。バス停、タクシー乗り場とも、人混みでごった返し、見たことのないほどの長蛇の列。

事態はかなり深刻なことに気付く。どうしたらいいのか、しばし呆然。
動画がいくつも残っているけれど、このときの混雑ぶりは本当にすごかった…。

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ああ、呆然としてるだけじゃいかん!と、頭を切り替えて、フル回転。
Otto氏には、羽田か関空の便に変えられないか、なんとか交渉して!と指示を出し、私は現状把握と対策につとめる。

とりあえずバスの係員さんに聞くと、「高速がふさがっているから、高速バスが運転できるわけない」と語気を強められる。
並んでいる人々にどういう状況か尋ねるも、皆どうしていいかわからないからとりあえず並んでる、らしい。

タクシー乗り場、100人以上並んでいる。「だいぶ前から並んでいるけど、全然タクシー来ませんよ」とのこと。

こりゃやばいな・・・Otto氏の回答を待つ間、東京駅から関空への行き方を血まなこになって検索。

数分後、国際電話で決死の交渉を終えた氏からの回答は、関空便はNG。昼過ぎ発の羽田便だったら空きがあったけど、もう本日の便はなしとのこと。もっと早くに気づいて動いていれば…後悔してももう遅い。

別の空港への望みは絶たれた。なんとしても17時までに成田に行くしかない。ここに並んでも一向にバスは動かないし、ここにはタクシーも来ない。

「公共交通機関がダメならタクシーを拾うしかない」との結論にいたった私は、Otto氏を引き連れ、大きなスーツケースを早足で引きずりながら東京駅構内に入る。タクシーがきそうなところはどこかと必死に考えながら、とりあえず山手線にのりこんだ。


14:00 有楽町ペニンシュラホテル前

ホテル近辺ならば、タクシーはつかまるはず。ペニンシュラとか帝国ホテルらへんなら皇居周りで道も広々だし、車の往来も多いのではと思って、一駅となりの有楽町で下車。ダッシュでペニンシュラホテルに向かう。

私の勘は正しかった。流しのタクシーが、わりと通る。

がしかし。「成田空港までどうしても17時までに行きたいんですけど、お願いできますか?」と伝えると、今日は無理だね、とか、そもそもナビもないし都内専門、とか。3台くらい立て続けに断られる。

そんな中ようやく、「なかなか大変な状況っぽいですけど、まかせてください!」と言ってくださる運転手さんが見つかる。神様!

乗り込んでわかったのだが、その運転手さんの名前、「成田さん」だった。

15:30 市川市近辺

運転手成田さん、ナビを駆使&ご自身の知識をフル稼働してくださるも、どこも大渋滞。こりゃチャリのほうが早いな・・・と思うほど。

Twitterなどでも情報収集していたけど、軒並み成田便がキャンセルになっている様子との情報を得る。そうだよ、そもそも飛行機は飛ぶのか?

もういい加減教えてくれないと困ると啖呵を切って、ようやくOtto氏から航空会社と便名を聞き出した。19:20発JALのシドニー便。シドニー経由で目的地までいくと。

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JALに速攻電話。しかし梨のつぶてでまったくつながらない。無機質な自動音声に、ホームページが最新の情報だからとしか言われない。

共同運行便のエアラインにもダメ元で電話したけど、こちらは一応つながった。「私たちもJALさんのホームページチェックしてるんですぅ…」と。

一方のホームページ情報は、遅延運行の可能性あり、受付一時停止してます以外まったく更新されない。

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無情にも時計の針はどんどん進み、17時をとうに超えてしまった。遅延していることを願うしかない。

18:30 船橋市近辺

あたりはすでに真っ暗。
相変わらずホームページは更新されないけど、空港ホームページとTwitterの情報で18時台の便がほぼキャンセルと更新。完全に雲行きが怪しくなる。

もしものときのためにと、空港近辺〜空港に近い千葉県内のホテルも探し始めたが、完全にどこも満室。

このあたりで、メーターは2万を超えた。

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19:00  成田市

ようやく成田市に入るも、ロードサイドのお店は停電がポツポツ。車は相変わらず全然動かない。

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19:30、ようやく空港につながる一本道に。歩いて空港を脱出している方々もちらほら見える。

なお、19時20分の出発時刻すぎても、JALホームページは「遅延可能性あり」のまま。もうメーターはどうでもいいから早く着いて・・・という気持ち。

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20:30 成田空港 第2ターミナル

ようやく、ようやく空港第2ターミナル到着。

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トータル約6時間半のタクシーの旅。成田さん、本当にありがとう。一生このご恩は忘れません。

衝撃のお会計は、長距離割が入ってこちら。

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後にも先にも、こんな大金をタクシーで払ったことは、ない。

なお、肝心のシドニー便については、タクシー下車3分前にようやくホームページで欠航と表示。あれ、もしかして私たち、こなくてよかった・・・?

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21:00 第2ターミナル、JALカウンター

タクシーを降りて、人であふれる成田空港に入り、欠航確認。膝から崩れ落ちた。

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とりあえず状況を把握しようと、人でごったがえすカウンターに向かうも、ホテル手配はもちろんなく、予約した便の代替は明朝8時から自分で予約センターに電話してなんとかしてください、と。どうしようもないので、とりあえず寝袋ふたつもらう。空港内睡眠決定。

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便については、Otto氏が電話で何やら交渉して、翌朝の目的地直行便に振り替えられたと教えてくれた。仕事できる!グッジョブすぎる!

ちなみにこの後に及んでもまだこの人、目的地について明言しない。すでにだいたい目星はついてるけど。

21:30 第2ターミナル内 セブン・イレブン

寝る場所をみずほの両替所前に確保。
ようやく安心したのか、極度の喉の渇きと空腹に気付き、Otto氏を残して、唯一食糧調達ができるセブンに向かう。

すでにおにぎり、サンドイッチ系の鮮度ある商品やパン系はまったく残っておらず。スナック菓子ですらほぼ空。

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売れ残る、暴君ハバネロ・・・。

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タピオカチョコだけはボリューム陳列のまま・・・。

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ビールがかろうじて残っていたので、プレモルを速攻カゴにいれた。


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乾き物中心に食糧を仕入れるも、今度はレジ待ちに長蛇の列、列、列。動画でお見せしたいくらい。会計にトータル2時間かかった。

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23:30 空港第2ターミナルビル みずほ両替所前 

ようやく会計を済ませることができ、寝床に戻る。空港内は行き場をなくした仲間たちで溢れかえっていた。

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こちらは、航空会社からのクラッカーと水の配給に並ぶ人々の列。

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食べ物と飲み物を持って、私たちの今日の寝床へ。用心深いOtto氏が囲いを作っていた。

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こちらが、本当はハッピーな1日になる予定の日の晩ご飯。ようやく、乾杯。

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「出発前から、なんてスーパーサプライズなのかしらね」なんていいながら、ビール一気のみ、いかそうめんも一気ぐいで、バタンキュー。

心身ともに、この世のものとは思えない疲労におそわれ、吸い込まれるようにして空港の床で眠りに落ちたのであった。


→ 天国編につづく

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ユイじょり
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