イギリス生活あれこれ(1): ボイラー問題
自分が育った環境から出て他の場所、異なる文化の中で生活すると、思いもよらなかった不便さが突如姿を表す。そして今一つどう対応していいかわからない。いや、受け入れて生活しなければならないのだが、どうも腑に落ちない。
今回はそんな不便さの一つ、ボイラー。
ボイラー(給湯器兼お湯の貯蔵タンク) ★★⭐︎⭐︎⭐︎
イギリスの住環境で、いわゆる瞬間湯沸かし器を見たことがない。イギリス育ちの友人に指摘すると「へぇ、そんなこと考えたこともなかった」という生ぬるい返事で共感してもらえない。そういう技術があるということも知られていないらしい。
各家、各アパート室内にボイラーが設置されていて、ボイラーのスイッチがオンになっている間にお湯が作られ、ボイラー内で保温・貯蔵される(保温・貯蔵はスイッチがオフの間も稼働している)。そしてキッチンやバスルームのお湯の蛇口をひねるとお湯が出る、という仕組み。
裏を返すと、ボイラーのスイッチがオフになっている間はお湯が作られない。スイッチ・オフの間に溜まっていたお湯を使い切ってしまうと、状況によっては悲劇となる。例えば週末の午後、ボイラーのスイッチのことなどすっかり忘れて長い熱いシャワーをして「人生そんなに悪くない」などと良い気分に浸っていると、いきなり水に切り替わって現実に引き戻される。スイッチ・オフの間にお湯がなくなったら、緊急対応用にすぐにお湯を作ってくれる Boost (ブースター)機能があるのだが、そこはイギリス。「すぐに」と言っても1、2時間は待たなければならない。冷水を頭から浴びてまた温かいシャワーを待っている間の惨めさといったら…いくらでも払うから瞬間湯沸かし器を輸入したくなる。
ボイラーの別の問題点は、大きくて場所を取ること。大きな子供の身長ほどはある(もっと大きいものもある)。新しいアパートの図面を見て「ここにもクローゼットがある!」と喜んで内見に行くと、そこはボイラーが鎮座していて結局私の不必要な(だけど必要な)モノの行き場がない状況は変わらない。ボイラーには専用のドア付きスペースがどの家でも用意されているのだ。安全からの要求なのだろうけれど…それにしても、である。
お湯問題に話を戻す。そんなオン・オフがある仕組みの中で、一般的にはお湯をよく使う時間帯のみボイラーをオンにする。仕事へ、学校へ出かける準備をする朝、そして帰ってきてご飯や子供をお風呂に入れる夜、それぞれ2〜4時間ほど。ボイラーに自動オン・オフ機能が付いているので、時間だけ設定しておけば毎日ボタンを押す必要はない。
では24時間ボイラーのスイッチをオンにしておけば良いのでは?というコメントはごもっとも。私もできることならそうしたい。ただそうしない、というよりできない、理由がある。それは桁違いに高い電気代・ガス代。ボイラーは電気又はガスで動いでいるのだが、どちらにせよ料金が高すぎる。日本も近年光熱費高騰が叫ばれているのは承知しているが、その比ではない。以前ボイラーを1日7時間(朝3時間、夜4時間)ほど稼動させていたが、現在は1日5時間(朝2時間、夜3時間)に減らしたところ、電気代が月約1万円安くなった。2時間の差異で1万円、を基準にボイラー24時間オンの場合の料金を考えると…後の計算はお任せする。
そんな現実を受け止めて何とかやっていかなければならないのだが、ボイラー・オンの時間帯を自分の生活スタイルに合わせて設定しておけば、溜まっているお湯を使い切ることはほとんどない。変則的な時間にシャワーを浴びる必要がある場合は、先回りして Boost 機能をオンにする頭も働くようになる(瞬間湯沸かし器があればこんなことしなくてもいいのになぁ、と文句を言いながら)。
最後に。散々ボイラーのことをけなしてきたが、ボイラーの名誉のために一つ良いことも書いておこうと思う。先ほど少し書いたが、ボイラーは個室を持っている。そして往々にしてその上には物干し竿のような棒や小さな棚が設置されている。ボイラーはスイッチ・オフの時間帯でも貯蔵されているお湯の保温はしているので、ボイラー周辺はぽかぽか。そしてボイラーは閉じられた空間にいるので、その部屋も常に暖かい。これがよく雨の降るイギリスでは活躍する。雨に降られて濡れたコートやお洋服を、ボイラーの上の棒にかけたり棚に置いたりして早く乾かすのである。そして寒い季節には、自分がその日に着る物を事前にかけておいて温めておくこともできる。冬の朝に冷たい服を着た時のあのひやっとする瞬間を避けられるのはありがたい。
ということで、ボイラーは星二つ。