人生でたいせつな瞬間にカメラを構えているはずがない
「これクッキー。手作りの。元気でね。」
お別れの時、ポンと手のひらにのせられた手作りのクッキーと、やさしい笑顔。
JRの無人駅の、待合所で、そのクッキーを食べたときには、やさしい甘さがそのままこころにひろがった。
人生でこころのシャッターを切る瞬間、とてもたいせつにしたい。そんな瞬間、半年や1年、ずっとないことだってある。
それは思いがけず目に飛び込んでくるから。それは思いがけず見えていたはずの景色の輪郭をこころの中でたどるから。
人生でたいせつなそんな瞬間にカメラを構えているはずはないけれど。
それでも、私はきっとこれからも、写真を撮るのが好き。
こころとカメラのシャッターは連動することだってできるし、こころのなかの思い出を忘れるわけはないのだけれど、いつだって思い出すことだってできるから。