そんなわけで、私は伊勢でスパゲッティを食べていた
伊勢に到着した。伊勢市駅から徒歩5分ほどの道の途中に、もうひとつの候補であったゲストハウスがあった。私はそれを横目にキャリーケースを引いて、今晩泊まるゲストハウスでチェックインを済ませた。
数時間前に予約したゲストハウス。ホテルより安いわけでもなかったけれど、ホテルよりずっとワクワクした。初めてのゲストハウス。私はなぜだか、どうしても、いつもと違うことがしたかったのだ。
いつもはホテルに泊まる私は、いつもはInstagramでレストランやカフェを探す私だけれど、ゲストハウスに泊まってみた今日の私は、荷物を整理した後、スマホをしまって1階のラウンジに降りてみた。
これから晩ごはんだ。
今晩のお目当ては伊勢うどん。ゲストハウスのオーナーの方が、知り合いのお店を教えてくれた。
カウンターに座っていた宿泊客の女性は、ランチに喫茶店でスパゲッティを食べたという。見せてもらった動画に映るスパゲッティは熱々の鉄板の上に乗っていて、こころ奪われた。
迷いに迷ったけれど、私はやっぱり当初の目的であった伊勢うどんを選んだ。
*
18時半、ちょっと過ぎ。荷物を置いて久しぶりに身軽になった私の夕方の散歩が始まった。
伊勢市駅を少し越えたところに確かに目的地の伊勢うどんのお店があったけれど、「本日休業、すみません」の張り紙。
GWの翌日だし、仕方ない、仕方ない。オーナーの方におすすめしてもらった、伊勢うどんと唐揚げ丼セットの口にはなっていたけれど。
そんなわけで、伊勢うどんの選択肢がなくなった今、向かう先はもちろんスパゲッティの喫茶店。回れ右。
到着すると、奥の窓際の席に通された。「普通盛りが大盛り」という女性からの忠告を聞いていたおなかぺこぺこの私は、普通盛りを注文した。
初めての伊勢で、初めての食事は、ナポリタンのスパゲッティだった。
「喫茶モリ」という喫茶店の「モリスパ」。
ナポリタンと卵と、それから油が、鉄板の上で熱々グツグツ。鉄板の上のすべてを絡めて食べる。
縦に半分に切った赤いウインナー。
その上には細かいのと、荒いのと、黄色いのと、オレンジの、粉チーズがささっと振られている。
言葉でおなかをすかせることができたらどんなに素敵かしらと思うけれど、私にそんなことはできないので、写真に頼るとする。
写真で見ると、モリスパはこんな感じ。
ひとくちほおばった瞬間「東京に帰った後、恋しくなる味だぁ」と感じた。実際には、伊勢を離れる前からもう恋しくなった。このモリスパの「美味しい」は「また食べたい」がたっぷり含まれているタイプの「美味しい」だ。
細くてやわらかい麺は意外と綺麗にフォークで巻くことができた。一口ひとくち、我ながら、丁寧に食べた。
ゲストハウスに泊まらなかったらきっとこの喫茶店には来ていない。きっと、いや、間違いなく。
だからこそ美味しくて、ほおばった。
食後、美味しいコーヒーを求めて、片道15分以上かけて行った古民家カフェの入口には「伊勢在住の方以外お断り」の張紙。
「そうかそうか、そうよね。仕方ないよ。」と、なぜだかちょっぴり自分をなだめながら、「すごいときに、伊勢に来ちゃってるんだなぁ。」となぜだかちょっぴり嬉しくなりながら、私はゲストハウスに引き返した。回れ右。
ゲストハウスに帰って来て、オーナーと女性に今晩の晩ごはんの話と明日のお伊勢参りの計画を話した。あっという間に2時間くらい経った。
今夜の宿泊客は、私とその女性のふたりだけだという。
二軒茶屋餅というお餅をもらって、一緒に頬張った。美味しかった。赤福よりも、私はこっちが好き。だって、日本全国売っていないもの。「ゲストハウスで出会った人にもらったお餅」なんて。
翌日は朝の10時までにチェックアウトしなければ。長かった今日、もうおやすみなさいをしないと。
そんな伊勢での夜だった。
毎月1日は、伊勢神宮のおかげ横丁で朝市のようなものがあって、朝早くから店が空いているらしい。
そこでしか食べられないお餅やお粥があるらしくて、それってすごく楽しみだ。
またきっと訪れよう。それから、またあのゲストハウスに泊まって、夕方にはモリスパを食べに散歩に出かけよう。