Vol.120「エコロジカルアプローチ」
はじめに
みなさん、こんにちは。
最近読んだ本で「エコロジカルアプローチ」(著:植田文也)に大きな感動と気付きをもらいました。
エコロジカルアプローチというのは、運動学習理論です。
この本を読み、私自身の指導観に大きな変化がありました。エコロジカルアプローチというのは運動学習理論ですが、それ以外のことにもたくさん当てはまる部分があると感じました。
エコロジカルアプローチとは?
本書では、日本で中心となっている指導者が選手にコーチングやティーチング中心に指導する方法を「伝統的アプローチ」とし、エコロジカルアプローチと比較しながら以下のように示しています。
これをテニスに当てはめて説明します。テニスで、バックハンドの指導をする際、伝統的アプローチでは、指導者が選手の動作を見て「肩の回転はこう」「ラケットの軌道はこう」等と言語的な指導や指導者によるデモンストレーションによる指導を中心に行います。
それに対してエコロジカルアプローチではこのような言語的な指導ではなく、環境やルール、用具などの制約を操作し、運動学習を引き出します。例えば、コートのセンターラインをずらし、バックハンド側のエリアを広くし、対角線に返したらボーナスポイントを与えます。そうすることで、必然的にバックハンドで打つ機会が増えます。
伝統的アプローチでは、特定のスキルにフォーカスして学習をするため、他のスキルとの使い分けや効果的な場面は学べません。しかし、エコロジカルアプローチでは、試合やスモールゲームの中でそれを学習するため他のスキルとの使い分けや効果的な場面を学習することができます。そして、それを選手が自分自身で試行錯誤しながら身につけていくことができます。
なぜ、エコロジカルアプローチが必要なのか?
現代では、従来のトップダウンが通用しない場面が多くなってきています。
今までの日本は、先生の言う通りに行動したり、上司の言う通りに仕事をしたりと、上の立場の人の言う通りに行動できることが大切でした。力のあるリーダーが未来を指し示し、それにただただ従っていれば良かったのです。また、それが統率された集団を作り上げ、一つの成功スタイルとなっていました。
しかし、現代はインターネットの普及やAIの登場などにより、ものすごいスピードで社会が変化しています。そのような社会では上からの指示を待って行動していたら間に合いません。現場で判断し、試行錯誤を重ねていくことが求められるようになりました。そして、それは自分自身で考え、行動する中で最適解を導き出すことが必要だと言うことです。
これは、まさにエコロジカルアプローチによって養われていく力です。
エコロジカルアプローチでは、制約された環境の中で試行錯誤し、最適解を導き出します。そして、その環境は、制約はあるものの実践に近い場になっています。だからこそ、エコロジカルアプローチを通して身に付けた力は、確実に定着し、他の場面でも活用することができるのです。
昔も今も、指導者は選手一人一人を丁寧に観察し、課題を把握するという部分は変わりません。しかし、そこから指導者は言語やデモンストレーションを中心とした指導ではなく、選手の課題にあった制約を与えることが求められています。指導者が答えを教えるのではなく、選手自身が考え試行錯誤しながら最適解を導き出すことが大切なのです。
まとめ
エコロジカルアプローチは、運動学習理論である為、「指導者」「選手」という言葉を用いましたが、この指導者は、上司、先生、親など様々な言葉に言い換えられます。そして、そこに当てはまる立場の人たち全てに求められる力ではないでしょうか?
また、環境制約により、これだけ選手は大きく成長できるのです。環境の影響力の大きさを実感するとともに、より良い環境を作り出したり、自分で選んだりする力を養っていくことの大切さを感じました。