夜のコザの町について
沖縄市にある、おおまかにコザと呼ばれる地域は 沖縄に住み慣れた人間でも訪れるたびに独特な場所だと感じる。
高校生の頃通ったギター教室があるパークアベニューと呼ばれる通りはなんとも言えない寂れ具合と哀愁が漂い、老舗の時計屋や楽器店、インド人の店、かと思えばオシャレな石けん屋さん(今もあるのかなあ)が雑多に立ち並ぶ。
ギターを担いで歩けばアメリカ人のお兄さんに何か弾いてよ!と声をかけられ、楽器店付近をうろつけば内田裕也みたいなロッカーのおじさんに声をかけられ仲良くなる。
パークアベニューから少し離れたゲート通りはいかにもアンダーグラウンドそうな謎の店が建ち並び、外国人の姿も多い。あとタトゥー屋さんも多い。あと謎の中国の雑貨屋さんみたいのもあった。
昔ゲート通りのライブハウスに行ったことがあるけどお客さんが全員外国人で、バンドはヘドバンしながらデスボイスみたいのを出しててめっちゃ怖かった記憶がある。そんな雑多な町、多国籍な町、ロックの町コザ。
先日イベント帰りに、コザの飲み屋街をうろついていたら、ボーカルのアザッス先輩(仮名) にばったり出くわした。
アザッス先輩(仮名)がいる店のショーがもう直ぐ始まるから遊んで行けという。
その店はコザの酔っ払い達がゾンビのようになってなお最後に流れ着く、カオスなライブハウス。
沖縄というのは他府県に比べると特殊らしいのだがライブを楽しめるショーパブ的な店がいたるところに存在する。
アザッス先輩(仮名)の店は、コザのそういう店の中でも大分遅い時間までやっているので、コザで飲み明かした酔っ払い達が屍のように店内で積み重なっているという噂がミュージシャン達の間でまことしやかに囁かれているのだ。
ちなみに私は行きたいなあと言ったら絶対に1人では行くなと友達に止められた。
幸い先日は連れと一緒だったのでアザッス先輩(仮名)に連れられ店内へ。Japanese member onlyという張り紙がコザっぽい。
今日は全然大人しいほう という店内は大勢のオッサンたちとオッサン1人につき1人ずつピッタリ寄り添った妙齢の飲み屋のネーちゃん達。
アフターかな、コザの繁華街の経済が回っている。
カウンターには数名のオッサン客と、手際よくドリンクを準備する店主らしき女性。
着席して程なくバンドのインストナンバーからステージが始まった。インストナンバーなのでお客さんはバンドに構わずオネーチャンたちとイチャイチャしている、しかし、そもそも時間は深夜3時、かりゆしウェアのオッサン達の元気なこと。普段私は沖縄南部の離れたエリアのショーパブ的な店にいるけど南部のオッさんはもう少し枯れている。
インストナンバーが終わるとアザッス先輩(仮名)が出てきて、一曲目はディープパープルの、ハイウェイスター。
すると数名のオッサン達が立ち上がりステージの前で踊り狂う。
飲み屋のネーちゃんも踊る。
曲が終わると無言で次の曲を始めるバンド、Earth wind& fireやら エルビス・プレスリーなど雑多に。
ステージ前のダンスホールが狭い。最早バンド陣に接触するほどの距離感。
亀井静香似のオッサンが、踊らないの?と私たちに声をかける。だが断る。
飲み屋のネーちゃんが踊ろうよ!私たちを引っ張る。だが断る。
この店でドラムを叩いているKZ夫(仮名)がおもむろに日曜日よりの使者を歌い始める。シャラランラ、シャララランラ、ジジイが踊る。ネーちゃんも踊る。
ステージ前のダンスホールはあっという間にオッサンとジジイと飲み屋のネーちゃんで埋め尽くされてしまった。私たちの席からはKZ夫(仮名)の姿はもう見えない。シャラランラ、シャララランラ、男所帯のバンドメンバーの野太いコーラスが店内に響く。
踊るジジイに寝るジジイ、フリースタイルで楽しむお客さん達と、お客さんの反応を気にせず演奏し続けるバンド陣。この空気感はここにしかない。
店内にはカオスだが居心地のいい、不思議な一体感が流れていた。
時間にして深夜4時、お客さんは帰らない。むしろ今からも来る。
この店の時計には短い針がない。長い針しかない。
〇〇時丁度から始めて、45分にステージを終えるから長い針だけあれば良いらしい。むしろ短い針があると気が滅入るから外したらしい。
明け方まで5回のステージをこなす、店の外で会うより少しやつれて見えるバンドメンバー。
こんな時間まで飲み歩いて、奥さんに怒られないのかしらと心配になるオッサン達。
それぞれのコザの夜は更けていく。狂乱と共に。
私たちは疲れたので帰った。
とにかくコザはジジイが元気な街だ。
昔よりちょっとは綺麗になったけど、ダーティーさが消えない街。この元気なジジイ達がいなくなる頃、この街はどんな姿をしているんだろうと思う。
できたらあんまり姿を変えないでいてほしいな。
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