ある離島に芽生える変化の兆し
毎年この時期になると訪れる離島があります。世界文化遺産「金山」や朱鷺(とき)をよみがえらせたことで有名な佐渡市です。この時期とても美味しい寒鰤(ぶり)を食べるのも楽しみの一つですが、訪問の目的は、佐渡市が移住・定住者を促進するために5年前からおこなっているビジネスコンテストに参加するためです。
5回目となる今回のコンテストでは、地域に残る有形文化財を活用した宿泊事業、佐渡の豊かな自然と風土を活かしたインバウンド推進事業、そして始めてモノづくりの起業が受賞しました。
また、年を重ねる毎に地元に根付く、地元愛あふれる登壇者がふえる中で、今年注目を集めたのは、地元の公立高校に新たにできた「スタートアップ部」のプレゼンでした。私は、以前から高校の中に「起業科」をつくることが日本の未来をひらくきっかけになると思っていましたので、この活動にとても共感しました。実際の取り組みはまだこれからですが、「部」を「株式会社化」することも視野に入れているようで、来年再会するまでにどのように進化するか楽しみです。
1. ある離島に芽生える変化の兆し
コンテストの登壇者の中には、上場を目指すスタートアップもありますが、多くはスモールビジネスの起業家です。しかし、このコンテストに加え様々なチャレンジを5年間続けてきたことによって、毎日ここに暮らす人はあまり気づかないかもしれませんが、たまに来る私から観ると、地域に変化が生まれていることを感じます。
例えば、多様な人が徐々に集まりそこから新たなつながり(刺激)が生まれていること、一言でいえば面白い人が集まってきたこと。豊かな自然を生かした釣りやロードバイク等のイベント、お酒など地元の素材を生かした商品開発、人口が減る小さな集落でも自然や暮らしをいかに維持していくかという視点から生まれる智慧と工夫、観光業などの繁閑期を利用した他地域との協業などはその一例です。
2. 変化の起点になるもの
主に都会に住む親子が長期滞在して、子供が地元の保育園に通いながら親はリモートワークで仕事をするサービス「保育園留学」(運営会社は、株式会社キッチハイクというスタートアップ,本社東京都)を採り入れたことで、保育園の職員や宿泊先の宿を管理する老夫婦にとってのやり甲斐、生き甲斐となり、近々、この制度を利用する外国人親子との交流も始まる予定と伺いました。
このような先行的な取り組みは、昨年11月に施行された、地方への人の流れの創出・拡大を通じて地域の活性化を図るための制度「二地域居住」の効果的な活用にもつながるでしょう。
こうした取組み一つひとつをとると、決して大きな事業ではありません。しかし、続けることによって生まれた最も大きなことは、地元に暮らす人の「意識の変化」にある、と感じます。
「意識の変化」が起点となり、一度芽生えた変化は、自然の生態系のように新たな変化をもたらします。その変化の芽をあちらこちらにふやす土壌は、他者を受け入れる人と人との豊かな関係性ではないでしょうか。かつて日本中から多くの人が集まった天領だったこの地には、そうした風土があるのかもしれません。
3. 地域創生のマインドセット
私は、仕事の中で色々な地域と関わることが少なくありません。その多くは、人口減少、高齢化・少子化といった共通した課題に直面しています。その中でも、活気のある地域には共通する要素があると感じています。それが次の5つです。
一. 本気。中途半端に経済が回っている地域の本気は総じて低い。
二. 起業家・企業家育成、アントレプレナーシップ教育に熱心。
三. 地元の課題を地元で解決しようとしない。越境者を中に巻き込む。
四. 地元だけをよくしようとしない。全国、さらには世界に貢献するという視座を持つ。
五. 楽しく、面白く。
こんな地域がふえると日本は面白くなると感じます。
4. 国の光を観る
自然に恵まれ、食事も美味しく、歴史と文化を感じさせる地域を創生するには、観光を柱にしたインバウンドは欠かせません。観光なくして地域の創生はないといってもいいでしょう。
昨年の訪日外国人観光客数は、3千5百万人を超え過去最高となり、今年はさらにそれを上回る見込みです。日本政府は、2030年には6000万人にふえることを予想しています。そこで問題になるのは、観光の質でしょう。
私が暮らす鎌倉への来訪者も年々ふえて、知名度の高まりを実感します。しかし、スシ詰めの電車やバス、人気寺院の長蛇の列、イモ洗い状態で街中を歩く様子をみると、心境は複雑です。「鎌倉のよさが伝わっている」とは思えないからです。他の人気観光地も、似たような状況ではないでしょうか。
一方で、外国人が長期滞在したり、何度も訪れたりする等、深く印象を残す静かな観光地も日本には数多く存在します。私が知るそうした場所にあるものといえば、四季ごとに移り変わる自然の美、豊かな食文化、もてなしや助け合いの精神、等の普段の暮らしそのものです。
「訪れる外国人は、そうした暮らしを大切にしてきた日本人を尊敬し、日本を好きになる」と、ある宿の主人が教えてくれたことがとても印象深く記憶に残っています。
「いかに海外から観光客を呼込み、いかにお金を落としてもらうか」を目的とした観光ではなく、「日本の本当のよさを、いかに感じて持ち帰ってもらうか」という視座の上にたった観光の在り方を考えることが大切だと感じます。
「観光」という言葉は、易経の「国の光(よいところ)を観る」に由来するといわれています。日本人が、大切に育み、後世に残したいと思う「国の光」とは何か。日本人自身へのその問いの中にこそ、付加価値の高い日本ならではの観光立国への道がひらける、と感じています。
来年のこの時期、この島がどのように進化しているか、楽しみです。
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