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「削げ from "Yellow Geranium"」の話

はじめに

 これはFRENZ2023 一日目夜の部で上映された「削げ from “Yellow Geranium”」に関する散文です。まずはこちらの映像をご覧ください。
 



いきさつ

 始まりは23年5月、Eden Schemataの作業をしつつなんとか例大祭の新刊が上がり、某ゲーム向けに某餮尤魔の立ち絵を描き始めていたころ。東方Projectオンリーイベント「博麗神社例大祭」にて手に入れたねんがんの石鹸屋オリジナルアルバム新作「Yellow Geranium」。
 東方アレンジアルバムの時とやることは同じで、まず聴くのは通退勤路の運転中。(もちろん初めからMV作るぜという動機で聴いているのではないのですが)1か月くらい聴いていると断片的に映像が浮かんできてしまい、あーこの脳内コンテ誰か映像化してくれないかなーと考えだす。ちなみに今回映像化するのに迷ったのはあと「愉快たれ命」と「ずっとズレている」でした。

 幸いにも、ここ1-2年はEden Schemataの他にもぼつぼつアニメーションやイラストのお仕事を頂けるようになってきたため、その分「FRENZ果たして今年は出られるのか?」という悩みが首をもたげてくる。2022年もギリギリまで悩みつつ、進行中の合作企画「WORLD」向けの映像を一本の作品として成り立つようにまとめて提出した。
 さて今年。確か6月の途中で脳内コンテはだいたいフル尺で上がっており(そういうのを上がっているとは言わない)、「削げ」の曲名に相応しく最低限のタッチと演出でまとめるこの方向なら今から動いて行けるかもしれねえ……!等と現金なことを思いつつも、某餮尤魔の立ち絵作業と入れ違うように「SUKEBAN」トレーラームービー向けの動画作業が入り、終わるころにはすでに7月下旬。動き出したら逃げられないな~と思いつつ、描き始めて「これは何とかまとまりそうだ」と判断できた段階・8/8で出展応募。お盆の進捗でフル尺を諦めつつ、8/23あたりで作画素材があらかたまとまったことで勝利が確定(撮影作業以降は無理にでも終わらせるので)、8/31に制作有給を取りつつ無事上映と相成った。

 進捗段階としては以下の通り。
 ・1次提出時点でAメロとサビ直前分
 ・2時提出時点で1次分+サビ部分
 ・最終提出で完成版(それはそう)
 ・修正期間でポスプロもうちょっとがんばった

動画の話

ストーリーと演出の話 

 無駄を積み重ねてしまったと気づく後悔→それを削ぎ落すあがき・もがきと上手くいかない焦燥→それでも終いにはすべてを投げ捨てて純に至る、という、テンションとしてはシンプルにマイナスから登っていく構図のストーリー。一方で音楽としては今回アルバムの中でも特に昔からの石鹸屋っぽさを色濃く残す泥臭熱い楽曲で、最初のサビパートからあまり曲に引っ張られ過ぎて後々登る余地がなくならないよう、主人公のテンションコントロールにやや苦労する。

 「削ぎ」の表現について、服を脱ぎ捨てて皮→肉→骨になっていくという流れは割と最初から考えていた気がする。「剥き出しの音って何だろう?」と考えた時に、楽器を捨てて音楽も捨てて最後に残る音を発するものは自分の喉になるんじゃないか、そういや喉仏って火葬した後に最後に残るよな(調べてみると実は喉仏そのものではないらしいが)、等とイメージを膨らませて、一度は喉をぶっこ抜くとまんま仏様が現れるような演出を考えたりもしていた。最終的に直球の宗教的イメージを唐突にぶち込むのもまとまりが悪いように思い、代わりにアルバムのタイトルになっている黄色いゼラニウムを求める純の象徴として借りてくることにした。アイテムが決まったことでイントロ演出も形になり、どうにか作品として一本軸の通ったものになった。

 石鹸屋MVを作るものとして避けて通れないのは間奏の調理方法(といっても他にもう1人くらいしか共感してくれそうな人を知らない)。今回は楽器を捨てて自分の体を楽器にしてしまうイメージで描いたがとにかく尺が埋まらない。「主人公、もう少し頑張って演技続けてくれ……七転八倒してくれ……」と祈りつつ作画してた。ダンス的パフォーマンスの動画もいずれもう少し力入れて取り組んでみたいところ。

手段の話

 タイトルに相応しく、モノクロっぽい画作りと粗いタッチでまとめるというのは最初からイメージしていた。初めから彩色を捨てていたので今回はあまりセルアニメらしくない筆ペンルックの作画を試してみたが、このラフな感じを作品として成立させるには絵の基礎カラテが全然足りていないと思い知る。それはそれとして動き出したら後には引けないので、荒い勢い重点で押し切ることにした。

 リリックビデオ的演出も今回初めて取り組んだ。といっても手数は全然ないので、歌のテンションにそのまま乗っかる感じでただリズムだけを合わせる程度。太い明朝体でドーン!はセンスが10年前で止まってしまってる感じもしたので、まだまだ修行がいりそう。しかし、リズムに乗って文字が出る・何より作画しないで画面が埋まることに対する気持ちよさ(結局描いてるけど)は初めての味わいだったので、また機会を見つけてやってみたい。細かいところでは、「歪みを」を4分割してハメるのに「不正みを」という割り方を思いついたのは自分で自分を褒めてやりたい。1夜終了後やんわりさんにご指摘頂けて心の中でガッツポーズ。

 ポスプロ作業についてはだいぶやれることの幅が広がってきたように感じる。去年の「WORLD」が作画素材が本当に最低限だったので少しでも情報量を増やすために色々調整レイヤーで試行錯誤したが、その経験が活きたかもしれない。イラストも割と後から効果上乗せ上乗せで作っており、考え方は同じように思った。

キャラクターの話

こんなやつ。

 全体の空気感に合わせて、あまり凝ったデザインにはしない・くたびれた感じにする、といったイメージは最初からあった。最初はFRENZオープニングの時みたく性別不詳な感じで行こう(脱がせるくだりもホントに誤魔化していく方向で考えてた)としたが、喉仏が作品を〆るキーになった時点で今回は明確に男として定める。

 イメージの元はシン・仮面ライダーの時の森山未來のような感じだったが、描き始めたら手癖のせいかFateのランスロット(Zeroの時の)とかジル・ド・レェあたりのニュアンスが入り込んでしまった。オリキャラ、めっきり表に出す機会が減ったが中々好評をいただけてありがたい限り。

元ネタの話

・サビのヘドバン風の動きはライブに行って見た生のパフォーマンスをそのまま取り入れた。元々考えていたのは、まだ初弾の常識的な肉体の削ぎ方というイメージで、某KICKBACKっぽく筋トレしまくる演出だった気がする。

・サビ前の挿入イメージ、必要なもの/大事だと思っていたものが間違いだった/無駄だったとわかることのイメージを「耳をすませば」の宝石が鳥の死骸になるところとアニメ版「ハーメルンのバイオリン弾き」のパンドラの箱の中身に借りる。今川アニメ(ハーメルンは監督ではなかった気がするが)は、積み重ねが無に帰すイメージの代表として映像考えている間常に頭にあった。
 あそこのリズムがカッコ良すぎて、何ならここを描くためにこの映像作ったまである。

・音合わせの手描きエフェクト。いつかやろうやろうと思っていたが、「アクロス・ザ・スパイダーバース」の冒頭がカッコよかったのでやった。作ってみるといろんなところに賑やかしで置いていけるので助かった。再利用できるかな……。

・主人公の感情の爆発は、ちょっと前にアニメ映画も見た漫画「音楽」のラストのようなシーンを描きたいなあと思いながら描いた。なので涙を流している。

制作を終えて

 全くオリジナルのMVというのは実は今までやったことがなく、そういう意味では珍しく自分の生(き)がちょっと表に出めの作品になったし、これまでの自作で一番石鹸屋サウンドに直で寄り添った作品になった気がする。「ヒルクライム」をアニメ化するまでは死ねないと常々(?)言っているけど、他にも描きたい曲が多すぎて困っている。助けてくれ。

おわり

 今回のFRENZ上映では本当にありがたくも、1日目大トリのポジションをいただけました。あの場で・またはその後にコメントいただいた皆様ありがとうございます。

 ついにOPとトリを担当して人生の目標が一つ達せられた気持ちな一方、終わってみるとまだまだ満足できていない自分がいてしまっていた。まさに隴を得て蜀を望む心境というか、また次の映像作るチャンスがほしい。自分、オリジナルも東方もやれます。やらせてください。(それはそれとして時間の捻出どうしようかなの悩みは深まる一方……)

 次回、「愉快たれ命」でまた会おう!信じてはいけない。

こんな感じの小鬼みてーな奴が地獄のような場所を練り歩くアニメとか考えてた。信じてはいけない。

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