【みたもの記録】『上を向いて逃げよう』
9/20、日暮里のD倉庫にて、踊る熊谷拓明カンパニー『上を向いて逃げよう』をみてきました。もう1週間たつのか…。
どうしても見たくて、でも週末はリハがあるかもしれないしどうしようでも見たい、を3回ほど脳内で検討した結果、午後半休をとり開場時間の5分前にD倉庫に着いてしまうという、わたしにしては珍しいまでの気合の入れっぷり。あの時の謎の緊張はなんだったんだ。
ダンスというより表現で、感動というよりヒリヒリした作品だったのだけど、出演者が全員素敵すぎて。舞台上に4人しかいないのに尚子さんの元彼や、茶飯事さんをいじめた(笑 人や、優さんにもどかしい思いをさせている人が見えた…。表現するってすごいなと思った1時間半だった。
Twitterでは心にダメージを負ったことだけつぶやかれていた。笑
↓以下、帰り道に書いたらそこそこな量になったiPhoneのメモ。
(編集しようと思ったのだけど、当時の熱量をそのまま残したほうがいいと思ったので誤字と言い回しだけ少し直した)
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舞台にいるのは4人。松田尚子さん、岡本優さん、原田茶飯事さん、熊谷拓明さん。誰もはけないし舞台セットの転換も何もないんだけど、あの空間がバーにも夜道にもライブハウスにもひとりきりの部屋にもなっていてすごい。4人のスキルはもちろん、個人個人からにじみでる人生というか情報量というか、想像の余白度がすごくてひとりずつまとめておきたい。
◆松田尚子さん
以前から踊りが好きすぎるのだけど、今回の舞台上で酔っぱらった尚子さんはとてもとても女の子でかわいくて、かわいすぎてびっくりする。あの酔っぱらいぐあい、わたしが男子だったら一発KO。
と思うものの、ところどころでちょっとイライラする…!「いい歳して」と言うひともいるであろう、ああいう言動は危なっかしいし、「ああもうー!」ってなるからかと思ったけど、ちょっとイラっとするのはふわふわの、何も考えてないように見える具合が、自分と似てるからなのかもしれない…。
尚子さんの傷はなんなのだろうと思っていたけど、ラストシーンでの「その根底にあるのは“おかあさん”なの…!?」と思ったときの「うわああああやめてええええ」感、誰かわかっていただけるだろうか。わたしはあの尚子さんの叫びシーンで鳥肌がたってしまい「あああかえりたいいいい」ってなったんだけど…。
作品中で独身て言ってたし子供もいなさそうだし、30代後半(と思われる)のこういう女の人と母親との関係って「うわああああ」ってなることありませんか、わたしはあります。わたしと裕子さんの関係も決して良くはなかったからか、母娘ものに敏感なんだよな…。
もはやこれは母娘の呪いではと思うのだけど、尚子さんにもおかあさんのある種呪いがかかっているような気がする。きっと子供のころは真面目な優等生だったんだろうし、20代後半くらいで結婚して子供産んでって漠然と思ってるような娘だったのではないか。そういう漠然と「お母さんの期待にこたえたい」という気持ちと「自分はそれにこたえられてない」という気持ちみたいなものにぐるぐる巻きにされている気がする…。
そう思ったら前半の酔っぱらいのくだりが「ああもう‥!」ってなって思い出し泣きしそう。そりゃーヘロヘロになるまで飲んじゃうよね。茶飯事さんみたいな人に惚れちゃうよね。わかる。でも茶飯事さんはやめておけと言いたい。
◆岡本優さん
優さんは前半カウンターの下にいるシーンが多い。たいていカウンターの柱を触っていたり、体育ずわりをしていたりしてセリフも少ないのだけど、熊谷さんとのコンタクトで一気に身体がしゃべりだすのがすごい。熊谷さんに「なんなんだよ」って言われても声は出さないんだけど、その分踊りや空気が言葉にならないもどかしさやイライラやいろんな感情を伝えてくれて。
ていうか踊りがすごい。これまで踊ってるところをちゃんと見たことなかったのだけど、踊りがすごい。(2回目)
優さんは物理的にも精神的にも「ひとり」のシーンが多かったけど、その分切実でヒリヒリしていてすごく魅力的だった。ちょっと壁をつくってるのが精いっぱい、みたいな女の子ってかわいいよね…。
どんな人なんだろうってのがいちばん見えづらい人で、あのお店にいるときと外では全然別の顔をしているような気がする、なんとなく…。
あとあの歌!「え、うたうの…?」からの「ダンスだけじゃなくて歌も激うまやないかーい!」って気持ち、D倉庫の全員が体感したと思っている笑 美人でスタイルよくてダンス上手で歌もうまいだなんて天は二物どころではなかった…与え放題だな天よ…。
でもひととおりうたった後の「歌うまいとか思ってませんから」って言い訳みたいに言ったセリフがなんかグッときてしまって…。うまく言えないのだけど周りにそうやって言っておかないとやれないことってたまにあるよね…。ネガティブな反応への予防線をはってしまいがちな繊細な優さんが、そんなもの忘れちゃうくらい衝動で動いてしまうときが来たらいいなと思った。
◆原田茶飯事さん
そもそもの見た目と声が好きなのだけど、この人がすごいのは、あんな優しい声音のくせに目が笑っていないところ。(どうしようご本人が笑っているつもりだったら)
ふんわり関西弁で「ええやん」と言うときも「居場所を提供してるだけ」と言う時も語り口はやらかいのに笑ってない…!
だから尚子さんも優さんも受け入れられたような気持ちになるけど絶対満足できないと思うし、だからこそ尚子さんはそのまま4年も経っちゃったんだと思う。しかし、そういう存在にすがりたくなる気持ち、わかる…!わたしも関西弁のああいう人を好きになったけど何考えてるのか全然わかんなくて全然満たされなかったことがある…!笑
バンドを解散したくだりの一人語りで茶飯事さんの傷口が見えて、それが思ったより生々しくて泣いた。まわりも茶飯事さんの空気に任せて結構キツいことを言ったりしてて、それを全部あの関西弁でへらっと笑って流してきたんだなあって。あいつはいいよなって言われてると思うけど、ポジティブに見られるのも、そういう自分でい続けなきゃいけないのも楽じゃないよね。
◆熊谷拓明さん
熊谷さんは3人の触媒みたいな感じで、個人として主張がものすごいわけじゃないんだけど、熊谷さんに触れると他の3人の身体が語りだすのがおもしろかった…!
個人的には熊谷さんが踊るシーンをもっと見たかったけど、熊谷さんがあの立ち位置だからこそ成り立った作品のような気もする。
舞台を見ていると本編と関係ない妄想が始まることが多々あるので、想像の余白をくれる作品が好きなのですが、この作品もわたしの妄想が存分に広がる素敵な作品でした。作品自体や踊りも素敵だったのだけど、思い返すとあのバーカウンターのおかげな気がする。建築物みたいな構造のバーカウンターはだいぶ大きくて舞台のほぼ横幅いっぱいにあって。
カウンターにのる、すべる、もぐる、くぐり抜ける…動作のひとつひとつが踊りにもなるし、カウンターの下も空間のひとつとして使えるし、横幅が長いから端と端でまた違う空間にもみえて、それぞれの人物の孤独さがにじみ出たりするしでとても良かった。
総評:ダンサーってすごい。
ネタバレが嫌で今回事前情報ゼロで行ったのだけど、熊谷さんのこのインタビューがすごく素敵で、帰り道に見つけてうれしくなった。
ちなみに、母娘含めた「女って…!」の話はよしながふみさんの「愛すべき娘たち」というマンガがおすすめです。
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