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【ストゥディア『民法3 担保物権』刊行記念】山本敬三先生に聞く(その①)

2021年11月、ストゥディアシリーズ・民法の3冊目となる『民法3 担保物権』が刊行となりました。それを記念し、また、ストゥディアシリーズ・民法をより広く知っていただくために、監修の山本敬三先生へのインタビューを企画しました。全国の山本敬三先生ファンのみなさま、必見です!

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パンダ上

2021年の11月に、有斐閣ストゥディア『民法3 担保物権』が刊行されました。ありがたいことに、各方面から、「わかりやすい」とか「ちょっと独特の雰囲気」とか、様々な反響をいただいたのですが、内容に関するもののほかに、「監修のお立場にある山本先生が気になる!」というコメントを結構いただきました。

そこで、ようやく3巻が刊行された勢いとノリで、読者の方も気になるかもしれない、私たちも気になっていることを、山本先生に聞いてしまおうというインタビューを企画しました。

まずは、ストゥディア民法の歴史を振り返りながら、山本先生のお考えなどをうかがってみたいと思います。


企画の経緯・きっかけ

パンダ上

ストゥディア民法の執筆依頼をいただいた当初は、図表が豊富で初学者にも分かりやすいテキストを……といったご依頼だったように思います。

出来上がったストゥディア民法には、「広大な民法の海を渡りきる、一番確かな海図」というキャッチコピーが付いています。でも、山本先生のご著書『民法講義』は、体系性とわかりやすさという点から見て、民法の海を渡りきるための詳細な海図という印象を持っておりまして、民法の教科書の1つの完成形のように感じておりました。京都大学の学生さんを対象として教育を行うのであれば、『民法講義』がよいのでは……と思ってしまうのですが、新しくヨリ簡単な教科書のシリーズが必要であるとお感じになったのは、どうしてなのでしょうか

きっかけとなった具体的なエピソードなどおありでしたら、それも教えていただきたいです。

オオカミ上

ストゥディアに関しては、私もたくさんの方からご感想などをいただいていて、大変好評だと感じています。昨年度、法科大学院の未修者に向けた授業で、1巻(総則)を指定したのですが、学生さんにも、「これならわかる」と好評でした。目標の1つを達成できてよかったなと思っています。多くの期待を寄せられているので、なんとか全巻刊行を実現したいと思っているということは、先にお話ししておきたいと思います。

その上で、ご質問についてですが、実は、2011年に、有斐閣の編集者の方たちを相手に、「新しい法学テキストの可能性」というセミナーを開催したことがあるのです。そこでは、「法学テキストのイノベーションの可能性」ということをテーマの1つとして議論しました。初学者がありがたいと思う教科書はどのようなものか、それは従来の教科書と比べてどこが違うのかなど、たくさん意見交換をしたのですが、1つ思ったのは、短時間で全体を概観できる、大枠を理解できるものである必要があるだろうなということです。また、トピックを取っかかりとするよりは、基本的な事項を丁寧に扱うほうがいいのかなということもありました。さらに、より重要なキーワードとなりますが、「行間を埋める」必要があるのではないか。簡潔に要領よく要点がまとめられていても、それらをつなぐ接続詞が入っていないと、その要点の相互関係がわからないですよね。また、より根本的な問題は、ある事柄を理解するために必要となる知識が暗黙の前提とされてしまっていて、そこが明らかでないために読み進めることができないのではないか。これは非常に重要な示唆でした。

その後、では、そういった新しい法学テキストのイノベーションをどう具体化していくかということについて、編集部と話を続けてきて、だんだんと枠組みは見えてきたのですが、問題は書き手でした(笑)。私は、『民法講義』の全巻完結を目指していながらなかなか進まないという中で、自分が書くといってもうまくいかないだろうなと。「行間を埋める」というのは、言うは易く行うは難しで、自分自身も当然の前提にしているかもしれない事柄を言葉にしていくのは、相当能力の高い人でないと実現できないと思いました。執筆の負担等も考えまして、若手で高い実力をお持ちの方に、各巻数名程度お声がけして作ることにしましたが、このコンセプトについてはなかなか理解されない可能性があるので、私が全巻に顔を出して、全体の統一とコンセプトの実現を図るようにしました。

パンダ上

ありがとうございます。そんなセミナーが行われていたとは!

たしかに、短くしようとすると結局項目だけのようになってしまうのですが、「行間を埋める」というのは新しいと思いました。でも、書くときはしんどかったです。


監修のお立場について

パンダ上

次に、ストゥディア民法では、各章を分担執筆しているのですが、各執筆者が書きっぱなしにするのではなく、何度も会議を開き議論した上で、本が出来上がっています。各巻、十数回にわたる会議を行ってきました。山本先生はそこに毎回ご出席下さり、また、会合に先立って提出した原稿に詳細なコメントを付けてくださいました。大学教員として就職してしまうと、このようなご指導をいただく機会も少なくなるので、私にとっては、ちょっと信じられないくらい贅沢な時間でした。

他方、本シリーズの作業中には、山本先生は、ご自身のご研究に加えて、法制審議会民法(債権関係)部会の膨大な回数の会議に出席されたり、コロナ禍の中、京都大学法学部長の重責を担われたりと、目が回るほどお忙しかったのでは……と拝察するのですが、どんなタイミングで原稿チェックの時間を捻出されていたのか、とか、分身の術があるのではないか、とか、途中で嫌になってしまわなかったのか、とかについて、おうかがいしてみたいです。

また、時には、自分で書いてしまった方が早い……とお感じになったこともあったのではないかと思うのですが、著者と監修者とでは、ご苦労の性質にどのような違いがありましたか?

オオカミ上

監修者が入っているのは、ストゥディアの中でも民法だけでしょうから、不思議に思っている方は多いのではないかなと思います。「監修」の一般的意味は、2つあると思うのですね。一つは、「名前だけ貸していて、実はなにもしていない」というもの(笑)。もう一つは、「書かれていることが内容的に適切であるか、上から目線でチェックして指導している」というものです。

私はどちらであったかというと、どちらでもないと思います。名前を貸しているだけではなく、実際にかなり汗をかいています。「上から目線」という風に受け止められるおそれはあると思うのですが、私の主観は全く違うのですよね。監修者として私がやっていたのは、この本の読者、つまり法学の本当の初学者に私自身がなりきって、その視点で、書かれていることが理解できるかどうかをチェックするということでした。年の功もあり、先生方に対して、編集側からはなかなか言いづらいことも、私なら言いやすいということもありました。内容や見解の良し悪しではなくて、この本が目指している、初学者にもよく理解できて読み進められるような本にするということを実現するためのチェックをしていました。

私は、もう20年以上、大学のゼミ生の報告レジュメを事前にチェックしているんです。日常的に添削をしているので、わりと短時間でできてしまうこともあり、そういうノリでずっとやってしまいました。著者のみなさんはもう偉い先生方なので、学生と同じようにするというのは失礼だったかもしれないのですが、主観的には私は読者代表なので許してねと(笑)。みなさん本当に、大人の対応でぐっとこらえて聞いていただいたのは、とてもありがたかったです。

他の仕事との折り合いというのは、たしかにこの間は忙しかったですね。法制審の債権法関係部会やその他の会合があって、東京に行かなければならないことも結構多かったです。でも、一番大変だったのは、債権法改正検討委員会という学者グループで改正の基本方針のとりまとめをしていた2009年頃だったので、それに比べれば耐えられるよっていう……最後の頃は3か月で40日も東京にいましたからね……(笑)。最近はテレワークになって、本当にいい時代になったなと思います。2021年の3月いっぱいまでは学部長・研究科長もやっていて、それも忙しかったのですけれども、ゼミのレジュメのチェックはずっと続けていました。なんでかと言うと、性格なんですね……。いったん「やる」と決めたら途中でやめるのイヤという性格で、聞こえは立派かもしれないですけど、ものすごくしんどい性格です。

ただ、ゼミ生の指導は楽しくて、成長を見るのは嬉しいんですよね。ストゥディアの監修も全く同じで、完遂したいという気持ちが大きいです。そして、ストゥディアの検討会は、純粋に楽しいんですよね。私に比べればお若い、確固たる実力をお持ちの方々と、民法の全部、隅々まで、行間までも議論ができるというのは、面白いし、楽しいし、素晴らしいことで、それがあるからやっているのかなという感じがします。

パンダ上

ありがとうございました。研究者としての情熱と、教育者としての情熱がすごくおありで、それが、新しい教科書を作ろうというモチベーションにつながっているのだなと思って、感動しました。


各巻のキャラについて

パンダ上

今度は各巻の話に入っていこうと思います。

ストゥディア民法は、2018年12月に4巻の債権総論が先陣を切って刊行となり、続いて2021年3月に1巻の総則が、11月に3巻の担保物権が刊行されました。これからも、続々と刊行が予定されています。本シリーズは、山本先生の丁寧なご指導によって、基本的には共通のコンセプト・スタイルで執筆されています。です・ます調で難しい言葉を使わないで書くとか、当たり前に思われることもきちんと説明するとか、そういったスタイルです。

でも、そうはいっても、執筆陣がバラバラですので、各巻によって、文章や会議の雰囲気に個性が出ているかもしれません。

山本先生の目からご覧になって、各巻の特色やキャラがあるようでしたら、教えていただきたいです。きっとほかの巻の先生も知りたいと思います(笑)。

オオカミ上

難しい質問ですね(笑)。でも、各巻でキャラクターが違うというのは、おっしゃるとおりだと思います。

順番に申し上げますと、1巻・総則は、香川崇さん・竹中悟人さん・山城一真さんで、「爽やかスマート系」ですね。みなさん、好青年でジェントルマンで、すごく気持ちよく一緒にお仕事ができました。好青年というのはこういう方たちなんだという集まりでした。

2巻・物権は、石綿はる美さん・白石大さん・水津太郎さんで、途中までは藤澤さんと鳥山さんも一緒だったのでイメージがわくかもしれませんが、「子どもと保護者」みたいな感じですね(笑)。水津さんと私が子どもで、議論が始まると楽しくて楽しくて、熱中して突っ走ってしまうんですよね。それを石綿さんと白石さんが、保護者のように温かく見守ってくださって、やんわりとサポートしてくださる。保護者は大変だろうと思いますが、子どもは楽しく遊ばせていただいています(笑)。

3巻・担保物権は、鳥山さん・藤澤さんで、「ほんわか和み系」ですね。ほわっとした温かい雰囲気がずっとあって、お二人はちっとも和んでなかったかもしれないですけど(笑)、私はずっと和やかないい雰囲気だなと思って仕事をさせていただきました。

4巻・債権総論は、栗田昌裕さん・坂口甲さん・下村信江さん・吉永一行さんで、一言で言いますと「関西お笑い系」ですね(笑)。栗田さんはツッコミが厳しく、坂口さんが徹底してボケて、下村さんはひたすらボヤき続け、真面目な吉永さんが翻弄されるという…(笑)。当時は吉永さんもまだ京都におられたので、完全に関西でやっていて、楽しかったですね。

5巻・契約は、大澤彩さん・三枝健治さん・田中洋さんで、このお三方は同意してくださらないかもしれないのですが、私からすると、「マイウェイ系」かなという感じがします。それぞれブレずに我が道を行くというか。そういう3人が集まって一緒に仕事をしていて、それぞれの個性がはっきり出ていて面白いし、楽しいですね。

6巻・事務管理・不当利得・不法行為は、中原太郎さん・根本尚徳さん・山本周平さんで、「個性派コラボ系」ですね。それぞれ強い個性をもっていて、その個性がコラボしています。これがまとまれば素晴らしい本になるのではないかと思っています。

7巻・家族は、金子敬明さん・幡野弘樹さん・羽生香織さんで、「アットホーム系」です。家族的な温かさがあって、すごく安心感があります。お三方それぞれタイプは違うのですけど、温かさは共通していて、とても気持ちよくお仕事できています。

ネコ上

執筆陣の個性と本の個性って関係しているのですかね?

オオカミ上

あ~、たしかにそうですね。債権総論は直結している気がしますね(笑)。コラムが秀逸ですよね。

パンダ上

総則には画伯がいますしね。

オオカミ上

担保物権もお二人の性格が出ていると思いますけどね。担保は人を寄せ付けない分野だと思うのですが、寄せ付けているというのは、お二人の人柄のなせる業かなと思いますね。

パンダ上

この流れで、物権・担保物権問題に突っ込んでもいいでしょうか(笑)。

パンダ下

(その②へ続く)


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