
【声劇台本】ずっと、繋いでいて【女:2】【上演時間:約25分】
〈作者〉
・夕緋 夕緋の小説部屋 (@yuhi_333_novel) / X (twitter.com)
・澄田ゆきこ 澄田ゆきこ (@chiisaiyukiko) / X (twitter.com)
※上演の際は作者までお声がけください。
<登場人物>
・結奈(ゆな) 女
高2。文芸部。気遣い屋で自信がなく、成績優秀だがそれを長所だとは思えていない。引っ込み思案で自分の感情を表に出すのが苦手。
・遥(はるか) 女
高2。結奈と同じクラス。テニス部。要領が良くて友達が多い。喜怒哀楽が分かりやすいタイプ。
<あらすじ>
中学生の頃から仲良しの結奈と遥。ある時、結奈は遥に対する自分の気持ちが友情に留まらないものだと気づいてしまった──。
<本文>
遥:あ、結奈~!(遠くから)
結奈:遥。
遥:お疲れ様! 文芸部今終わったの?
結奈:うん、そんなとこ。テニス部も今終わったところ?
遥:ミーティング長引いちゃってさぁ。でもそれで結奈と一緒に帰れるんだからラッキーだね!
結奈:高2になってからなかなか時間合わなかったもんね。
遥:ほんとだよ~! あ、荷物チャリに乗せよっか?
結奈:遥の腕疲れちゃうでしょ? 私はいいよ。
遥:遠慮しなくて良いのに~。テニスで鍛えてるから二人分くらい余裕よ?
結奈:そのテニスで疲れてるんじゃないの?
遥:ん~、そうかなぁ? 試しに乗せてみれば分かるかもよ?
結奈:どれだけ私の荷物持ちたいの?
遥:だって結奈だって疲れてるし、私より体力ないでしょ? お言葉に甘えなさいな。
結奈:じゃあ……甘える。
遥:素直でよろしい!
あ、ていうか明日って英語の小テストじゃなかったっけ? あれ? 日本史も?
結奈:どっちも正解。ちなみに明後日は数学ね。
遥:ひぇ~! うちの学校ってほんとテスト多いよね! わけわかんなくなっちゃうよ~
結奈:ちゃんと勉強してる? って言っても遥はちゃんと点数取ってくるもんね。
遥:それ結奈が言う? いっつもクラス一位とか取ってるじゃん。
結奈:私は遥みたいに授業中に寝てないからだよ。
遥:小林先生の授業の時に寝ない結奈の方がおかしいよ!
結奈:まあ確かにほとんどの人寝てるか内職してるけど……。でも先生だって真面目にやってるんだし。
遥:結奈は良い子だなぁ。よしよし。
結奈:ちょっ恥ずかしいからやめて……。(照れながら)
遥:あはは、可愛いなぁ。よしよし
結奈:や、ほんと、やめてって
遥:顔真っ赤だよ? 大丈夫?
結奈:誰のせいだと思ってるの
遥:あぁ怒らないで! そうだ、ミスターパインアップルの新曲! 聞いた?
結奈:え、新曲出たの?
遥:そうそう! なんか恋愛映画の主題歌なんだって。映画のタイトルは……長くて忘れちゃったけど。まだ聞いてないなら一緒に聞こうよ!
結奈:一緒にってどうやって?
遥:イヤホン分けっこすればいいじゃん
結奈:……学校にイヤホン持ってきて良かったっけ?
遥:え、ダメだけど。そんなの今更でしょ! はい、こっち付けて。
結奈:仕方ないなぁ。
(2人、音楽を聞く)
結奈:良い曲だね。
遥:でしょ! メロディーもキャッチ―で覚えやすいし、歌詞のエモさが半端じゃないんだよね! それにリズム隊はめちゃくちゃカッコよくてさ……もう好き!!! って感じ!(早口で)
結奈:ライブ映えしそうな曲だよね
遥:そう! ライブの生音も聴きたいし、そもそもめっちゃ良い音響で聴きたいの! っていうことで映画館行かない?
結奈:え? 主題歌を聴きに映画館行くの?
遥:うん!
結奈:映画の内容はどんな感じなの?
遥:知らない! けどミスターパインアップルの曲が良いからきっと良い映画だよ!
結奈:遥、そう言って何回か映画見に行って微妙な顔してたじゃん。
遥:それはそれ。これはこれ。そもそも私の目的は主題歌を聞くことだから内容はどっちでもいいの。
結奈:正直だなぁ。まあ、いいよ。一緒に行こう。
遥:やったー! じゃあいつにする? 私は土曜日空いてるんだけど、結奈は?
結奈:私も空いてる。何時集合にする?
遥:その辺は後でチケット取って連絡するよ。あ、じゃあ私こっちだから。
結奈:ん、じゃあね
遥:ばいばーい! ……じゃなかった、カバン!
結奈:あっ忘れてた! ごめんごめん
遥:課題出来なくなるところだったね。
結奈:課題どころかスマホも全部持ってかれちゃうところだった。
(2人で笑いあう)
遥:じゃあ今度こそバイバイ!
結奈:またね
(遥を見送る)
結奈:(独り言で)土曜日か…ふふっ
〇 〇 〇
遥:っはー! やっと終わった! ミスターパインアップルの主題歌聞くまで何分待った!?
結奈:映画館は映画を楽しむところだからね? 目的間違えてるのこっちの方だから。
遥:それにしたって本編めっちゃ長かったじゃん! タイトルもめっちゃ長いし! あの……なんだっけ。星にどうちゃらとかアザレアが何とかって…
結奈:「通り抜けたあの星に手が届くまで、アザレアのような君に僕は一生の愛を捧げる」ね
遥:そうそうそれそれ! よく覚えられるね。私なんてもう内容も忘れかけてるのに……
結奈:そんなこと言ってるけど、2人が初めて手を繋ぐシーンとかスクリーンに釘付けだったじゃん
遥:え? そうだったっけ
結奈:案外夢中になりすぎて覚えてないんじゃないの?
遥:うーん、そうかなぁ。あ、最後に主題歌聞いた時に記憶全部吹っ飛んだかも
結奈:映画作った人たちが泣いちゃうよ……。
遥:あはは、まあまあまあ。あ、結奈は? 映画どうだった?
結奈:……(間を置いて)まあ、普通だったかな。
結奈(N):本当は、全然普通なんかじゃなかった。
遥:そっか~。まあタイトルの割に内容薄かったもんね
結奈(N):動揺しっぱなしで、それを悟られないように表情を作るので精いっぱいだった。
遥:……結奈?
結奈:ん? なに?
遥:いや、なんか変に間があったから。映画長くて疲れちゃった?
結奈:あー……そうかも。ちょっとカフェとか入らない?
結奈(N):こんな気持ち、遥には話せない。だから、絶対隠し通す。
遥:おっけー! 確か駅前に良い感じのカフェあったし、そこ行ってみよ!
結奈:うん
結奈(N):今、こうして一緒にいられる時間を壊さないために。
〇 〇 〇
結奈(N):前々から、予感はしてた。何度も何度も見ないフリをして、そんなことあるわけないじゃんって突き放していた。でもそれが今日、確信に変わってしまった。
私は、遥が好き。
心の中がぐちゃぐちゃになった。あの恋愛映画の主人公たちがしていたことを、遥としたいと思ってしまう自分が信じられなくて、だけど、どうしようもなく夢が咲いた。
でも、もしも遥にバレたら? 遥がこんな私と一緒にはいられないと言ったら? ……この夢が叶う可能性は低い。そんなことは分かってる。
だから、私は遥と友達でいる。できるだけ、普通に。今まで通りに。そう決めた。
結奈(N):次の月曜日。私は平静を装って学校に行った。覚悟を決めて教室に入ろうとしたとき、遥と、遥と同じテニス部の女の子たちの話す声が聞こえた。いわゆる「一軍」の、眩しい女の子たちだ。
盗み聞きをしようと思ったわけじゃない。けれど、「遥って友達多いよね~」「ってか誰とでも仲いいって感じ?」という台詞を聞いて、思わず足がすくんでしまった。
「なんで遥みたいな子が、結奈ちゃんなんかと仲良いの?」
私にはそう聞こえた。確かに遥には友達が多いけれど、その中で釣り合っていないのは、私だけだから。私と一緒にいたら、遥はあんな風に皮肉を言われてしまう。……遥が傷つかないためにも、私の気持ちを知られないためにも、遥にはもう、必要以上に近づかない方が良い。
遥:あっ結奈! おはよー
結奈:……おはよ(そっけなく)
遥:結奈……? どうしたの。元気ないけど
結奈:ううん、なんでもない。
遥(N):結奈の様子がおかしい。やけに返事がそっけないし、移動教室の時も一人で先に行ってしまった。明らかにいつもと違うから「大丈夫?」と聞いてみても
結奈:大丈夫だから気にしないで
遥(N):そう繰り返すばかりで何も教えてくれない。私には言えないことなのかもしれないと思って、追及せずに普通に話そうとした。
遥:(過剰に明るく) あ、そうだ! 月末に夏祭りがあるんだけど一緒に行かない? 浴衣とか着たりしてさ! 屋台もたくさん出るし、お好み焼きとかかき氷食べて、射的なんかもしようよ! 花火も上がるみたいだし!
結奈:ごめん、別の子と行って。
遥(N):でも、上手くいかなかった。
結奈:私もう帰るから
遥(N):そう言って早足に帰ろうとする結奈の手を、思わず掴んでしまった。
結奈:……放して。
遥:ごめん、でも、やだ。だって結奈、何か変だもん。私何かした…? もしかして映画見た時!? 映画の内容薄いって言ったの嫌だった?
結奈:……そうじゃないよ
遥:じゃあ何で!?
結奈:……遥は悪くない。
遥:じゃあ、どうして避けるの? ……もしかしたら、言いづらいこともあるのかもだけど、私何でも聞くから! 友達でしょ?
結奈:友達だから!
遥:……え?
結奈:友達だから、だよ。私、遥があんな風に言われるの嫌だ。だから私は遥から離れた方が良いの。私と遥は一緒にいない方が良いんだ!
遥:……なんで?
結奈:……え?
遥:なんでそんなこと言うの!?(泣きそうになりながら)
結奈:だって……だって、私と一緒にいたら、遥まで暗い人だと思われちゃうから(尻すぼみに・遥の涙目を見てつられそうになりながら)
遥:結奈のバカ! そんなわけないじゃん!
結奈:でもっ……だって、でも……
遥:結奈のこと暗いって言ったの誰!? 怒ってくる!
結奈:ま、待って! 誰が、とかじゃないの。でも、たぶん皆思ってるよ……
遥:結奈(諭すように)
少なくとも私はそんな風に思ったこと一回もないよ
結奈:え……?
遥:結奈は優しくて、気遣いが出来て、しっかりしてて、どこに出しても恥ずかしくない、私の自慢の友達だよ
結奈:そんなことないよ(消え入りそうに)
遥:ある! ……あのさ、結奈覚えてるかな? 私、中2の時に部活で上手くいかなくてクラスでもなんとなく弾かれるようになったんだけど
結奈:……。
遥:その時に一緒にいてくれたのが結奈だったんだ。ぶつかられて教科書落とした時に拾ってくれたり、体育の時に一緒にキャッチボールしてくれた。結奈にとっては何でもないことだったんだろうけど、私は本当に嬉しかったんだよ。
結奈は私にとって特別な親友なの。そんな結奈のことを暗いとか言う人は、たとえそれが結奈自身だったとしても許さないんだから。
結奈:……ごめんね、遥。またいつも通りに話してくれる…?
遥:もちろん!
結奈:ありがとう。……大好きだよ。
遥:私も。結奈のことだーいすき! あ、そうだ。夏祭り一緒に行ってくれる?
結奈:うん。一緒に行かせて。
〇 〇 〇
遥:よし、これでおっけー! 良いじゃーん! 似合う似合う!
結奈:そう? 浴衣なんて着るのすごく久しぶりだから、なんか緊張するな。
遥:緊張する必要なんてないない! 可愛いよ(♡)
結奈:やめてよ恥ずかしい(照れながら)
遥:浴衣着てて可愛い! 夏祭り一緒に行ってくれて可愛い! もう存在そのものが可愛い!
結奈:やめてってば! ほら、早く行かないと花火の前に屋台まわれないよ?
遥:照れてる結奈も可愛い
結奈:もう! 話聞いて!
遥:はぁーい
◇ ◇ ◇
結奈:焼きそばにお好み焼きにチョコバナナって食べ過ぎじゃない? お腹大丈夫?
遥:これくらい余裕だよ~! あ、りんご飴の屋台ある。食べる?
結奈:私は焼きそばとチョコバナナでお腹いっぱいだから大丈夫。
遥:あー、だから結奈は痩せてるんだ。大丈夫? 普段はちゃんとご飯食べてる? お野菜もいっぱい食べな?
結奈:お母さんじゃないんだから
◇ ◇ ◇
遥:あっ破れちゃった……
結奈:遥下手すぎ(笑いながら)
遥:金魚が重いのがいけないんですー
結奈:どう考えても遥が勢い良すぎるんだと思うけど?
遥:うっ……じゃあ結奈やってみなよ!
結奈:金魚すくいは確かポイを斜めに入れてすくうんだよね……よっと
遥:えっ? 嘘!? 一発で成功!?
◇ ◇ ◇
遥:よ~く狙いを定めて……ここだ!
結奈:あー、惜しいね。ちょっと右だったみたい。
遥:ん~! 悔しい! あと一発だよね…。少し左にずらして……ここ!
結奈:わ! 当たった!
遥:まあ私にかかればこんなもんよ
結奈:ムキになって三回もお金払ってたのに?
遥:それは言わない約束でしょ!
◇ ◇ ◇
結奈:あ、そろそろ花火始まるって。
遥:おっけー。……にしてもすんごい人ごみだねえ。
結奈:うん。迷子になりそう……。……って遥? 遥! ……わっ!
遥:へへっ。捕まえちゃった。
結奈:……このまま繋いでてもいい?
遥:うん! 花火見えるところまでこのまま行こ!
結奈:……うん。
結奈(N):本当は、ずっと繋いでいたかった。でも、さすがにそんなことは言えなかった。遥と繋いだ手が汗をかいてきて、申し訳ないなと思ったけれど、遥はこれから始まる花火で頭がいっぱいみたいだった。
……やっぱり、手を繋ぐことを特別に思ってるのは私だけなのかな。
手から伝わる体温に勝手に感傷を覚えていたら、いつの間にか花火の見える場所に着いていた。
遥:た~まや~!
結奈:か~ぎや~
遥:え、何それ知らない
結奈:え、知らないのに「たまや」って言ってたの?
遥:え、「たまや」って意味あるの?
結奈:確か花火師さんの屋号じゃなかったっけ
遥:へ~! 知らなかった! 結奈は物知りだなぁ
結奈:たまたま知ってただけだよ。
遥:んー、そんなこと言って事前にちゃんと調べてたりして。
結奈:そんなことない!
遥:あれ? 図星? ごめんって! 花火見よ? ほら! 綺麗!
結奈:なんか無理矢理過ぎない?
遥:そんなことないない! た~まや~! あ、か~ぎや~!
結奈:もう……ふふっ
遥:……。
結奈:……。
遥:そういえばさ、結奈はどの大学受けるとか決めた?
結奈:え、唐突だね。まあ決めてるけど……。
遥:そっか! どこの大学にするの?
結奈:一応、東京の大学にしようかなって。
遥:まさか東大?
結奈:違うって(笑いながら)。女子大。
遥:じゃあ私とは離れ離れになっちゃうな~。地元の共学行こうと思ってるから。
結奈:……そっか。
遥:……何、そんな顔して。寂しくなっちゃった?
結奈:ちょっとね。
遥:心配しないで! 大学入ったら毎日メッセージ送るから!
結奈:毎日はやりすぎでしょ
遥:それくらい結奈との友情を大切にしたいってこと! 私たちはおばあちゃんになってもずっと親友だよ!
結奈:親友……。うん。ずっと一緒にいようね。
〇 〇 〇
結奈(N):夏休みが終わると、学校の雰囲気は徐々に受験に向けたピリピリした空気になっていった。志望校合格に向けて勉強をしては模試を受ける日々。月日は今まで以上のスピードで過ぎていくけれど、その中で「このままでいいのかな」という気持ちが芽生えていった。
最初は「遥のそばにいられるなら親友のままでいい」と思っていた。けれど、ある時、大学に入って男の子と親しげに話す遥の姿が浮かんでしまい、「いつか遥の中に私の居場所は無くなってしまうんじゃないか」と怖くなった。でも、自分の気持ちを遥に伝えるのも怖い。遥はきっと受け入れてくれると自分に言い聞かせても、拒絶されるんじゃないかという不安は消えない。二つの「怖い」の間でグラグラ揺れているうちに、卒業式の日が来てしまった。
今日を逃したら次に会えるのはいつになるか分からない。ずっとタイミングを伺っていたけれど、式が終わった途端遥は友達に囲まれて、記念撮影や寄せ書きをしていた。
結局、2人きりになれたのは最後の帰り道だった。
でもなかなか言い出せなくて、別れ道を目前にして、やっと私は叫んだ。
結奈:遥!
遥:……結奈? どうしたの?
結奈:……聞いてほしいことがあるの。
遥:(結奈の表情から真剣に聞かないといけないと察して)……うん。
結奈:私……私ね……。
遥:……。
結奈:……ずっと、遥のこと好きだった!(泣きそうになりながら)
遥:……。
結奈:私、今よりもたくさん一緒にいたい…! 遥とっ……付き合いたい!
(沈黙)
遥:結奈、それ、本当……?
結奈:(泣きそうな声で)うん。本当。私は遥の恋人になりたいの……!
遥:……実はね、ずっと待ってたんだよ。
結奈:……え?
遥:結奈がそう言ってくれるの、ずっと、待ってた!(ニカッと笑いながら)
結奈:……本当に?
遥:うん。……待ってるなんてずるいよね、ごめん。でもね、私も、怖かったんだ……。結奈との関係が壊れちゃうかもって思ったら、言い出せなかった。
けど、私ももっと結奈と一緒にいたい! ずーっと一緒にいる!!
結奈:遥……!
遥:えへへ……。なんか、照れるね。
結奈:(嗚咽)
遥:何、どうしたの?
結奈:だって、嬉しくて……(泣きながら)
遥:よしよし、泣くなよー、もう(笑い泣きで)。……おし、決めた。私、浪人する!
結奈:……え?
遥:私、結奈と同じ大学行く。一生懸命勉強するよ。だからさ……今度は、結奈が待ってて?
結奈:……うん!!
〇 〇 〇
結奈:う~……なんかすごくドキドキする……
遥:なんで結奈の方が緊張してるの? 私の合格発表なんだよ?
結奈:遥が緊張してなさすぎなんだよ……
遥:だって私の勉強は結奈が見てくれてるんだよ? 大丈夫、大丈夫!
結奈:(そっと遥の手を取って)……って言ってる割に手冷たいよ
遥:うっ……それは、ほら、まだ3月だし! 寒いし!
結奈:ふーん? まあそういうことにしておこうかな。ほら、掲示板に番号貼りだされてるよ。
遥:わっ! えーっと、0807…0807…
結奈:0807…0807…
遥:08……あっ! あった! あったよ!!!
結奈:ほんとだ、ある……!
遥:見間違いじゃないよね……? 0807……うん、やっぱりある!
結奈:おめでとう、遥……!(涙声で)
遥:ありがとう~! ってここ泣くところじゃないよ! 一緒に笑うところでしょ!
結奈:だって……だって……
遥:もー、しょうがない先輩だなぁ。
結奈:遥ぁ……!(抱きつきに行く)
遥:わっ!
結奈:よかった……よかったよぉ……!(泣きながら)
遥:よしよし、これからは一緒ですよ、先輩。
結奈:……ねえ。(不満げに)
遥:なあに、先輩。(ニヤニヤしながら)
結奈:……その先輩って言うのやめてくれない?
遥:だって大学受かったし、結奈は先輩だもん!
結奈:……先輩だと距離感じる。
遥:そう嫌そうな顔しないでよ、先輩
結奈:あ~、先輩をからかうとどんな目に遭うか知らないんだ
遥:あ、もしかして都合の良い時だけ先輩面しようとしてない?
結奈:先輩をからかうとこういう目に遭うんだぞ。えいっ
遥:……手繋ぐだけ?
結奈:……だけ、じゃないよ。ほらっ。
遥:わっ! ふふっ……こっちの繋ぎ方は初めてだね。
結奈:……夢だったんだ、ずっと。これから遥には私の夢をたくさん叶えてもらうから!
遥:いくらでもお付き合いいたしますよ、先輩。
結奈:まずはその先輩呼びをやめること
遥:は~い
結奈:それから……
ずっと、一緒にいてね。
遥:もちろん! 結奈の手、離さないから。
結奈:うん。……ずっと、繋いでいて。