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マウンド傾斜を攻略する大切な要素

本日の現場からは、

【マウンド傾斜を攻略する大切な要素】と題してお話します。

以前、「マウンド傾斜を考える」と題して、マウンドの規定や低くみえるマウンドの謎について記事にしました。
https://note.com/yuhei_takeda_/n/nfad87bab4851

今回は、そのマウンド傾斜をトレーナー業によせて、考えていきたいと思います。

野球現場でのリハビリは、肩や肘といった上肢障害からの復帰がその多くを占めます。
そのリハビリ過程で大きな壁となるのは、平地から傾斜に移行する時です。

平地では順調に段階をクリアしていても、傾斜に入ると痛みがでたり、しっくりこなかったりということは頻繁にあります。

つまり、投球障害のリハビリ過程において、傾斜は厄介ということです。

なぜ傾斜がそんなに厄介なのか、技術的/身体的にどんな変化がおきているのかを考えていきます。



マウンドから投球するとは?


マウンドは25.4㎝の高さと、30.5㎝につき2.5㎝の勾配があります。
傾斜(高さ&勾配)があるので、踏み込み足は軸足に比べて概ね15㎝~20㎝程低い地面に接地することになります。

この軸足より低い位置に踏み込み足があるということは、投球動作を考える上でも重要な要素です。

なぜ重要かというと、投球という運動は、複数のエネルギーによって行われています。
そのエネルギーを紐解くうえで、傾斜は切っても切り離せない要素なんです。



投球時のエネルギーを考える


投球という運動を行うときには、エネルギーが必要であり、そのエネルギーを自ら生み出す必要があります。

投球時に重要なエネルギーは下記の2つです。

慣性の法則を用いたエネルギー
慣性の法則とは、物体は、他から力が働かなければ、静止している物体は静止し続け、動いている物体は、等速直線運動を続けるという法則です。

投球時にこの慣性の法則を有効に使う為に重要になるのが、
軸足で重心を移動させて生み出すアクセルのエネルギーと、踏み込み足で重心の移動を止めて生み出すブレーキのエネルギーです。

位置エネルギー
位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)とは、運動エネルギーの一種で、物体が落下する際に発生する重力加速度のエネルギーです。

非軸足を上げた際に位置エネルギーが生まれ、動き出した瞬間から運動エネルギーに変換されていきます。
この時、位置エネルギーが減少していくにつれて、運動エネルギーが増加していきます。
(エネルギー保存の法則:物体が動くときに、エネルギーの種類は変わるが、その総量は増えたり減ったりしない)
(力学的エネルギー:位置エネルギーと運動エネルギーからなるエネルギー)

簡単に整理すると、
投球は、この二つのエネルギーを基に行われている運動です。



エネルギーを有効に使う為には


マウンドから投球する時は上記3つのエネルギーがあります。
このエネルギーの中で、最も大切なエネルギーはどのエネルギーでしょうか?


正解は、踏み込み足で生み出すブレーキのエネルギーです。

どういうことかというと、
慣性の法則では、動いている物体は動き続けるので、軸足で生み出したアクセルのエネルギーによって物体(体)は等速直線運動を続けようとします。これを逆手にとり、ホーム側に進み続ける物体(体)を、踏み込み足で止めることで、物体(体)は踏み込み足の股関節を中心に回旋、屈曲します。

踏み込み足で受け止めた直後に腕が最大加速し、速いボールを投げることが出来ます。

踏み込み足で生み出すブレーキのエネルギーが機能することで、慣性の法則の力を最大限活用することが出来ます。



傾斜を攻略するには


ここまで話すと、もう攻略の糸口が見えてきていると思います。

ボールを投げる際の必須事項として重心移動があります。
これは、トレーナーはもちろん選手やコーチでも当たり前のように、感覚的にも運動学的にも理解していることです。

その重心移動をアシストしてくれるのが、傾斜です。

つまり、平地に比べ傾斜は高さがある為、出力が増します。
しかし、ここで注意しなければいけないのは、増える出力は位置エネルギーとアクセルのエネルギーのみだということです。

人間は素晴らしい生き物で、自分が耐えられない出力は出ないようになっています。
2m程の高さからジャンプは出来るかもしれませんが、3階からジャンプしようとは思いませんよね?
経験的な情報を基に、出来る事、出来ない事を脳が勝手に判断しています。

つまるところ、
ブレーキが耐えうるアクセルのエネルギーしか出せないようになっています。

ポルシェが世界最強のブレーキを作ることに注力していることは有名な話ですよね。
人間の体もまったく同じです。

平地で上手くいっていて、そのイメージのまま傾斜に入ると、アクセルだけが増して、ブレーキが追いつきません。
そうなると、体が勝手に出力を出させないようにどこかでブレーキをかけます。
これによって、自分ではコントロール出来ない魔の力が働き、動作を破綻させます。

特に、重心移動の際に、軸足で地面を蹴ったり押したりしようとする(アクセルのエネルギーを重視している)選手は上手くいかないかもしれません。

ついつい速いボールを投げたいと思い、アクセルのエネルギーばかりに気が行きがちですが、アクセルのエネルギーを最大限活用する為には、ブレーキのエネルギーが最も大切です。

アクセルのエネルギーを与えてくれる傾斜を上手く使う為には、ブレーキのエネルギーを最大限発揮できるような体の使い方や筋力が必要です。

まずは最強のブレーキを作ってから傾斜に入り、最速のアクセルを踏みましょう。
それが、傾斜を攻略する大切な要素です。

*今回は、骨盤回旋速度や指先の機能については触れていません。
*等速直線運動は、摩擦力などの影響も受けます。

というわけで、
【マウンド傾斜を攻略する大切な要素】と題してお話させて頂きました。
本日も、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
気づきのキッカケになった方は、いいねやフォロー、シェアなどを宜しくお願いします

それでは、この後も心身ともに充実した時間をお過ごしください

以上、現場の竹田祐平からでした。


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