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「聴覚障害児の逸失利益85%」に遺族控訴。衆院法制局では立法的解決に向け検討も

「落ち度のない娘の障害で減額、腑に落ちない」

2月27日に出た、「聴覚障害児の逸失利益を85%」とした大阪地裁判決を不服として、事故死した井出安優香さんの遺族が3月10日付けで大阪高裁に控訴したことを、NHKなどが報じた。

安優香さんの父・努さん「大阪地裁の判決を聞いたときは茫然とした。落ち度のない娘の障害を理由に賠償金を減額するというのは腑に落ちない。今後、同じように苦しむ人が出ないようにするためにも、世の中を変えるためにもやれるところまで闘っていきたい」と読売テレビのインタビューで語った。

またABC放送は、被告側の代理人弁護士にも取材し、「何も答えることはできない」としたことを報じた。

NHK関西

朝日新聞

産経新聞

日本経済新聞

読売テレビ

ABC放送

MBS放送

関西テレビ

2020年から3年にわたった裁判がさらに長期化することになった。今後の見通しでは、4月29日までに遺族側が控訴理由書を大阪高裁に提出することになる。

「後退的判決」大阪聴力障害者協会

安優香さん裁判への公平な判決を求める署名用紙の入った封筒(2月15日筆者撮影)

遺族を支援し、公正な判決を求める署名運動を展開してきた大阪聴力障害者協会は、判決を受けて、声明を発表した。

大阪府立生野聴覚支援学校生徒交通事故裁判で、遺族が約6100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地方裁判所は2023年2月27日、約3700万円の支払いを命じました。判決は、「聴覚障害者は聞こえる人よりコミュニケーション能力が劣っているので、労働能力も劣るという医学的モデルに基づく個人の責任を理由として逸失利益は、労働者全体の平均賃金の85パーセント」とし、遺族が求めた損害賠償額を認めませんでした。これは、聴覚障害を理由に基礎収入を下げたことにあり、明らかに障害者を差別する不当判決で、当協会は、到底承服することはできません。
 2018年2月1日、大阪府立生野聴覚支援学校前の交差点に突っ込んできた重機にはねられて、井出安優香さん(当時小学5年生)が亡くなられた痛ましい事件がありました。この事故は日本聴力障害新聞2021年4月1日号(第856号)で報道されました。
 遺族は2020年1月に加害者と加害者の元勤務会社(建設会社)を相手取り、大阪地方裁判所に民事訴訟を起こしました。
 当初、加害者と加害者の元勤務会社は、安優香さんが聴覚障害者であることを理由に逸失利益の基礎収入を、きこえる女性労働者の40パーセントとすべき、理由として聴覚障害者の思考力や言語力・学力は、小学校中学年の水準に留まると主張してきました。当協会は、逸失利益の算出に、障害を理由として数字を低く見積もることは障害者差別であり、優生思想ともみなされる問題とみて2021年5月から、公正な判決を求める要請署名運動を開始しました。
 1ヶ月で、全国から目標の署名数1万筆をはるかに超える101,685筆の署名(電子署名含む)が集まり、2021年7月7日に大阪地方裁判所 第15民事部へ提出しました。これがきっかけとなったのか、被告側が2018年当時の聴覚障害者の平均賃金で算出するという内容の主張を変えてきましたが、障害をもたない男女全体の平均賃金の6割にとどまるという差別的な内容は変わりないままでした。
 この署名運動は2023年1月まで続き、115,197筆もの署名を集めることができました。これは全国のなかまが、差別的な考えの内容を許さず、差別のない公正な判決を望んだことの証です。
 障害者権利条約の理念である障害者への合理的配慮の提供をはじめ、障害を理由とする差別の禁止、国内での障害者差別解消法、障害者雇用に関する法律などがつくられ、デジタル技術の発展でコミュニケーションツールが進んでいるにかかわらず、判決は、障害がある人が障害のない人と変わりなく働きながら力を発揮していく道を切り捨てました。まさに、社会モデルに謳われている社会的障壁をなくし、共生社会の実現を推進している国、司法が障害者差別をしてもよいと言っているのと同様の後退的判決内容です。
 当協会は、全国から集まった115,197筆の署名の想いを込めて、今回の判決に抗議し、差別のない社会の実現に向けて、全国のなかまとともに運動をさらにすすめてまいります。

大阪聴力障害者協会

「『未就労児は全人口平均で』推定規定する法律を」米山衆院議員

法務委員会で質問する米山議員(衆議院インターネット中継をキャプチャー)

3月8日の衆議院法務委員会で、米山隆一衆議院議員(立憲民主党)が、大阪地裁判決に関連づけて逸失利益に関する質問を行った。(衆議院インターネット中継はこちら。逸失利益に関する質問は3:05:00~3:10:20)

米山議員からの、障害により子どもの賠償に大きな影響が出ることについて一般論からの所見を求める質問に対し、金子法務省民事局長と齋藤法務大臣は「逸失利益は命に値段を付けるものではない」と答弁した。

米山議員に、法務委員会で質問したことについて公式サイトから問い合わせたところ、「弁護士として同様の事件を扱っており、この問題について非常な理不尽を感じていた。まだ衆院法制局と打ち合わせ段階だが、立法的解決が可能ではないかと考えており、その目途が立った時点で、自民党も巻き込んで議連なりなんなりを作って議員立法を行えればと思う」と答えた。「立法の理屈として、現在働いている人の逸失利益の計算は現在の給与に基づくが、未就労児の逸失利益は健常児であっても『18年後に現在における平均的な賃金を稼ぐと推定される』という推定でしかなく、健常児でも知能指数で区分けすることなく全人口の算術平均値が使われる。そうであれば、未就労児の将来の賃金についても、全人口の算術平均で推定しても理屈上は問題なく、そのような推定規定を設ける法律を一本作れば、損害賠償論の細部に立ち入ることなく解決可能なのではないかと考える」

米山議員は、医師免許を持つ弁護士として、先天的障害のある子ども患者の死亡に伴った医療訴訟にも携わった。その時には、病院側が賠償額ゼロを提示し、両親側は納得できないという構図になり、様々な主張や反論を経て妥協点を見つけ、和解に持っていく状況だったという。

立法的解決に向けて、超党派で進むか。

米山議員の法務委員会での質問について、井出努さんは、「娘は本当にたくさんの足跡を残す子だと私は驚くばかりです。良い方向に進むことを期待しております」と語った。

2024年8月20日追加・裁判所HPに掲載された一審判決の全文。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/931/091931_hanrei.pdf


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長谷川祐子(長谷ゆう)/ライター・翻訳者・ジャーナリスト/「ノルマル17歳。」神戸自主上映会企画中
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