「直感」文学 *夜の訪問*
ポスターを見たのは、13日だった。
その晩、既に占められているシャッター脇に、寂しそうに、だけど強く主張していたそのA4版のポスターを僕は少しの間見つめてしまう。
「……ああ、そういえば、元々そうだったよな」
暖かい息は、冷たいこの空気の中で白く染まる。時計を見る。日付は13日だった。時間は22時を過ぎようとしていた。この店は何時に閉まるんだろうか……。
次の日、同じ店の前に僕はいた。
時計は20時を少し回っていた。日付は14日。シャッターは空いていたが、ガラス製のドアの内側にあるブラインドがドアの半分の高さまで下ろされていた。
ガラスをたたく。「すみません!すみません!」
中から若い女性が一人顔を出した。なんでしょうか?という顔を向けて。
「買いたいんです。ちょっとなんですが、買いたいんです」
僕はその店にあるたくさんのそれらを指差しながらそう言った。女性はドアを開けた。
「遅くにすみません。もう終わりですか?ちょっとだけでいいので包んでもらえないでしょうか?」
彼女は軽く笑った。
「どうぞ」と言いながら僕を中へと促した。
全然分からない様子を見せていた僕に対して、彼女は
「好きな色とかありますか?」と聞いた。
「うーん、そうだな。ピンクと黄色が好きだったかな……」
「可愛らしい色ですね。分かりました」
彼女は次々と手に取り、それらは一つの束になっていった。僕は会計を済ませ、もう一度頭を下げた。
「閉店後にすみませんでした」
「いいえ、いいんですよ。今日は、そういう人が多いんです。だってうちの営業時間は18時なんです。だけど次々お客様は訪れます。今日はそういう日なんです」
「僕これを昨日見て、ここで買おうって決めたんです」
「ああ、そうなんですね。でも今日で終わりですね」
彼女はそう言って、ポスターを剥がした。ポスターに書かれた「フラワーバレンタイン」という言葉が風に揺られていた。
「これ、とても綺麗です。きっと喜んでくれると思います」
僕はそう言って店を後にする。右手に持ったその花束は、暗い夜道を照らしてくれているかのように明るく、静かに揺れていた。
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